469 続・男子会⑥
「やっと、やっと終われるんじゃあ……ッ!」
「ファナティックさんありがとう、ありがとう……ッ!」
「本当にありがとうございます……っ! これで、これで終われる……っ!」
「11回目だよ……! 長い戦いだった……!」
ついに『ケンvsガン』を引き当てたファナティックを囲んで犠牲者達が涙ながらに感謝を述べた。
「ンフーッ! どう致しましてェっ! けど吾輩ひとつ気付いた事があるのですがァっ! 結構酷な事なのですがァっ! お伝えしても宜しいでしょうかァっ!?」
「酷て! 今の状況が既に酷じゃけど!?」
「不安要素があるならもう先に出してよ! 酷でも何でも聞くよもう!」
「アア、いえっ、不安要素ではないのですがァ……」
ファナティックが少うし首を傾げ、チラッとケンを見る。ケンはガンと対戦できるのが嬉しいのかそれはもうニコニコであった。
「先程このゲームをいつまで続けるかの話の時にィ、神威の覇王は『俺とガンさんが対戦するまで』としか言っていないんですよォ……っ」
「え、どういう事……?」
「いえ、だからァ」
「……『俺とガンさんがペッキーゲームで対戦するまで』とは、言っていない」
ファナティックの言葉にいち早く気付いたジスカールが、呆然と呟いた。
「ファッ!?」
「ふざけ……!」
「え……っ!?」
「わはは! 皆随分とペッキーゲームが気に入りだったな!」
「おまえまじで性格悪ィな……!」
ファナティックを囲んでいた男達が顔を覆って膝を付き、ガンが呆れ果てた顔をした。ケンはニッコニッコしている。
「救済のヒントは与えておったのに気付かぬ方が悪いのである!」
「悪辣過ぎるゥ……ッ!」
「ンフッ! 吾輩割と早くから気付いていたのですがァっ! 皆様のペッキーゲームっぷりが面白くてェっ! 教授の本気も拝見出来ましたしィっ!」
「気付いてたなら言えて! この二人何かの罪に問えんのか!? なあ!?」
「ちなみに番号は指定しましたがまだ命令は出しておりませんのでェっ! 神威の覇王に復讐をしたいというのであればァっ! 此処でペッキーゲーム以外を命令する事も出来ますがァっ! 皆様次第ですよォっ!」
提示された“復讐”に、犠牲者達が顔を見合わせた。ケンは相変わらずニッコニコである。ファナティックもニカーッと笑っている。
「クソァ! 復讐の復讐が怖いからペッキーゲームでいいわい!」
「私そのタツの正直に言える所尊敬します……!」
「いいよもう! ペッキーゲームじゃなかったらまだ続く可能性あるし……ッ!」
「もうわたし達は戦えないんだよ……! ガンナー、終わらせて欲しい……!」
「わはは! この負け犬どもめらが!」
大笑するケンに皆歯噛みするも、最早戦う力は残されていない。
「星落としもペッキーゲームで宜しいですねェっ!?」
「ああ、いいよ」
呆れ果てていた顔をしたガンが、ぽんぽんと負け犬達の肩を叩いてゆく。
「任せろ。おれがおまえらの仇をとってやる」
「ガンさん……!?」
「ガンナー……!?」
「ジョッキで特製健康ドリンクを用意しておけ」
何やら頼もしい言葉を掛けてから、ガンがケンに向き直った。ケンは相変わらずニッコニコである。ガンとペッキーゲームを出来る事がもう嬉しゅうて嬉しゅうてという顔である。
「ケン、おれは退かねえ。負けんのはおまえだぜ」
「俺にはガンさんが負けるか引き分けになる未来しか見えんがな!」
「そいつはどうかな?」
皆が見守る中、ガンがふんと笑ってペッキーを手に取った。
「ケン」
「何だガンさん」
「おれの“初めて”がこんなくそゲームだなんてなァ」
「!?」
薄く笑い、それだけ声を掛けるとガンがペッキーを咥えた。言われた瞬間ケンの顔色が変わり、数秒動きが止まる。それを見てタツが腰を浮かせた。
「こ、こ、これは……っ! ワンチャンある……っ!」
「どういう事タツさん!?」
「ケン殿はな! 『初めての裸彼シャツ』を儂に奪われて滅茶苦茶苦しんどった! あの悪鬼はガンナー殿に関してだけはお初に拘りがあるんじゃ……ッ!」
「タツさん何してんの!? じゃなくてそれが本当なら『ファーストキス』は『初めての裸彼シャツ』より重いよね……!?」
その瞬間、犠牲者達はガンの起死回生の一手を理解した。恐らくガンは初めてどころかキスなんかどうでもいいと思っている。が、ケンは違う。
「良い一手だよガンナー……! これはケンの愛が試される……!」
ジスカールが感心したように頷いた。ケンとしては愛するガンとキスなんてした過ぎる筈だ。だがガンがエロを嫌うから、こういうゲームの体でどさくさに奪う事しか出来ない。然しガンが持ち出さない筈の『初めて』を持ち出して来た。この瞬間ケンに『愛するガンさんの初めてをこんな形で奪っていいのか』という葛藤が生まれた。策だと分かっていても、一度生まれた葛藤は決して消えない。
「ほは、ははくひほほ(ほら、早くしろよ)」
「う、うむ……!」
「では始めェっ!」
急かされケンがペッキーの端を咥えた。身長差があるから、見上げるガンを見下ろす形になる。先程までのニコニコは消え、思い悩む顔をしながらケンがそっとガンの肩に手を置いた。ファナティックの掛け声でゲームが開始される。
「…………」
「………………」
双方ゆっくりと齧り始める。皆が固唾をのんで見守った。
「ガンナーの方は先程までの殺す表情じゃないですね。じっと見つめて……!」
「ケンに対し『おまえ本当にそれでいいのか』と圧を加えているね……」
「ケンさんはまだ悩んだ感じの――いや、変わった……!」
「ケン殿ぉ!?」
「……!」
最初は悩ましい顔をしていたケンだが、1cmも食べ進めると不意に表情が変わった。ジスカールに勝るとも劣らぬ官能的なキス顔である。肩に置いていた手が自然と動き、片手はガンの背に回りもう片手は腰に回って『逃がさん』とばかりに引き寄せた。ガンが驚いたように目を瞠るが、そのまま食べ進める。
「ケン、自身の欲望に負けたのかい……!?」
「このままではガンナー殿が奪われてしまう……!」
「いやけどあの顔を真正面で受け止めて平気なガンさんも凄いよ……!」
「我々なら一瞬で敗北していますよあの顔……! エッチ過ぎる……!」
周囲が焦ってざわめいた。このままでは本当に引き分けになってしまうと思ったのだ。無情にもペッキーは短くなりゆき、残り1cmとなる。
この時点でケンは内心舌を巻いていた。何処でこんな手管を学んだと思う程にこの策は狡猾でケンに刺さっている。最早有耶無耶に奪う事は出来ない。今自分は試されている。表情を変えたのはガンが怯んで逃げれば良し、あるいは退かない場合は全力で楽しむ為であった。そしてガンは退かない。
ガン自体がこの行為をどうでもよいと思っている事は解っている。拘りがあるのは自分なのだ。ゲームにかこつけて自らの欲望を満たすか、もしくは――。考えている時間はもう無かった。残り5mm。周囲から悲鳴のような声があがり、決断しようとしたその時。
「――……ッッくそ!」
触れ合う直前、ガンが止めのように目を閉じた。その瞬間ケンが思い切り顔を背け、悔し気にガンの肩に頭を埋める。
「ケ、ケンさんが……!」
「ケン殿が退いた……っ!」
「愛が、愛が勝ったのですね……っ!?」
「凄いよガンナー……!」
「ンフーッ! 神威の覇王の負けですねェっ!」
皆が驚愕し、ファナティック以外が呆然と呟いた。
「くそッくそッくそぉ……ッ! この俺が負けるとは……!」
「ふん、おれの言った通りだッたろ」
「しようと思えば出来たッ! 俺が譲ってやったのだ……ッ! 俺の欲を遂げたとて、ガンさんに何も残らねば意味が無いからな……ッ!」
「そりゃ良い心がけだ。とりあえず罰のドリンク飲めよ」
ケンが大層悔しそうにするので、ガンが思い切り可笑しそうに笑った。
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