482 属性
夕食の席。トルトゥーガは試練後に差し入れを届けて以降の事情を知らないので、改めて今回の話を説明した。
『やあ……成る程……そんな事が……』
「一週間後だ。トルトゥーガさんも来てくれるな?」
『やあ……うん……』
同行には少し考えた後に頷いたのだが、何やら不思議そうな顔をしている。
「どうした?」
『やあ……天界……上天界……?』
「うむ、そうだぞ」
『やあ……カイは……行って大丈夫なのかい……?』
「私ですか?」
不思議そうな表情のまま、トルトゥーガがカイを見る。皆が怪訝に思うが、その直後電撃的に理解した。
「そ、そうじゃん! カイさん魔族じゃん! 魔王じゃん!」
「天界なんて行って大丈夫なのカイ!? しかも上天界よ……!?」
「そういえばそうですね!? 私大丈夫なんですか……!?」
「どうなのだファナティックさん……!」
「まあ相性は良くないですけど入った瞬間死んだり蒸発なんて事は無いんじゃないですかねェ……?」
「完全に見込みの発言じゃねえか……!」
普通に『出席して貰います』と言われていたから何となく受け入れていたが、言われてみれば確かにそうだ。
「トルトゥーガどんよく気付いたな……!?」
『やあ……今も海から陸に来ているし……天界はわたしでも行ける場所なのだろうかと思って……それで……』
「ああ……!」
普段海中で暮らすトルトゥーガとしては、新たな場所となると陸地のように『まず行けるだろうか』が先行する。
「白い世界は全然平気だったので気にしてませんでしたよ……っ!」
「そういやあそこッて何なんだ?」
「アナタ達が世界を移動する際に経由した場所ですよねェっ? あそこは次元の狭間内にあるステーション的な場所ですゥっ! 属性としては無属性なので魔王でも全然平気だったでショうっ!」
「天界って光属性とか聖属性じゃないの!? 大丈夫!?」
場の属性的に存在するするだけでダメージを食らう場所だったら拙い。皆が若干焦り始めるが、ファナティックが『ンー』と首を傾げて算盤を取り出した。
「天界は属性としては『神属性』ですよ。まあちょっと計算しますゥっ!」
「光属性と聖属性と神属性って何が違うんだ? そもそも属性ッてのが分からん」
計算し始める傍ら、ガンが分からん顔で問うた。
「属性はですねェ、分かりやすい所で言えば陰陽五行や地水火風。そのものが持つ属性の事ですっ! 基本的に同属同士は相性が良く、他属同士では相性が良いものと悪いものに分かれますっ! 相克といって片方が片方に勝つ場合もありますし、相殺や互いに特攻という場合もありましてその辺りは世界によりけりっ!」
「そのもの、って人間とかにもあんのか?」
「アリますよォっ! 属性で肉体が出来ている精霊程ではありませんけどねっ! 人間ですと気性や『火の魔法が得意だけど水魔法が下手』なんて形で表れますゥ!」
ぱちぱちと算盤玉を弾きながら、大変ざっくりと説明する。
「火と水、光と闇の相性が悪いのは最早物理で分かりますよねっ?」
「あァ」
「地水火風に光と闇、まあ雷なんかもアリますがざっくり説明なので置いといてェ! この辺りは物理的にも相反するものですっ! 勿論性質や魔法的にも相反しますゥ! 勇者が光で魔王が闇と思えば分かりやすいでショうっ!」
「基本的に相反するものって事だな?」
確認にファナティックが頷く。リョウとカイは仲が良いが、それはこの世界で和解しただけであって生物としての性質や属性的には真逆である。
「そうですっ! そして少し特殊なのは聖属性と魔属性っ! これは物理ではなく精神世界の分野、性質や魔法的な属性ですっ!」
「聖属性の対極が魔属性なのか。悪とか邪じゃねえんだな?」
「闇属性と魔属性を持つ者の中に邪な者が多いだけで、闇・魔属性イコール悪ではないんですよねェっ! そこな魔王もそうでショう?」
「確かにカイさんは悪人じゃないねえ……」
そう聞くとあくまで各種族というか生物的な属性なんだなと思いガンが頷く。
「まあ他にもあるんですけどね属性! 分かりやすいのでそこな龍王を引き合いに出しますが、龍王の場合は『龍・水・聖・神』属性を持っておりまァすっ!」
「龍と水は分かるけど聖と神は何だか笑ッちまうな」
「失敬な! 元神じゃぞ……!」
「そして聖女の場合は『人・地・聖』といった所ですか。元々の『人・地』に加えて修行と神の加護で『聖』を得た感じですっ!」
「ふむふむ」
人は恐らく人属の人で、地は巨人族の性質か何かだろう。
「そして『神』属性ですが、これはもう神もしくは神に連なるもの、あるいは神の域に達した者へ付く属性ですねっ! 天界の住人で神属性を得ていない者は居ないのではないでショうかっ! 吾輩も紅薔薇も付いてますっ! 其方の海の星王もお持ちですねっ!」
「神属性の対極は何なのだ?」
「無いですっ! 強いて言えば神属性の対極は神属性ですっ!」
きっぱりとした『無い』に皆目を丸くした。
「神属性は特別枠っ! 相性的にいえば全ての属性に均等に強いですゥっ! なので神属性に関しては魔王だからどうのというのはアリませんっ!」
「人間でも龍でも魔王でも同じく特攻という事か」
「そうですっ! ただしっ、神属性単体という事はまず殆どアリませんのでェっ! 天界の神でいえば全ての神々が神属性を持った上で、更にそれぞれの属性を持っておりますっ! 特に聖属性と光属性持ちが多いので魔王には辛いかもしれませんという話でしてェっ!」
簡単に纏めると、上天界自体は『神属性』なので立ち入る分には魔王どうの関係無く降り掛かる属性不利は皆平等である。ただし、神の多くはカイの苦手属性なので近寄ったり揉めたりした場合はダメージがあるかもしれないという事だ。算盤玉を弾き終えて、ファナティックが顔を上げた。
「という事で、計算終わりましたァっ! 今回出席予定の皆様ですが、神属性持ちなら体調良く寧ろ地上よりパフォーマンスアップしていると感じられるでショうっ! それ以外の方達ははちょっと重力増したかな? とは思うかもですゥっ!」
「重力か……」
「聖・光属性の神々が多いですので、接触する際はお気を付けをっ! 魔・闇属性をお持ちの場合は気分が悪くなったり体調を崩すやもしれません――が、接触は禁じられているので大丈夫かとっ!」
確かにそもそも他世界の神との議会以外の接触は禁じられているのだった。
「つまりまとめると、まあ大体大丈夫だろうという事ですねェっ! 御安心!」
「うむ、説明御苦労! 大体理解した! ちなみにこの中で魔・闇属性持ちというとカイさんだけか?」
「紅薔薇の一番弟子もそうですねェっ! 『魔』女族ですしっ!」
「質問良いですか?」
「ハイどうぞ魔王っ!」
カイが挙手し、ファナティックが元気よく促した。
「試練の最中に神っぽい形状の恐らく『神聖属性』の敵が出ましたよね」
「ええ、出しましたねっ!」
「対極として『穢れ』をぶつけましたが有効でした。この場合は『神と聖』の『聖』に作用したという認識で合っていますか?」
「合っていますっ! 良い質問ですねェっ! 神属性単体なら割と無敵なんですが、殆どの神々は複合ですので弱点属性は存在しますっ! ただ神属性を持ち合わせている分、ただの『聖』属性よりはダメージが軽減されているという感じでっ」
「成る程……!」
それなら不利なだけではないのだと少しの安堵があった。戦いになる事を想定した場合だが。
「ふぅむ、万が一必要になるかもしれん。今の内に全員の属性を確認しておくか」
「よろしいっ! では全員教えて差し上げましょうかァっ!」
ケンの促しで、ファナティックが順番に各自の属性を出し始めた。
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