420 腐刀ココティン
「時間が無いので手短に。光と闇属性は対極にあって互いに特攻ですよね?」
「うん」
「これを『神聖』にした場合の対局は『穢れ』です。あれに神聖属性があるならば、闇属性と同じように『穢れ』も特攻効果がある筈なんです」
「宗教によって細かな違いはあるけども、どれも大筋はそんな感じだな?」
「ええ、そして『穢れ』であれば私以外でも使える筈で……」
半減属性であるリョウが目を丸くした。
「カイさん以外にも特攻攻撃が出来るって事か……!」
「そうです。上手く使えば助けになる筈なので試してみたいと……」
「おらも賛成だ。攻撃以外、呪いだとか毒みたいな感じでも使えたら敵どんの神聖力を抑えられるかもしんねえ……」
「それはやるしかないでござる! 具体的にはどのような感じで!?」
カグヤのテンションが上がって早口で問うと、カイが真剣な顔でカグヤを見た。
「穢れの解釈は様々ですが、忌まわしい不浄の状態を指します。清浄の逆ですね。死や呪いや疫病や様々な悪感情、更には性交が含まれる事もあります。これは貴女にしか出来ないんです、カグヤ……!」
「拙者にしか……!?」
「敵がドン引く程のとんでもない妄想をぶつけるんです! 貴女の腐りきった妄想であれば敵にダメージを与えられる可能性があります!」
「……!」
「!?」
「!?」
まさかの言葉にリョウとメイが二人を二度見した。カグヤが目をカッ開き、ワナワナ手指を震わせる。
「難しい事は分かりませぬが、拙者の腐り果てたドチャシコ赤裸々妄想をあれにぶつければ良いという事でござるな……っ!?」
「はい、出来ますでしょうか……!」
「拙者異形も美味しく頂けますゆえ! やってみまする……!」
カイ達は気付く由も無いが、モニターの向こう側でベル達が『おっと様子がおかしくなってきたぞ』という顔になっている。
「カイさん、僕らは無理だよね……?」
「恐らくリョウの巨乳妄想程度では届かないでしょう。恨みつらみをぶつけるにも、貴方とメイでは善人過ぎる」
「この世界でまで巨乳を擦られるとは思わなかったよ……!」
カグヤが勇者の盾ごし、敵をガン見して妄想を練る間――リョウは攻撃を防ぎ続け、メイは魔力の回復に専念していた。
「もしカグヤの攻撃に効果があれば、私も第二形態で前の世界で得た怨嗟を全てぶつける事が出来ます」
「第二形態は確かに強いけど、的が大きくなるから避けてたよね。大丈夫?」
「何としても敵の動きを止め、弱体化させてみせますよ。そうしたら全力で止めを刺して頂きたい」
「…………分かった」
カイは大丈夫という言葉には答えなかった。それでリョウとメイの表情が変わり、己が成すべき事を必死で考え始める。ベルを残して逝く筈が無いから、刺し違えるつもりはないだろうが重傷覚悟という事だ。
「整いましたァ~っ!」
そこにカグヤの声が掛かる。
「いけますかカグヤ……!」
「はいっ! 倫理を解除した拙者の妄想最早歯止めが利きませぬ……っ! 目にもの見せてやりますぞ!」
「倫理を……!」
「解除……!」
「行くでござる! 最早あの禊を乗り越えた拙者にこの程度で恥死する心は無しィッ! 我が雄姿をご照覧あれッッッ!」
勇ましく言うや、カグヤがバッと両手を敵に向けた。途端、何かが雨のように降り注いでいく。それは数え切れない数の『薄い本』であった。カグヤが前の世界を救った際に貰った『妄想をそのまま薄い本として出力できる』能力である。
「ドゥーッフフフゥッ! ちょっと大きくて異形だからと油断しておりませんでしたかァっ! 拙者に掛かればこの程度の凌辱など秒の朝飯前ッッッ! 神々しく美なりしお高くとまったその造形ッ! 手も目もサイズも多ければ多い程ッ! 大きければ大きい程に穢し甲斐があるというものッッ! その翼二度ととべなくしてやるでござるッッ!」
ビル程の大きさの千手観音めいた数え切れない手と目を持つ神なる異形――その目の多さが仇となった。元来全てを見通す為の目達が一斉に降り注ぐ薄い本の紙面を捉える。そして直後に絶句したように動きを止めた。
「……! 敵が目を全て閉じたぞ!?」
「見たくない程の何かが……!?」
「柔らかくマイルドに言えば“モブ姦”でござるう! モブ即ち拙者の妄想の翼ッッ! モブのイチモツは拙者の心のイチモツッッ! 今まさに! 吾輩の妄想が彼奴をあらん限りの倫理ブッ壊れ凌辱しておるのでござるよォッッ!」
「全然分かんないけど詳しく聞かない方が良いやつだね……ッ!?」
驚くべき事に、これまでリョウが必死で防いできた敵の猛攻が止まった。目を開けば薄い本が目に入ってしまい、動けば薄い本に触れてしまう。カグヤの妄想はあまりに強烈で、薄い本に触れるだけでヒッと手を引いてしまうような効果を持っている。それは目を凝らすとまるで――淡く“力場”を纏っているようにも見えた。
「ちょ、あれ“力場”じゃん!? そんな発露ある!?」
「リョウ殿おぉ! 拙者今ならやれる気が致すうッッッ!」
「何を!?」
カグヤが腰の大小刀を両方引き抜いた。
「我が愛刀『デュクシ』と『ヌルポガッ』ッッ! 此処に我が目覚めたる力を与えますればァ――ッッ!」
「ますれば!?」
練習、訓練というのは『閃き』と『コツ』を得た瞬間大きく飛躍する。今のカグヤがまさにそうだった。カグヤ自身もピンク色の“力場”を立ち昇らせ、掲げた大小が力場を纏い『融合』する。打ち刀と脇差が巨大な大太刀へと進化し、のみならず力場で刀身を伸ばしてゆく。
「これぞ我が“心刀”なりッ!」
「し、しんとう!?」
「心の刀と書きまする! 我が現人神ケン氏の御立派にインスパイアされ我が妄想と心の屹立をブレンドし具現化した物にござるーッッ!」
「何言ってるか全然分かんないんだけど!」
「故にこの一振りは『腐刀ココティン』と命名致すッッッ!」
カグヤが何を言っているか本当に分からないのだが、寧ろ分からない方が良い気もした。確実なのは、その『心刀ココティン』とやらが明らかにやばい気配を持っている事だった。そのままカグヤが踏み込み、鋭い一閃を繰り出す――。
* * *
「ヒィーッ……!」
「コ、コ、ティン……ッ!」
一方“理解って”しまったモニター前の二人は悶絶していた。ファナティックは引き笑いが止まらずソファの上に転がり身悶え、ベルも顔を覆って肩を震わせている。
「あんな……“力場”をあんな使い方をするなんて……っ!」
「ヒッ、ヒイ……ッ、前代未聞ですゥっ……! あの使い方は初めてですゥっ、次の学会で発表しなくてはヒィーッ……!」
カグヤの妄想は凄まじいものだった。薄い本の中でも相当深い所に潜ったえげつない性癖と凌辱の入り混じった内容――だけではなく、そこにカグヤの“力場”が妄想に現実干渉の力を持たせている。つまり敵は今、あの薄い本に触れるとどぎつい内容が濁流のように流れ込んできてしまう。見る事も触れる事も躊躇うしか無い。
「それに、したって……! ココティンは……っ、酷過ぎる……!」
「彼女をあんな風にっ、開き直らせたのはっ、アナタでしょう……っ!」
ココティン――ココロノティンティン、即ち『心のチ〇コ』の略である。腐女子がよく心に生やしているイチモツの事である。それを今まさにカグヤは“力場”で具現化してしまったのである。
普段推し同士を壁になって見守りたいと豪語するカグヤであるが、モブ姦となれば話は別だ。モブは推しではない。自由自在に都合よく形を変え更に自己投影も出来るまさしくココティンの具現なのである。敵の相手不在でカップリングが組めなかった事と、二年に渡る供給の得られぬ欲求不満、更には出立前に見せられたケンの御立派の影響により今回凄まじい形で具現を果たした。
「ちょっとファナティック! 着弾したわよッ!」
「ンヒィーっ! ヤバい! これホントにヤバいですゥっ!」
カグヤの攻撃が着弾するのが見え、再度二人が悶絶した。
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