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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第五部 ファナティック編

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484 叙勲

 皆の属性を出した後、一応慰めのように――特に『人』単体だったカグヤが顔を覆っていたのでファナティックが最後に添えた。


「まあこうして出しはしましたが、属性が全てではアリませんのでそこまで気にせずゥっ! あくまで生まれ持ったり生きている内に得た特性や性質という感じで受け止めておいてくださァいっ! 『人』属性単体だからといって、『神』属性に刺さる攻撃が出来ないというワケではアリませんでショうっ!?」

「はっ、確かに……!」

「そうだよ、属性が多くたってわたしはカグヤみたいに戦えない」


 これらはあくまで、もし戦いになった時の為の目安であり補足なのだ。

 

「拙者がピンポイントで慰められているような気はいたしますがっ! しますがっ! 全てではないならよしっ! 今後も頑張るでござるよ~っ!」

「うむ! それで良い! では本日は解散!」


 今日の所は此処まで。明日からに供えて皆寝床に向かって行った。



 * * *


 翌日。神の議会に出席するまで残り六日。

 二泊三日の外出という事なので、当然リエラの世話も村に居る者へ任せる事になる。これまでは必ずジスカールかウルズスかジラフかメイが居たが、今回は全員不在になってしまうので今の内から練習を始めていた。


『リエラ、いい? もう何日かしたら、ぼくら出かけないといけないんだ。リエラはおるすばんになっちゃうから……』

『やー!』

『やだよね! わかるよ……! けど神さまのごようじだから……!』

『やー! やー!』


 ジスカールがベルの手伝いで忙しくしているので、ウルズスがリエラの説得と練習を請け負っている。が、難航していた。普段は大人しく誰の世話でも受け入れるリエラが、パパもママもにいにも――メイも他の村人達も居なくなると知った途端にイヤイヤモードに入ってしまった。


『にはくみっか! にはくみっかだけだから! 2回夜がくるだけだよ!』

『やーあー!』


 リエラが泣き叫んでウルズスにがっしりと抱きつく。なだめてもすかしても駄目だった。


『うう……どうしよ……』

「モイ……」


 皆が不在の間、リエラのお世話を請け負ってくれる女小人達も傍らで困り顔をしている。今日から一緒にお世話をして貰って慣れさせようと思ったのだが、イヤイヤモードなので女小人が近付くだけで威嚇してしまう。普段そんな事は無いのだが、今受け入れたらにいに達が居なくなってしまうと分かっているようだった。


『どうしよ……ジスカールよんでこようかな……いそがしいかな……』

『やーあー!』


 リエラをぎゅっと抱き締めて背中を叩いてあやしてみるが、全然治まらない。最初はジスカールがリエラに話そうかと言っていたのだが、忙しそうだからウルズスが『ぼくがはなすよ!』と請け負ったのだ。なのでもう少しお兄ちゃんとして頑張ってみたい。どうしても駄目だったらジスカールかジラフに頼ろうと思った。


『リエラちょっとおさんぽしよ!』

『にいに、やー!』

『きぶんてんかんだよ!』


 女小人達にちょっと待ってて、と頼んでからリエラを抱っこしとことこ歩き出した。ジスカールも言っていた。女性が感情的になっている時に正論をぶつけるのは悪手だと。どんな内容だろうとまずは共感してひたすら寄り添うのだと。


『はなれるのやだよね、リエラ。ぼくもやだよ』

『やー!』

『ぼくもジスカールとはなれちゃった時あるからわかるよ。さみしいしこわいよね。ふあんだよね。リエラはまだ赤ちゃんだからもっとだよね』

『やーあー!』


 そう、二泊三日とはいえリエラはまだ赤ちゃんなのだ。いつも居る家族が居なければ不安で仕方ないだろう。赤ちゃんだから今回の事情だって分からないだろう。


『ぬん……』


 あやしつつ村の中をゆっくり歩きながら、途方に暮れて唸った。気持ちが分かるだけに、もう行かないのが一番ではないかという気持ちになってしまう。


『ぼくだけでも残って……いやけど、ジスカールをひとりにするのは……』


 議会というのは話し合う場所だと聞いた。話し合いだけなら大丈夫かもしれないが、全然知らない場所だし、ひょっとしたら戦いになるかもしれない。相棒としてジスカールだけ行かせるのは無しだった。


『ぬん……リエラ……どうしようか……』

『やーあ!』


 ほんの少しだけ落ち着いたリエラが、涙目でにいにの毛を引っ張る。大変に不満を訴えているようだった。途方に暮れてしまって思わず小道の途中で座り込む。


『おヤ、ウルズスとリエラ! どうシましタか!』

『あっ、ロボ太郎……!』

『ろびー! やー!』


 花壇の世話の途中らしく、ロボ太郎が如雨露じょうろを手に飛んで来る。リエラがロボ太郎を見付けるとすぐ“べそ顔”でアピールした。


『リエラ、何かあったのデすか?』

『にいに! やーもん!』

『あのね……』

 

 リエラの必死の訴えに、ロボ太郎がキュイと首を傾げる。座り込んだウルズスがしおしおの顔で事情を説明した。


『成ル程……! ソれでリエラはご機嫌斜めなノでスね……!』

『ぼくもうどうしたらいいか……!』

『やーあー! やーもん! やー!』

『わああ、リエラあばれないの……!』


 抗議の暴れを開始したリエラを必死でウルズスが宥めている。その様子を眺めてロボ太郎が少し黙った後、二匹の前まで降下した。


『ワタシがお世話すルのはどうデしょウか?』

『ロボ太郎が?』

『ハイ。リエラが個別認識しているのはよく世話をする人間とウルズスとワタシだけデす。小人達は個別認識しテいないと思ウのデ、余計に怖いのデハないかと……?』

『な、なるほど……! ロボ太郎はこのまえされたもんね!』


 それはワンチャンあるかもしれないと思った。リエラの感触はどうだろうと思って視線を向けると、ひとまず暴れるのはやめたようだった。


『うー……ろびー……』

『リエラ、ウルズス達が居ナい時はワタシが一緒に居まス。どウでスか?』

『うー……うー……』


 物凄く悩んでいるようでリエラは唸っている。だが、即座に『やー!』が出ないだけ可能性を感じた。最近よくロボ太郎と遊んでいるから、家族ではないけどロボ太郎は『ともだち』という認識だろうと思われる。それでも葛藤があるらしい。


『うー……』

『ガガ……失礼、通信が入りマしタ』

『……?』

『スぐに戻りまス。お待ちヲ!』

『えっ、あっうん』


 通信が入った途端、ロボ太郎が何処かへ飛んでゆき――すぐに戻って来た。再び二匹の前に着地し、何だか恭しく跪く。


『!?』

『リエラ、ウルズス達が居ナい時はワタシがアナタを守りまス。ワタシをアナタの騎士ないとにシてくださイませんか?』

『!?』

『……!』


 驚きでウルズスの眼がまん丸になった。恭しく跪いたロボ太郎が恐らく今摘んで来たのだろう、綺麗な花を一輪リエラに差し出している。


『ろびー……』


 この絵面にウルズスは覚えがあった。最近リエラが気に入って、毎晩ジスカールに読み聞かせをして貰っている絵本のシーンだ。少し台詞は違うが、花を差し出すところと『あなたの騎士に』という所はまったく同じだった。


 ぴんときて辺りを見渡すと、集会所の二階から手を振るジスカールとガンの姿を見付けた。恐らく遠目に事情を見て取り、ジスカールがガンにロボ太郎への通信という名の“入れ知恵”を頼んだのだろう。


『……!』


 ウルズスが何も言えないでいる内、リエラがまんざらでもない風で――何ならプリンセス気取りで花を受け取った。そして、こくりと頷く。


『……! ……ッ!』

『ろびー、あい!』

『アりがとウございマす! リエラ! 今日からワタシはアナタの騎士でス!』

『ま、まっ……まって……』

『ろびー!』


 リエラが上機嫌でウルズスからロボ太郎へ飛び移った。お姫様抱っこをして貰い、プリンセス気分でにこにこしている。それを見て“にいに”は地面に膝を付いた。


『お、おにいちゃん! まだみとめてないからあああ……っ!』


 なにせ絵本の結末は、プリンセスと騎士が結ばれるのである。この日初めてウルズスは『かわいい妹が他所の男に持って行かれる』という気持ちを味わった。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日更新予定です!

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