466 続・男子会③
三度目、くじを引く。今度はファナティックが王様だった。
「ンフーッ! 吾輩が王様ですかァっ!」
「ファナティック殿は何を繰り出してくるか予想が付かん……!」
「わはは! 皆に目にもの見せてやるが良い!」
「お手柔らかに! お手柔らかに……!」
「さてさて、どうしましょうかァ~っ!」
ニカーッ! と笑ってファナティックが数秒考え、口を開いた。
「4番の方が5番の方に官能小説を読み聞かせして下さァいっ!」
「官能小説だと!?」
「僕ら世界が違うから文字は……!」
「大丈夫でェすっ! 確定したら各々の世界から吾輩が取り寄せまァすっ!」
「何という能力の無駄遣いじゃあ!」
官能小説の読み聞かせは流石に予想の上を行き、皆が動揺する。
「わ、私が4番です……!」
「おれ5番」
「カイがガンナーに官能小説の読み聞かせを……」
「ベル嬢に怒られそうなペアで笑ってしまう」
「このペアちょっとどうなるか分からんな!?」
ファナティックがカイを見、頷き指を鳴らすと虚空から一冊の本が現れた。
「では此方をっ! アナタの世界の官能小説ですので読める筈ですよォっ! 一冊丸ごとはアレですので、濡れ場の数ページで許してあげますゥっ!」
「い、痛み入りっ、いりきれないですがありがとうございます……っ!」
「王様の命令は絶対じゃ!」
「そうだぞカイさん! 臨場感たっぷりに頼むぞ!」
辛そうな顔で本を受け取り、カイがガンの前に座り直した。ガンが全然分からん顔でカイを見詰めている。
「え、ええ……では……読みますね……」
「おう……」
辛そうな顔のままカイがパラパラ頁を捲り、濡れ場っぽい所で指を止めた。それから深く息を吐くと読み上げ始める。
「――……シーツにしどけなく横たわる白い肉から目が離せなかった。男とは違う曲線だけで作られた輪郭、むっちりと脂肪の乗った腰回りに滑らかで優美な腹部。その上では豊かで瑞々しい一対の果実が呼吸の度に淡く揺れている。薄い皮膚から透ける静脈も、差し込む陽射しに照らされた金の産毛ですら美しかった」
「おっ、やや耽美系だな?」
「これは間違いなく巨乳……!」
「良い声で読むのやめて欲しいんじゃわ……! 笑うて……!」
「……?」
一節を読み上げただけで野郎どもの脳裏にはベッド上に全裸で横たわる豊満な女体が浮かんだ。ガン以外の脳裏には浮かんだ。ガンは怪訝な顔をしている。
「ゆっくりと夫人が両手で髪をかき上げる。二の腕に挟まれた乳房がぎゅっと潰れ、触れずとも柔らかさを見せ付けて来た。己の指があの柔肉に沈み込む所を想像して思わず唾を飲む。だが次の瞬間更なる衝撃が襲った。夫人が仰け反るようにおとがいを持ち上げ、同時に肘も天を向いたのだ。露になった腋の叢はあまりにも卑猥で――……」
「夫人という事は不倫ものかな?」
「腋毛が生えとるタイプの人妻! 儂嫌いじゃない~!」
「僕も正直嫌いじゃないですう……」
「…………????」
まだまだ序盤だというのに、ガンが完全に宇宙猫の顔になっている。
「どうしたガンさん! 全然ぴんときてない顔をしおって……!」
「官能小説? ってエロい小説の事だよな?」
「まあそうだね」
「これの何処がエロいんだ……?」
「いやまだ序盤だし……?」
ガンが左右に首を傾げた。
「最初白い肉っていうから、白い豚か何かかと思ッたんだよな。むっちりって言うし、果物乗っけた白い太った豚かと……後半の『夫人』でああ人間かッて理解したんだが、裸の女が腋毛を見せて来たっていう解釈で合ってるか……?」
「果実は比喩である……! 後まあそういう言い方をすると身も蓋も無いが合っておる……!」
「ガンナーは雰囲気とか情緒でエロスを感じ取るのが苦手な感じかな……?」
「ガンさんはほら、ムード×だから……」
「カイさん! ガンさんでも分かるもう少し過激な場面を読んでやれ!」
裸はまあ分からんでもないが腋毛の何がエロいんだ男にだって生えてんだろという顔をするガンに、ケンが過激な濡れ場を要求した。
「ええ……! これ私だけ恥ずかしい思いしてません……!?」
「大丈夫じゃ! 聞いてるガンナー殿以外の男子はまんざらでもない~!」
「まあ王様の命令なので読みますけど……!」
カイが渋々更にページを捲って朗読を始める。
「官能の茂みを掻き分け、濡れそぼつ秘花に指を――」
「官能の茂みってなに? 雨上がりに花の世話でもしてんのか?」
「聖域へ自らを沈ませゆくと、蕩けるような熱さと絡み付く感触が――」
「聖域ってなに? 蕩けるって溶岩か何かか?」
「ガンナー殿の合いの手いちいち笑ってしまうんじゃよ……!」
「僕ガンさんにはそのままで居て欲しいなあ……!」
再開してからはガンがいちいちコメントを挟み始めた。何処までも理解しない様子と良い声で朗読を続けるカイのコントラストがじわじわ皆の腹筋を攻撃する。やがて濡れ場がフィニッシュした時点でカイがぱたんと本を閉じ朗読を止めた。
「――はあぁ……! 以上です……! もういいですよね!?」
「うむ! 朗読自体は素晴らしかったぞい~!」
「そうだね朗読は素晴らしかったよ。大分エロいお話だった……!」
「そしてこのガンさんの全然ぴんときてない顔である!」
「今回は比喩表現が多かったから、ガンナーには伝わり辛かったかな……?」
「まじで全ての意味が分からんかッた。おれにエロの才能は無い」
その場には大分精神力を削ったカイと、心底ぴんときていない顔のガンだけが残った。ちょっとエロい朗読を聞けて他の野郎共は大体満足していたので、寛容に『ガンはそれでよい』という顔で頷く。
「ファナティックさん! 次回はもっとガンさんにも分かりやすい描写の物を頼む! 比喩が多いと駄目だこれは!」
「直接表現でもこれ興奮しないと思いますけどねェっ!? 究極『文字を読む事が何でエロいんだ?』って思ってるでショうこれェっ!」
「思ってるよ……! もういいから次行ってくれ……!」
エロの才能が枯渇している事を再自覚させられ、顔を顰めてガンが次を促す。まだまだ時間はあるので、四度目のくじを引く事になった。
「いやけど今回確かに平和じゃな!? まだリョウ殿しか絶望しとらん!」
「そうですね……恥ずかしい思いはしましたが致命傷ではありません」
「そうだな。この位が丁度いいんじゃねえか?」
「正直皆も僕くらいは苦しんで欲しいって思ってるよ……!」
「駄目ですよ勇者! そういう事言ってるとまた酷い目に遭いますからァっ!」
朗読の間に10分が経ったのでやっと恋人繋ぎからは解放されたが、結構なダメージが入った顔をしている。ともあれ、再び『王様だーれだっ!』の掛け声で皆同時にくじを引いた。
「次の王様は――……」
「わはは! 俺だ!」
「ウワーッ! ケンさんだーッ!」
「嫌な予感しかせん……っ!」
「手ぬるい命令ばかりで皆刺激が足りぬだろう! そろそろ度合いを上げるぞ!」
「お手柔らかにっ! お手柔らかにお願いします……っ!」
「おまえ! 物理エロ禁止だからな! 分かってんだろうな!?」
ケンが王様くじを手に仁王立ちした。初回で酷い目に遭った全員が一斉に青褪める。ファナティックとジスカールは『あらあらまあまあ』という割合余裕の顔で見守っていたのだが、テーブルからケンが取った物を見て顔色を変えた。
「ふむ、これを使うか……」
「ちょ、あの……! ケン……!? それってまさか……?」
「神威の覇王の世界にもそのゲームありましたっけ……!?」
「え、何!? 何で二人ともそんな……?」
「これはな! 俺の世界では『ペッキー』という名称で親しまれておる大衆の菓子である! 番号は――そうさな、1番と2番にするか! その二人で『ペッキーゲーム』をして貰うぞっ!」
ケンの手には“細長く焼いた棒状のビスケットにチョコレートが掛かった大衆菓子”が1本摘ままれていた。その形状と名称にファナティックとジスカールが打ち震える。似たような名前とゲームに二人は聞き覚えと心当たりがあったのだ。そして、そのゲームを知らぬ他の面子も、例えようのない不安に襲われるのだった。
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