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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第五部 ファナティック編

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487 遠くと近く

 残り四日。メイは朝早くから神棚の掃除をし、祈りを捧げていた。祭壇には瑞々しい花と果実、カピ神の好きな甘いお菓子にマモ神の好きな可愛らしい物――新しく縫ったぬいぐるみをお供えする。


「――……」


 恒例の祝詞を唱えた後、少し黙って祭壇を見る。相変わらず力が接続される感覚はあるが、他のコミュニケーションは断たれた状態だ。それでも此方の言葉は届いていると願って、前日にあった事や今日の予定などを世間話のように伝え続けていた。一度は虹が空に掛かって反応らしきがあったが、以降はそれも無い。


「……神の議会が終わったら、またお話出来るよな?」


 寂しそうにぽつりと呟くと腰を上げた。二階の集会所から一階へ降り、朝食を作っているリョウの手伝いをする。


「メイさん今日の予定は?」

「今日は午前に死の土地再生と畑の見回りかな。午後はこれといった用事は入ってねえから、編み物の続きや皆の手伝いでもしようかと」

「あ、じゃあ午後一緒に海上都市まで買い出し行かない?」

「買い出し?」


 何の買い出しだろうと瞬くと、リョウがポケットからメモを取り出した。


「えーとね、あっ読み上げなくてもいいか。ジスカールさんから頼まれた食材とかハーブとか色々だよ。ほら、議会に行くタイミングでファナティックさん帰っちゃうじゃん? その前に送別会までは行かないけど、ジスカールさんが手料理を作ってあげようって事で」

「はぁ、成る程なぁ……!」

「で、幾つか足りない食材とかがあるって事で。ジスカールさん今忙しいから代わりにね。メイさんも気分転換になるんじゃないかな」


 気分転換という言葉に目を丸くすると、リョウが少し笑った。


「ここ数日物凄くやる気を出してるでしょう。水を差す気は無いんだけど、根を詰め過ぎても疲れちゃうかなーって。そういう意味でね」

「わぁ、お気遣い頂いて……! 折角だからおらも行こうかな……!」

「うん、じゃあ一緒に行こう。最近デートも出来てないしね」

「ふへぇ、確かにそうだな……!」


 気遣いが嬉しくてメイの顔にも笑顔が咲いた。そうして午後、二人で海上都市の商業区画へと向かう。大通りの食材店などを見て回り――支払いは勿論ケンから預かっている無制限の無敵手形だ、で必要な物を買い揃えた。


「ケンどんの世界は本当に何でもあるなぁ」

「本当にね、ガチョウの脂なんて村じゃ用意出来ないもんな」


 あらかたの買い出しを済ませて、今はカフェでお茶をしている。お勧めと言われたのでアフタヌーンティーセットを頼んだのだが、思った以上に豪華でテーブルの上はパーティーのようだった。スタンドに並べられたスイーツと軽食は芸術品のようだし、茶器も繊細で趣味が良い。見た目以上に味まで良くて、海上都市のレベルの高さに唸るしかない。花の浮いた季節の紅茶を飲んで、メイがほっと息を吐く。


「リョウどん、チョコレートの方はどうだ?」

「もう殆ど完成してる。後は各自に見て貰って最後の微調整をして完成だね。ファナティックさんが帰るまでには用意出来るよ。メイさんも後でチェック宜しくね」

「へぇ、楽しみにしとります……!」


 チョコレート計画も完成間近。他にも情報交換したが、食料の備えや日常業務の小人への引継ぎなどはきちんと出来ているようだった。


「もう後四日だよ。何だか緊張するなあ……!」

「リョウどんは天界行った事無えんだよな?」

「うん、無い。入り口まではあるけどね。メイさんは?」

「おらも無えです」

「あ、そうなんだ。大聖女だから一度位はあるかと思ってた」


 その言葉にメイが眉を下げて笑う。


「神様とはお祈りで繋がっとるだけで、直接会った事は無えんだ。それに天界へ踏み入る事が出来た人間なんて、死者でもなければ早々聞かねえでしょう?」

「確かにそうか。タツさんは元々神様だし――ケンさんは置いといて、他は事情があったり何だりだもんね」


 確かカグヤが身を隠した際に匿われていたのだったか。リョウとて直接神に会ったのは、この世界に来る直前。滅びを願って神の山を登った時だけだ。


「だども、夢でお会いしてお姿は知っとります」

「あ、そうなんだ。メイさんの前の世界の神様だよね。どんな方なの?」

「見た目は上品で素敵なお婆ちゃんです。とーっても優しくて、あったかで、おら本当にあの方をお慕いしとりました」


 前の世界の神の事を思うと、強い郷愁と罪悪感が湧き上がる。同時に、深い感謝と今幸せな姿を見せたいという気持ちも強く浮かんだ。思わず目頭が熱くなり押さえると、リョウが慌ててハンカチを差し出す。


「何か思い出させちゃったみたいでごめん……!」

「いいんだぁ。あの方への想いは、カピモットの神どん達も許してくれとります」

「……多分だけどさ、お婆ちゃんなんだよね? カピモット神達って子供の姿じゃん。お年寄りって事は結構位が高い神様なんじゃないかな?」

「……? 確かに、そうかもしんねえ……?」

「これを言うのは僕としても複雑なんだけれど、前にファナティックさんに言われてさ。簡単に言うと僕の世界よりメイさんの世界の方が強いんだよね……」


 以前ファナティックと面談した時に 「言うなればアナタの世界は勇者の冒険でいう所の『スタート地点の村』で、聖女の世界は『後半の魔物が強くなってきた辺りの村』という事でェす!」と言われているのだ。これまでガンにしか言っていなかったが、恥を忍んで告げるとメイが驚いたように目を瞠った。

 

「僕の世界の神様は、十代位に見えたよ。見た目年齢と神様や世界の強さが一致してるとは限らないけど、可能性はあるじゃん?」

「へぇ、確かに……」

「だから、議会でも結構前の方の席に居るんじゃないかと……!」

「……!」


 何の話だろうと思っていたら、自分を元気付けようとする為の話だった。目を丸くしていたメイが、理解してからくしゃりと微笑む。


「……そしたら、近くでお姿が見られるかもしんねえな」

「うん、きっと見れるし――見て貰えるよ」

「ありがとう、リョウどん。おらが今どれだけ幸せか、ちゃんと見て貰わねえと。それに! おらのリョウどんの事も見て貰わなきゃ……!」

「そ、れは僕が急に緊張してくるやつ……!」


 急に彼女の親に値踏みされるような心地に陥る。若干ぎくしゃくしながらも、心を落ち着けて紅茶を飲んだ。


「いやけど、本当メイさんと神様の関係って素敵だよ。何だろ、家族みたいな……ちょっと違うかな。本当に大事な良い関係っていうか。嫉妬もわかないやつ」

「ううん、言葉にするのは難しいんだども……あの方に関してはおらをいつも見守って導いて下さった――家族は近い気がするけど、やっぱり神様かな……?」

「本当に良い神様と信徒の関係……かな? 僕そういうの無かったからな……!」

「リョウどんはなあ……!」


 リョウにとって神とは、あらゆる難題を持ち込んで来るクソ上司のようなものであった。なのでメイの気持ちは全然分からないが、見ていて良い関係だと思う。


「だから今の神様に代わってからは気楽だよ。無理難題とか無い――いや、無くはないけれど、更に上の神様からのものだし、皆が居るし……!」

「ふふっ、今の神どん達もおらは大好きです! 優しくて、可愛らしくて、心からお仕えしてお守りしたいと思っとります!」

「それは僕も思うかも。神様だから守りたいっていうのは失礼かもしれないけど、やっぱり外見が子供だからかな。一緒に頑張って行こうって気になるんだよね」


 メイがうんうんと同意を示して頷く。


「最近連絡は取れねえけど、お力はちゃんと接続出来るし元気だと信じとります。議会でなら会えるだろか?」

「うーん、会えるとは思うけど遠くじゃないかな……? タツさんの世界の神だってほら、新参の末席って言われてたし……」

「ああ……」


 議席が神の格で決まるのなら、確かにカピモット神は遠くに居そうだ。まだ若く未熟な神の上、前の世界では失敗をしている。そう思うと少し顔が曇ったが、すぐにメイがパッと顔を上げた。


「リョウどん、双眼鏡も買って行こう……!」

「タツさんみたいに……!?」

「んだぁ! どんだけ遠くてもおら、神どん達を見付けてみせますっ!」


 豆粒だろうと元気な姿を確認出来れば安心できる。そう思って力強く頷いた。リョウもすぐに笑って同意してくれて、帰り道は双眼鏡も買って帰る事にした。

お読み頂きありがとうございます!

次は明日更新予定です!

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