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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第一部 村完成編

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41 年少団欒

 書置きに数日と書いてあった通り、翌朝になっても二人は帰って来なかった。


「さ、寂しい……!」


 寂しいのである。ガンが起きないので今は一人孤独に朝食を作って食べている。一人だけなので、メニューは簡単に芋を蒸かしたものだけだ。


「ガンさん起こそうとすると滅茶苦茶キレてくるし……!」


 一人旅は慣れていたし、孤独と感じる事も前の世界では無かった。だが此方に来てから殆ど毎日皆で食卓を囲んでいた為、久しぶりに一人で食べる食事の味気なさときたらない。


 ガンが一応居るのだが、ずっと寝ており起こそうとするとむにゃついた口調でころすと脅してくるので怖くて起こせない。起こそうとさえしなければ、勝手に包帯を替えたり転がしても怒らないので、手当は続けていた。だが起こそうとするとめちゃくちゃキレてくる。故に今のリョウは大変孤独だった。


「いやけどあの人寝過ぎじゃない? もう丸一日以上寝てない?」


 疲れが抜けきらないのは自分も同じだから、ガンも起きられないほど疲れているのだと理解は出来るが、やはり寂しい。傷の方は昨日よりも、通常の人間と比べるとずっと早い速度で回復してきている。だが起きてくれない。とても寂しい。


 寂しくもそもそと芋を食べ終え、カイが不在なので代わりに畑の世話をしたり、負担にならない作業をして時間を潰す。ケンが居ないので倉庫に入れた食材が取り出せないが、見越したように日持ちする食材が残されていた為、狩りをせずに助かった。そうして昼を回る。


「流石にガンさんそろそろ起きないかな……昨日から全然食べてないしな……」


 遅い昼食を作ろうと作業場に立ち、ふと思い立つ。『寝る前のお話』で誰かに聞いた北風と太陽の話を思い出したのだ。


「成程、無理矢理起こそうとするんじゃなくて、食欲の方に訴えかける……」


 閃きを得て、昼食を作り始めた。

 塩漬け豚の塩抜きをしてから、ニンニクと共に焼いていく。染み出る脂、かりかりの焼面に閉じ込められた肉汁、がつんと空腹に訴えかける美味そうな香りが漂う。出てきた脂で芋も揚げ焼きしてしまう。かりかり豚と揚がった芋の匂いが合わさり最強となった。


「…………」


 ちら。ガンが寝ている小屋の方を見るが、まだ動きは見られない。

 次に昆布で出汁を取り、海で作った干物と畑で採れた野菜とキノコを投入。塩で味を調え干物鍋を完成させる。やさしく味わい深い、肉とはまた違う食欲を誘う香りがプラスされる。調理しながらちらちらと小屋の様子を窺う。


 ――――ごそ、と何かがみじろぐ気配がした。


「――……!」


 鍋にココナッツミルクと蜂蜜と水を入れ、切った南瓜を投入。くつくつと柔らかく煮込み始める。ココナッツミルクの独特なクリーミーさに南瓜と蜂蜜の甘やかな風味が合わさり、贅沢なデザートのような香りもプラスされてゆく。


 ……ずる、ずる。ガンが小屋から手を出し顔を出し、目は閉じ顔も顰められているが、梯子を這いずるように降りて来る。リョウの勝利が確定した。


「やったー!」


 嬉々として飛び上がり、眠そうに這いずるガンを食卓へ御案内する。


「ガンさんおはよう! 昼過ぎだけどおはよう!」

「…………そのテンションなに……?」

「一人で寂しかったからだよ……!」

「…………? ケンとカイは……?」

「いや、僕が起きた時にはもう居なくてさ。ほらこれ……」


 まだ眠そうにぼんやりするガンに、昨日も見せた書き置きの板を見せる。


「……数日留守にする、確り養生せよ? 意味分からん」

「だよね」

「それよか栄養使い切っちまったから、飯食いてえ……」

「あっうん」


 どうでも良さそうにガンが板を放り、食卓にだらしなくのびる。

 その前にリョウが完成した料理を並べてゆく。飲み物は栄養が摂れるよう蜂蜜と果汁と絞ったホットジュースにした。


「いただきまァす……」

「ガンさん調子どう? まだ寝足りない?」

「あー……怪我が四割、体力は三割回復くらいかな……まだ全ッ然寝れる……」

「えっ嫌だあ……食べたらまた寝ちゃうの……?」

「おまえどんだけ一人で居たの……?」

「いやまだ一日だけどさ……」

「一日かよ!」


 だらしない姿勢で肉を齧りながら、ガンが半眼になる。


「食って寝んのが一番回復早えんだけどな……、……じゃあ夜まで起きててやる」

「やったー!」

「けど動かねえぞ。無理すりゃ動けるけどしんどい」

「いいよ、いいよ」


 南瓜のココナッツミルク煮の鍋を最後に運んできて、リョウも着席する。うきうきと一緒に食べ始めた。


「というか、起きてる事って出来るの? 眠気とか大丈夫?」

「出来るし大丈夫だ。戦地だとどんだけ重傷負っても寝れねえだろ。安全な場所でしか爆睡なんかしねえよ」

「それはそうか……戦地の時はどうしてたの?」

「回復促進剤飲んで、なるべくエネルギーを使わず隠れてじっとしてた。食って寝るよりは回復が遅くなるが、そんでも普通の人間より回復早えしな」

「なるほど」


 話しながらも、ガンがカロリーと栄養をがつがつ摂取していく。リョウはガンが村を安全な場所と言ったのが何だか嬉しくて顔が緩んでいる。


「僕の世界だと施療院とか教会だとか、薬師や回復術を使える人が怪我や病気を治すんだけど、ガンさんの世界はどうなってるの?」

「医者と病院だ。施療院みてえなやつ。けど大体は医療ポッドで済ますかなァ」

「ポッドってなに?」

「あー……入ると病気や怪我が治っちまう魔法の箱。大体の兵士が戦地から戻ると暫く入ってる」

「成程、この世界には無いもんね」


 よく分からないが、ガンの身体に合った治療法なのだと理解する。


「じゃあ、僕らは書置き通り暫くのんびり養生しておこう。あの二人ほんと何処行ったか分かんないし」

「……おう、おまえの調子は?」

「疲れはまだ抜けきってないんだけど、ガンさんよりはずっと元気だよ。畑の世話や食事なんかは全部僕がやるし、安全は任せて欲しい」

「そりゃ良かった。ありがとな」

「なので回復の邪魔をして悪いんだけど明るい内はなるべく起きていて欲しいなあ……! せめて三食一緒に食べて欲しいなあ……!」

「何でこいつこんな寂しがってんだ? ……分かったよ、いいよ」


 理解出来ない顔はされるも起きていてくれる事になった。

 昼食を終えると、二人とも安静にのんびり過ごす事にする。



 * * *


 

 竹で作ったデッキチェアに並んで寝転がり、ガンはケンの書物を読みつつ、リョウは木をナイフで削って小物を作りつつ。だらだらと他愛も無い話をしていた。

 

「………………あのさ、ガンさん」

「なんだよ」

「内緒の話してもいい? ケンさんとカイさんにはちょっと言い辛くて……」

「別に、いいけど」

 

 会話が途切れたタイミングで、リョウが言い辛そうにもじつきはじめる。


「……五人目との戦いで痛感したんだけどさ、僕はまだまだ弱いなって」

「……?」


 怪訝そうにガンが紙面から目を話してリョウを向く。


「ちゃんと護ってたじゃねえか」

「いや、そうなんだけど……ケンさんとカイさん見てたら、自分の不甲斐なさをすごく感じてしまい……」

「……おまえそれ、言外おれもおまえ側だッて言ってねえ?」

「いやごめんそういうつもりじゃ……! けど歳も近いし攻撃力は凄いけど防御力低いしどちらかといえば僕側だよね……!?」

「…………」


 ガンが半眼で、続けろと無言で促してくる。


「ケンさんはもう言わなくても分かると思うんだけど、カイさんも凄くてさ。魔法のことだから、ガンさんには分かり辛いかもしれないけど、凄いんだよ」

「分かんねえから具体的にしろ」

「はい……ええと、僕はあの戦いで、基本的に盾で護るというひとつの事しかしてないんだよね。カイさんは全域に防御結界を張った上で大小凄い数のゲートを開いて、攻撃もだいぶ撃ち落としてくれてたんだ」

「器用だな」

「さらっとやっちゃうから難しい事やってるように見えないんだけど、器用で済む話じゃないんだよ」


 魔法の事は分からないのでガンが分からん顔をする。


「普通は一度に使える魔法はひとつだ。多重展開とか詠唱スキルがあれば複数可能になるけど、魔力や消費も激しいし、難しい術であればあるほど多重展開は厳しい。で、カイさんの魔法は全然簡単な魔法じゃない」

「いっつも気軽に出してるゲートは?」

「あれ詠唱無しで気軽に出してるけど、ひとつ出すだけで割とんでもない魔法だからね。個人を飛ばすんじゃなくて、空間と空間の方を繋げてるから」

「ほぉん、じゃあ並列で結構な必殺技制御してるみたいな感じか。すげえじゃん」

「そそ」


 ちょっと分かって、ガンが首を傾げる。


「けど護りで言うなら、おまえのが強くなかったか?」

「僕は神造装備の盾を使ってるから。僕一人だけの力じゃないからそりゃ強いよ。カイさんの杖あったでしょう。あれは伝説級だけど神造じゃなくて、よりよい魔力運用の為の呪具だよ」

「ああ……おまえは補助アリアリだったのに、あっちは殆ど素だったと……」

「そう……」

 

 リョウがぐんにゃりする。


「前の世界じゃもう、もっと強くなりたいなんて思わなかった。けど今は、情けないし悔しいよ。……また、ああいう六人目七人目が来るかもしれないのに」


 皆の役に立てない事が怖いのだと思う。滅びを望むかもしれない新しい仲間に、力及ばぬかもしれない事が不安なのだと思う。

 ガンが少し考えて、また視線を本へと戻した。

 

「強くなりゃいいじゃねえか」

「そんな簡単に……!」

「おまえにゃ頼めば教えてくれる“兄貴”が二人も居るだろ。なれるよ」

「……! そうか、…………そうか……」


「おまえは剣と魔法両方使うから、成長遅えんだ、きっと。これから強くなりゃいいよ」

「ウッ……ガンさんがめちゃくちゃ優しい……!」

「全然共感は出来てねえんだけど、おまえがぐにゃぐにゃだから励ましてやった」

「言い方ァ……! ガンさんはそういうの無いの!?」


 ガンだって攻撃班として近い場所でケンの様子を見ていた筈だ。リョウが鬱陶しく身を乗り出し絡んでくる。


「鬱陶し……! 不甲斐ないとも情けないとも思わねえよ」

「悔しいは?」

「悔しいより腹立つが多少」

「腹立つは多少あるんだ」

「おまえらだけ良い装備着やがってっていう腹立つ」

「あ、そっち……」


 乗り出した身を片手で押され戻される。


「ガンさん心めっちゃ強くない?」

「弱かねえけど、比べても意味ねえだろッてこと」

「……?」

「あいつらが30歳だったら、今のおれのが絶対強い。年代違うんだから比べても意味ねえよ」

「ああ……」

「それに普通の人間から見たら、四人とも変わんねえ。全員化け物だよ」

「そうか……そうだな……」

 

 何だか納得してしまい、大人しくデッキチェアへ転がり直す。


「……何か、楽になったしやる事が見えたよ。ありがと、ガンさん」

「おう。……で、そういう話したくておれに起きて欲しかったんだろ? もう寝ていい?」

「嫌だあ……! 寂しいじゃん約束したじゃん起きててよ……!」

「ええ……」

 

 結局夜までガンに起きていて貰い、夜は二人でぐっすりと眠った。

 年長二人はまだ帰って来ない。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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