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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第五部 ファナティック編

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481 タツ相談室

 解散した後、タツは滅茶苦茶カグヤに絡まれていた。牧場の厩舎。タツは山羊の乳搾りを、カグヤは掃除をしている。


「何で儂なんじゃあ! メイ殿はどうした!?」

「メイ氏は朝食の後すんごく奮起してお祈りとか鍛錬とか畑仕事とかバリバリしてるでござるゥ! 拙者もう眩しくてェ……!」


 朝食の最中は不安な表情を見せていたメイだが、その後は完全に切り替え寧ろ奮起していた。世話になった前世界の神と会えるかもしれない。会えなくても神の方は自分の姿をきっと見てくれるだろう。その時に恥じない姿でありたいという思いは強く、この世界の在り方を問われるかもしれないというケンの言葉も影響していた。この一週間で誠心誠意己と世界に向き合い、精神統一を図ろうとしているのだ。それが何とも切り替えの下手くそなカグヤには眩しい。


「タツ氏は? タツ氏はこの一週間何をするでござる!?」

「儂は仕事が終わったら海上都市でエステじゃわい!」

「この人ホント彼女の事しか考えて無い~ッ!」

「当ッたり前じゃろが! 面倒ごとなぞケン殿と愉快な仲間達に任せとけばええんじゃ! 後高性能の双眼鏡も海上都市で探す……っ!」

「彼女ウォッチング用でござるか!? もう逆にすがすがしい安心するッ!」


 タツのタツさが大変安心するのでこうして現在進行形で絡んでいる。とはいえカグヤはタツ程図太くなれないので、一週間をどう過ごすかは悩ましい課題だった。


「という事で相談に乗って頂きたい! ケン氏も悩む時は誰かが相談に乗ると仰ってたでござるし~ッ!」

「そこで普通は儂を選ばんのよ……! まあカグヤ殿はこういう事初めてじゃろし右往左往しても仕方ないんじゃけど~!?」

「そうなんでござるよォ~っ! どうして皆様そんなに落ち着いていられるのかッ! 拙者だけ出遅れて足引っ張るのヤでござる~ッ! タツ氏は眩しくないので相談しやすいんでござる~ッ! なので何卒ォッ!」

「もう少しオブラードに包めんか!? 正直過ぎるじゃろ……!」


 タツが思い切り呆れた顔をして、次の山羊に取り掛かった。まあカグヤの気持ちは全然共感できないが分からんでもない。未知のプロジェクトにベテラン社員達が率先して動いて全力を尽くす中、新入社員がわたついてしまうようなものだ。


 他に相談すれば前向きで生産的なアドバイスをくれるだろう。だがそれだけでは疲れてしまう。たまには下を見て安心というか、タツのような熱心でない者が救いになる事もあるだろう――と思うと無碍にも出来ない。


「儂が思うにカグヤ殿はアレじゃあ。焦って背伸びし過ぎとる」

「だって拙者だって皆の助けになりたいでござるもの……ッ!」

「ええて、その気持ちは別にええんじゃて! 村の仕事も色々出来る事が無いか探して試しとるんじゃろ? それで十分役に立っとるわい!」

「村の仕事はそうでござるけど今回の事はァ……!」

「今回の事はイレギュラーな突発トラブルじゃわい! 逆に澄ました顔で対処出来る方がおかしい! 逆じゃぞ! おかしいのはケン殿達の方じゃ……!」


 タツの力説に、ホアァとカグヤが脱力した。


「凄い……! 安心する……! タツ氏ィ……!」

「下を見ろ儂を見ろ! 皆と同じが出来んと思うから焦るんじゃわ! 今回に関しては何も出来んで当然! 対処出来て動いとる奴の方が頭おかしい!」

「あああ、何というぬるま湯ゥ……! 拙者の焦りが解れてゆくゥ……!」

「ちう事でカグヤ殿は無理して何か役に立とうとせんでもよろしい! 健やかによく食べよく眠り健康であれ! 役目があったらどうせ有無を言わせずケン殿が振って来る……!」

 

 後ろ向きで力強い言葉に、今回の一連でずっと抱えていた緊張がゆるゆると解けていくのを感じる。


「確かに拙者は戦う事しか出来ぬゆえ……! 健康であるのが一番という気になってきたでござる……!」

「そうじゃよ。それに皆カグヤ殿が思うより働いとらん! 村の仕事じゃのうて今回の件に関してな!? 頭脳労働組はあれこれ考えたり調べたりしとるようじゃけど、他はチョコ作っとるだけじゃ! そんだけじゃぞ!」

「はっ……!? 確かに……!?」

「それも主体はリョウ殿じゃ! 他は試食して感想述べとるだけじゃ!」


 世界の秘密を知ってしまったような顔をしてカグヤが口を覆う。厩舎掃除の最中なので若干家畜臭かった。


「す、そ、そんな……!」

「分かったかの! 彼奴等の行動は客観的に見るとカグヤ殿と何ら変わらんのじゃあ! 場慣れしてるからそれっぽいムーヴかましてるだけで所詮はファッション意識高い系に過ぎんのよ……!」

「タツ氏それは流石に言い過ぎィ! 普通に悪口ィ!」

「事実じゃろがァ!」


 身も蓋もないタツの力説が厩舎内に木霊し、カグヤが打ち震えた。


「どうじゃ! 緊張など砕け散ったろうが……!」

「はひぃ……! 粉微塵に……! けど皆様の努力はファッションではないでござるからァ……! そこだけはァ……っ!」

「まあ真面目に鍛錬しとるだけで儂の数倍偉いと思っとる!」


 カグヤがへたり込みかけて――厩舎の床である事を思い出して堪えた。


「す、すごい……タツ氏凄い……! 拙者これから心の中でタツ氏の事『精神安定剤』って呼ぶでござる……!」

「微妙に嫌じゃけど!? 後はアレじゃあ、アレアレ!」

「どれ!?」

「また身も蓋もない言い方するけど、所詮頭脳組以外は兵隊なんじゃよ。兵隊が役に立とうとするなら本番じゃあ。強さ的にはまあ金の扉組はどっこいじゃろけど、カグヤ殿にはアレがあるじゃろ……?」

「た、戦いになるとお考えで……?」


 ごくりとカグヤが唾を飲む。タツが言っているのは『腐刀ココティン』の事だろう。ファナティックから説明も受けコーチされたあの力は、無垢なる神聖存在へ特攻だ。神との戦闘であれば、同属性のリョウやメイを上回る可能性があった。


「ならんで欲しいけど、なる想定もしといた方が良いじゃろな。それに戦いにならんでも、カグヤ殿のその欲望塗れの観察眼は有効じゃろ。明らかに他と着眼点違うし……」

「……!」

「頭脳組が仕事をするには情報が必要じゃ。情報を得るには観察が必要じゃ。ちな神は異形も居るけど大体美形揃いじゃから、カグヤ殿の観察眼も大いに発揮されると儂は思っとる……」

「おお……おお……タツ氏……! タツ氏……!」


 カグヤが天を仰いで両手を掲げた。その顔には悟りに近い色がある。


「拙者今天啓を得たり……! つまり拙者は本番に向けこの一週間で腐った観察眼と妄想力を更に鍛え上げれば良いのでござるな……!」

「まあうん……そうしといたらええんじゃない……? そっちに夢中だったら緊張も不安も顔出さんじゃろし……」

「タツ氏! おお、タツ氏……! 感謝するでござる……ッ!」

「あー、うん……じゃあそうしてもらって……相談終わりでええかの……?」


 感激しまくるカグヤを前に、タツは若干引いた顔をしていたが――今回ばかりは良い仕事をしたに違いなかった。


「はいっ! 目の前の霧が晴れた心地にて! 何と御礼を申せば良いかっ!」

「礼なら両肘曲げてギュッて胸を挟んで押し出すポーズ欲しい~!」

「容易い! その程度なら容易いでござる~っ!」


 深い感謝の気持ちを籠め、カグヤが両肘を曲げて二の腕でギュッと胸を挟んで押し出すポーズをする。ガワは絶世の美女なので素晴らしい絵だ。


「ウホォ! 良い! 良いぞ~!」

「そういえばタツ氏! トルトゥーガ氏に連絡取ったでござるか!? 拙者お二人が並んでいるだけで顔はニヤつき妄想が捗り百人力になりまするがっ!」

「ちょ、堪能したいのに! 黙っとれよ! 頼むから黙っとって……! 後連絡は忘れとったから今からする……!」

「ヌフゥ! 失礼! 30秒黙りまする……!」


 ニヤつくカグヤに折角のセクシーポーズを台無しにされながら、30秒だけ絶世の美女を堪能させて貰った。その後カグヤは元気に働き、タツは忘れていた連絡を念話でトルトゥーガに送り――夕方頃には村に来て貰うのだった。

お読み頂きありがとうございます!

次は明日更新予定です!

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