470 反省会
「おれが流し込んでやろうか?」
「負けたのだ! 俺は嫌がらず正々堂々と飲む……ッ!」
激マズの特製健康ドリンクのジョッキをケンが掴み、一息に呷った。
「ゴフッ、ンゴフッ、ンオェッ」
「す、すごい! えづきながらも飲むのをやめない……ッ!」
「あのジョッキコップ5杯分位入っとるからな! 全て飲めば禊よ禊……ッ!」
「ンフーッ! お流石ですっ!」
実質コップ5杯分の健康ドリンクをケンが飲んだ為、地獄を見させられた犠牲者達の溜飲も下がった。
「ガンナー、最後に目を瞑ったのは凄く良かったね。あれが止めだったよ。狙っていたのかい?」
「いや、あれは顔近過ぎてケンの睫毛が目に刺さったら嫌だと思って閉じた」
「ガンナーらしい理由で安心しましたよ……!」
「まッッッッッずい! 不死なのに死ぬかと思ったぞッッッ!」
噎せつつも一気飲みしたケンがジョッキをテーブルに叩き付けた。
「その苦しみをおまえは皆に振り撒いたんだよ! 反省しろ!」
「何だその俺が全部悪いみたいな言い方は! そもそも王様ゲームを持ち込んだのはリョウさんだぞ!」
「馬鹿か! 大体おまえが全部悪いだろ! まあリョウもちょっとは悪い!」
「わあん! サイコロよりは安全なゲームだと思ったんだよぉ……!」
やっと闇のゲームが終わり、皆でやいやい言いつつの反省会となった。
「だが中々良い企画であったぞ! キスは奪えなかったがガンさんと直前まで楽しめたしハグも出来たからな!」
「吾輩も良い思いをさせて頂きましたァ~っ! ちなみに『こいつら……!』される前に主張しておきますがペッキーゲームで最も多く対戦し皆さんを一番殺したのは我が親愛なるジスカール教授ですからねェっ!」
「そうだぞ! それに最初ジスカールさんが闇堕ちしなければあの地獄の連鎖は無かった! 戦犯というならジスカールさんである!」
堂々と責任転嫁する様子に『こいつら……!』という顔は隠せなかったが、それもまあ一理あるので何となく皆の視線がジスカールに向いた。
「ケンさんとファナティックさんの罪が消える訳ではないけれど、確かにジスカールさんも中々……!」
「待ってくれ! わたしが闇堕ちしなくったって、君達だって同じ立場ならしていただろう……!? それに対戦回数が多いイコール最も被害を被っている立場になるんじゃないのかい……!?」
「まあ闇堕ちに関してはそれはそうですね」
「闇堕ちに関してはな……! じゃけど後半は被害とは言えんじゃろ! 儂ら3タテされとるんじゃぞ! 新しい扉開かされそうになっとる……!」
戦犯呼ばわりは心外顔をするジスカールに、3タテされたリョウとカイとタツが審議顔をした。
「扉に関しては意図的じゃないし勝手に開かれても関知しませんとしか言えないよ……! わたしだって本気を出さなければ死んでいたし……ッ!」
「その本気はジラフさんに見せてたげてよ! 僕らじゃなくてェ!」
「ンフーッ! 今日の事が血の傭兵王に知られたら教授ゥっ! はちゃめちゃに叱られますねェ~っ!」
「……!」
ジラフの名が出てジスカールが『あっ』という顔をした。リョウとカイも我が身を省みて一瞬『あっ』となりかけたが、メイなら『ゲームの上の事だしリョウどん死にかけとるしキスはしてねえんだろ?』と言ってくれるだろう。ベルも普通に面白がってくれそうだ、と思い直して浮き掛けた腰を落ち着かせる。
「……いや、僕らは大丈夫だな。ジスカールさんは怒られると思うけど」
「ですね、私達は大丈夫です。ジラフのお叱りでジスカールの禊としましょう」
「それなら儂も文句ない~!」
「く……っ、どうして……!」
「よし! 良い感じに落着したな! ガンさんが眠そうだからそろそろ寝るぞ!」
ガンがもう眠そうにうとうとしていたので、ケンが皆に落着と宴の終了を告げる。その後はパジャマパーティーらしく適当に雑魚寝した。尚、目覚めた時に健康ドリンクを飲んだ面々はやたらと体調が良く――大変不味いが効果は絶大だったというのは余談である。
* * *
朝食を摂ってから村へ戻ると、ジラフが出迎えてくれた。ジスカールの体調を気に掛けて待っていてくれたのである。
「皆おかえりなさいッ! 男子会は楽しかった!?」
「うむ! いつも通りで楽しかったぞ!」
「まあまあ地獄は見たけどまあこんなものだよねえ」
「吾輩も大変楽しませて頂きましたァっ!」
「それは良かったわッ!」
男子会が毎回酷いという事はジラフも何となく聞いているので笑顔である。が、いつも通りの皆に隠れるようコソコソしたジスカールの姿が目に入った。
「アラッ、ジスカールちゃんどうしたの? 体調悪い?」
「体調はちぃとも悪くないぞ! 体調はな!」
「そうだね、体調は凄く良いと思うよ」
「その――ジラフ……」
「なに? 何かやらかしたの……?」
秒で察するジラフに肩を縮めつつ、ジスカールが前に出た。
「ちょっとこれを咥えてくれるかい……?」
「……?」
土産の菓子だろうか。細い棒状の菓子をジスカールが差し出したので言われた通りに咥えた。何だ何だと思っていると、周囲から『成る程……』だの『あれで有耶無耶にする気じゃの……』などと聞こえて来る。
「ジラフ、ごめんよ……!」
「……!」
何やら様子がおかしいので、口から菓子を取って問い詰めようとしたら――その前にジスカールの両手が肩に掛かった。少し踵を浮かせてジスカールが反対の端を咥え、かりかりと菓子を食べ進めて来る。
「!? ……ッッ!?」
「まあこういう責任の取り方もありなんじゃないですかね?」
「うむ! 相殺だな! これならばジラフさんも満足であろう!」
「昨夜に比べて若干表情必死だけどね……!」
「アハン! これは記録が出るかもしれませんよォっ!」
ジラフに野次を耳に入れる余裕は無かった。脳裏を『!?』に支配されながら、どんどんジスカールの顔が近付いて来る。危険水域の1cm、5mm――そして、新記録の3mmを記録し、すれすれの所で唇が離れて行った。
「3mmか! 天晴であるぞジスカールさん!」
「ワッ! 新記録だ!」
「……!?」
「――ジラフ、本当にごめんよ。どうかこれで許して欲しい。ちゃんとしたキスはまた改めてしようね」
固まったままのジラフに甘く囁き、ぎゅっとハグをし、ウィンクまでしてジスカールがそのままいそいそ逃げていく。
「おい、あいつ逃げたぞ」
「逃げたな」
「ジスカールさん、これまでもああやって逃げて来たんだろうな……」
「常習の気配がしますよ……」
「アハン! よくお分かりでェっ! あれがいつもの教授の手ですゥっ!」
“いつもの手”の効果は絶大であった。石になったように固まっていたジラフの身体が徐々に震え、見る間にカーッと耳まで赤く染まっていく。
「な、な、な……ッ」
「ガンさん! 別荘の続きをやりにいくぞ!」
「おう」
「儂も乳搾りして来るわい」
「吾輩も工房に戻りますゥ~!」
ジスカールに続いて四人も離れてゆき、場にはジラフとリョウとカイが残った。流石に置いていく訳にも行かないので、心配そうにジラフを覗き込む。
「ジラフさん大丈夫……?」
「また壊れてないですか……?」
「な、……こんなッ……! 一体男子会で何があったっていうの……ッ?」
「いやそれは――ヒエッ」
「ヒィッ!?」
不穏な気配を察した瞬間、もうジラフの剛腕に二人は捕らえられていた。
「ちょ、ジラフさん僕たちは被害者なんだよォ……!」
「そうですよォ……!」
「うるッさいわネひとまず叫ばせなさいよ後から細かい事は聞くからァッッッ!」
後で事情を説明させる為にがっちり二人をホールドしたまま、村にジラフの野太い咆哮が暫し響き渡った。ひとしきり壊れた後、怯えた二人に事情を聞き取りし、解放してやる。その後は大股でジスカールの元まで出向き、まあ“いつもの手”の効果は絶大だったので従来の十分の一位のお説教に留めて代わりに――今度デートする事を約束させたのだった。
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