474 ラグジュアリー
聞き取りを終えた皆が厨房に戻るとカイが居た。
「カイさん、方針決まった? 僕はケンさんの希望を貰って来たよ」
「いえ、今から相談させて頂こうと……!」
「おらはベルどんの希望を貰ってきましたっ!」
「拙者はタツ氏の希望を! タツ氏が念話でトルトゥーガ氏にも連絡を取ってくれて其方の許可も得て来たでござる!」
「わたしはジラフに声掛けして、後はウルズスの許可を貰って来たよ」
ジラフは既に訪れたと聞いて、カイの相談の前にひとまず集めて来た希望を披露する事にした。
「えー、ケンさんの希望は『詳細は任せるが俺に相応しい強そうでゴージャスかつラグジュアリーなチョコにしろ試作品が出来たらチェックはする』だそうです」
「腹立つ希望出しやがって……! 結局お任せじゃねえか!」
「ケンらしいといえばらしいですねえ……」
「ゴージャスとラグジュアリーは兎も角、強そうなチョコって……!」
全然ビジョンが浮かばなかったが、メップメップが少し考え込んだ後に身振り手振りで主張を始めた。
「なになに? ケンの物だけは海上都市の最高級素材を使って、形はまだ決めきれていないけれど金箔を貼ったりして豪華な感じにしてはどうだッつってるぞ」
「そうか、海上都市はケンさんが作り上げた物だからそれはアリだね」
「形なら、ケンだと剣なんかもそうだけれどそれこそ海上都市にあるだろう金貨を模したら良いんじゃないかい? どうせケンの顔が刻印されている筈だよ」
「ハッ、そうか……!」
ジスカールまでもが『どうせ』と言う所に笑ってしまいそうになったが、どうせケンの顔が刻印された金貨だろう。チョコでも再現出来そうだし、ひとまずその方向性で考える事にした。
「包み紙が金とかじゃなくて、チョコに金箔を貼るんですよな。ハァ豪華でござる……! じゃなくて、タツ氏とトルトゥーガ氏の報告を! トルトゥーガ氏は『完全にお任せする』という事で海塩プランのままですな! タツ氏は――」
「タツもケンみたいに投げッぱなしじゃねえだろな?」
「タツ氏は逆に細かいでござる! まず種類はお酒のチョコ! 使用するお酒は清酒が良いそうで! 味は甘過ぎずの大人寄り! 形は龍型、龍型が難しいようなら龍鱗もしくは酒瓶の形という事でござる!」
「うわっ、ちゃんとしてる……!」
思いの外ちゃんとしていて皆驚いた顔をした。メップメップが希望を受けて、真剣に考えながら何度も頷く。
「モモモイッモモ! モイモイモモイモッ! モイ~!」
「確か黒龍とお伺いしておりますのでブラックチョコレートで龍鱗の形の清酒チョコ、金箔を散らすなどしたら良いのではッつってる」
「確かにタツどん、鱗は黒かったし爪や背びれは金色だったし良いと思う!」
「全体像より鱗の方が他と並んだ時の感じも良さそうだね」
皆の賛同を得て、タツのチョコも早々に決まった。
「ウルズスはやっぱり『よく分かんないけどぼくの好きなやつが入ってるのがいい!』という事なので、リンゴや蜂蜜やナッツを使った試作をして貰って選ぶ形だね。ジラフはもう決まったのだろう?」
「うん、じゃあ次はベルさんだね」
「あっ、ベルどんは『詳細は任せるけどわたくしに相応しい美しくゴージャスでラグジュアリーなチョコにして頂戴ちゃんとチェックはします』って……」
「ケンと殆ど一緒じゃねえかよ……!」
ガンがうんざり顔を隠さず、ともあれ皆で相談し始めた。
「ケンどんが金貨だと――ベルどんは何になるだろか?」
「宝石かな? 花でも良いけど花型ならメイさんのが似合うかなっていう所と、もし薔薇とかになったらお師匠さんと被るじゃない?」
「一応ベルが気に入っている花はあるのですが、村では殆ど浸透してないですしねえ……」
「そういう花があるんだね。恋人達の間で通じるようなものかな?」
ジスカールが問うと、あからさまにカイが照れたので皆ニヤニヤする。ともあれそういう事情ならその花は使わない方が良いだろう。
「花だとカーチャンが薔薇の砂糖漬け作ってくれたな」
「モイモイモ、モモッ」
「あ、師匠から教わった奴なのか」
「ならそれをあくまで飾りや中身に含めるというのはどうかな? ヴィクトルの呼び方だって紅薔薇の一番弟子、だし」
「宝石のように美しい外見の中には、師匠の教えが息づいている――と思うと解釈的に良きかなでござるよ!」
解釈だとか概念には煩いカグヤが太鼓判を押したので、ひとまずその方向性で進める事になった。
「で、カイさんか」
「はい、私の場合はすぐにこれと言えるような個性を自分に感じていませんので皆さんに相談したくてですね……」
「いや、魔王が個性でしょ」
「魔王というのは物凄い個性の気がするのだけれど……」
「ほら、言われてんじゃねえか……!」
どう考えても満場一致で『魔王チョコだろ』となったので、次は魔王らしいチョコについて考え始めた。
「まあ魔王っぽいチョコといってもね、難しいよね。角でも生やす?」
「カイの肌色も青白いし、青系のチョコはこれまで出ていないからそういう方面でも良いかもしれないね」
「ホワイトチョコに毒々しい青系を加えたら魔王っぽくないでござる?」
「毒々しい青って……! なら、ブルーベリー等は育てていますし目にも良いのでどうでしょう……?」
目に良いという言葉が出て、全員思わず黙った。
「……!?」
「眼鏡か、そうだな。眼鏡だ」
「眼鏡キャラは眼鏡が本体という説がある故、カイ氏は片眼鏡を押し出していくべきなのかもしれませぬ……!」
「いや、いやいやいや、片眼鏡柄のチョコって難しくないですか!?」
「それがねえ! 絵や柄を転写出来る技術があるんだよねえ……!」
魔王っぽいカラーリングに片眼鏡プリントを施せばそれはもうカイのチョコであるとカイ以外の意見が一致した。
「じゃあそれでいこう。ブルーベリーなら合いそうだしね……!」
「結構皆良い感じにまとまったんじゃないかな。もう少し詰めていくのは必要だけれど、大体どれも一目で誰のチョコだと分かる感じだしアソートとしても――」
そこまで口にして、ジスカールが顔を上げた。メップメップを見てからカグヤを見る。メップメップもジスカールに頷いてからカグヤを見る。
「え、何? 何でござるか……?」
「いや、アソートというからには箱なりに入れると思うのだけれど……」
「モモモイモモイモモモーイ……」
「バナナ丸ごと一本を箱に収めるのはきついのではと言ッている……」
「ハッ、確かに……! ですが“自身”を切っても良いというのでござるか!?」
「ちょっとカグヤさん想像させないでよ……!」
“自身”という言い方をされて切断を想像すると男性陣は思わず股間を押さえたくなる。後そもそもカグヤらしいとはいえ“自身”を象徴するチョコをファナティックにあげて喜ぶのかという所もある。
「モモッモ、モモーイ……」
「ちょっと形状は相談させて貰って良いですか……つッてるぞ……」
「仕方ないでござるな……! 相談で形状が変わるのは良いでござるが、単純にチョコバナナ味は凄く美味しいので推したいでござる!」
「あ、そんなに美味しいんだ?」
「それはもう! 今回の試食には無いでござるが、拙者の世界のお祭りや縁日では当たり前のように並ぶ人気アイテムでして……!」
それを聞いたらちょっと気になってきたので、余った材料でこの場で作ってみる事にする。作り方は簡単で、棒に刺したバナナをチョコに潜らせて固めるだけだ。いざ試食をしてみると普通に美味しく皆が『成る程……』と頷いた。
こんな感じでひとまず全員の方向性は決まり、明日からはアソートを完成させるべく試作と研究を重ねていく事にした。
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