451 恋バナ
「前は推しだけど恋じゃないって言ってたじゃない! ねえジラフ!」
「そうだぞジラフさん! 応援するぞジラフさん! さあ! さあ!」
「逃げられるとは思ってなかったけどォ! いざこうして囲まれると辛いィ!」
「恋愛ネタ久しぶりなんだからわたくし達だって楽しみたいわよ!」
「そうだぞ! お裾分けを所望する!」
「分かった! 分かったからァ~!」
左右からのステレオ攻撃に負け、ジラフが白旗を上げた。
「その、えっと――……まあ、その、ホラ!? ジスカールちゃん試練が終わって神眼を得て戻ってきたじゃない!?」
「ええ」
「うむ!」
「それでえっと、前より色々分かっちゃうようになるから、その……知られたくない事があるなら、ネックレスを外しちゃいけないよと言われてネ……?」
ジラフが頬を染め、モジモジと語り始める。お裾分けを貰う二人は物凄い笑顔でウンウンと聞いている。
「後その、試練に行く前にネ? アタシの過去の話をするって約束してたのヨ。友達なのに君はあんまり自分の話をしないじゃないかって言われて、それで……」
「確かに深いジラフさんの過去話は聞いた事が無いな?」
「必要があれば話すけど、いちいち細かく触れ回るような話じゃないのヨ」
「まあわたくしの深い過去もカイしか知らないわね」
メイやトルトゥーガのように移住に差し障りがある時の把握を除き、全員が全員、互いの深い過去を知っている訳ではない。なのでその辺りは置いておき、二人とも続きに耳を傾けた。
「それでまあ、アタシのちょっと人に言いたくない話なんかもしたんだけどォ」
「したんだけど!?」
「したんだけど……!?」
「ぜっ、全部受け入れてくれてェ……!」
言われた事を思い出しているのだろう。ジラフの顔が乙女のように真っ赤に染まってポーッとなっている。ケンとベルが更ににじり寄った。
「何と! 何と言われたのだジラフさん!」
「お裾分けを! 誰にも言わないからわたくし達にもお裾分けを頂戴っ!」
「……ッッ、君を嫌う事だけは無いよ、決して君を一人にはしないよってェ!」
「ほおぉ!」
「んま!」
ジラフが頬を押さえ、クネクネしながら思い返している。
「出来るか出来ないかで言えば、わたしは君とセックス出来ると思うってェ!」
「何と! 何と……!」
「ええっ!? 避妊具要る!? 用意しましょうか!?」
「今の所は要らないわヨッ! アタシ大きいから流石に怯えてるし……ッ!」
「わはは! ジラフさんは俺とそう変わらんからな!」
「シモは本題じゃないのヨッ! まだキスだってしてないんだからッッ!」
野太い声で恥ずかしそうにするジラフに、もう二人ともニヤニヤが止まらない。
「後、後はネ……! 『ちゃんと考えていたよ。これを恋と呼んで良いかは分からないけど、愛だとは言える。君と居ると落ち着くし安らぐ。一緒に居ると楽しい。強くて頼もしい所も、気配り上手で優しい所も、全部好きだよ』ってェ……!」
「ちゃんと考えていた! 偉いぞジスカールさん……!」
「ああん! 他人事なのに若返るゥ……!」
「イヤンもう恥ずかしいッッ!」
照れたジラフがばしばしと容赦ない力でケンの肩を叩いている。ケンなので全然平気で笑っているが、衝撃で室内の調度品が揺れた。
「それで、それで……ッ! 『だから、君がしたいならわたしに恋をしてくれて大丈夫だよ。ウルズスと同じように、わたしは君ともずっと一緒に居たいんだ。リエラと四人で家族みたいに過ごす時が一番幸せだ。君の過去を知った所で、何も変わらないよ』ってェ……ッ! これで落ちないの無理ィ……!」
「ハッ! だからリエラがあなたの事を『ママ』と呼んでいたの……!?」
「いえそれは自発的なんだけどォ! アタシリエラちゃんのママなのォ……!」
「パパの方が尻を征服される側なのが笑いどころであるがジスカールさんの過去を思えばこの程度何ら問題あるまい! 良い! 良い話だぞジラフさん!」
やはり皆に言い出す勇気は持てず、『正体』の所を『過去』に変えてしまったが概ね全てを正直に吐露した。照れ隠しにずっとケンの肩を叩いている。
「だから、だからねェッ! 今のアタシはジスカールちゃんにゾッコンLOVEで恋しちゃってるのォ~ッッッ!」
「ああ、ジラフ……! 我が事のように嬉しいわ! 本当におめでとう……!」
「うむ、心から祝福したい……! おめでとうジラフさん……! 後俺もそのような事をガンさんから言われてみたい……!」
「ガンナーちゃんは流石に言わないんじゃない?」
「ガンナーは絶対言わないでしょうね」
「くそっ! 俺も言われたい……!」
ケンの羨みはスルーされ、ともあれ全てを理解した二人が満面でジラフを祝福した。完全な恋人関係という訳ではないようだが、これまでに比べたら大躍進だし何よりジラフが艶々で幸せそうである。それだけで二人は十分満足した。
「ではジスカールファミリーに関しては、下手な手出しはせずに今後も温かく見守っていく事とする。それで良いなベル嬢!?」
「ええ、よくってよ。今後もし色々必要になった時は言って頂戴……!」
「一応別荘の離れがあるが、新居が欲しくなったら言うのだぞ……!」
「ウウッ、二人ともありがとう……ッ! 今で十分幸せだからこれ以上の進展は相当無いと思うけど……ッ! ……本当に、ありがとう」
ジラフもやっとケンの肩を叩く手を休めて、嬉しそうに恥ずかしそうに微笑んだ。前よりずっと『村人』としてこうした事を心から楽しめるようになったのが嬉しくて、思わず礼を2回も言ってしまった。
「……さあ! という事でアタシの暴露はおしまいヨッ! ベルちゃんの相談事の方聞きましょうッ!」
「うむ、そうするか!」
「あ、そうね。ありがとう……!」
久々の恋愛話に浮ついてしまったが、急に現実に戻される。ベルが少し難しい顔をし、あくまで『ヒントらしきを搔き集めたものでまだ何の確証も無い』というのを念押ししてから話し始める。
「試練の時に、わたくし恐らく意図的にファナティックの工房で一人にされた時間があるのよ。その時に工房中を調べまくったわ」
「ほう、確かにファナティックさんは何だかんだ甘いからヒント位置いていてくれそうであるな?」
「そう、わたくしもそう思って――結果、気になるものを発見したのよ」
それは工房の周囲に浮かぶ、幾つものファナティックが監視しているという銀河に似た各世界へのゲートだった。注意して探さねば分からない位置、足元のプレートの真下にそれはあったのだという。
「足元を覗き込んだら、ふたつのゲートがあったわ。どちらが怪しいとは言い切れないけれど、そのふたつは他のゲートとは様子が違ったの」
ひとつは今にも限界を迎え、滅び壊れてしまいそうな雰囲気を感じたのだという。もうひとつは、余りにも輝かしくて観測の必要があるだろうか? と訝しむ程に“完璧”な気配を讃えていたのだという。他の銀河はよくも悪くも発展途上や危機の最中という感じがして、実際ゲートの中を覗ける訳ではないのでベルの“魔眼”による印象だが、という事だった。
「もしあれがヒントなのであれば、ふたつのゲートのどちらかが今後の出来事に関係あるだろうと思ってわたくし調べたのよ」
「それで神の図書館に通っていたのネ」
「ええ、そう」
「それで何か分かったのか?」
ケンの問いにベルが肩を竦めた。神の図書館で薔薇の魔女に会った事と遣り取りを説明する。
「おお、薔薇の魔女か! 息災であったか?」
「相変わらず嫌な女だったわよ」
「けどわざわざケンちゃんの為に出て来るなんて可愛い所あるじゃなァい!?」
ケンが目を丸くし、今度はジラフがにやにやした。それを見てから、ベルが溜息を吐いてその後発見した記述の説明をし始める。
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