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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第五部 ファナティック編

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413 撃破

「出来るかじゃない! やる……っ!」


 真解放された勇者の盾を展開し、巨大な獣の大質量の必殺技を受け止める。分厚い光の壁に阻まれ、激しい熱量と衝撃が世界の半面を蹂躙した。今のリョウのレベルと力では、ケンと同じ事は出来ない。だから知恵を絞り、出来る事を寄せ集めて挑戦する事にしたのだ。


 普段なら出来ないが、今ならメイの『戦いの歌』で強力なバフが掛かっている。展開した力場も極細ではなく柱のように立ち昇り、勇者の剣が白い光の刀身を長大に伸ばしていた。だがそれでも、以前にケンが繰り出した『一撃目』には足りない。あれはケンの無尽蔵のとんでもない力を放出し続けて獣を蒸発させている。リョウもカグヤと同じく、一閃ならば得意だが最高潮の力を放ち続けるのは得意ではなかった。


 だから足りない部分を補うべく獣自身の力を借りる事にした。受け止め護る為の盾に増幅した力場を絡ませ更に強固に、かつ全力で踏み込み角度を変えて獣自身の攻撃が跳弾や反射のように跳ね返るように持っていく。拮抗は僅か数秒。リョウが競り勝ち、獣が身を包んだ尾を解きながら吹き飛ばされる。余波と衝撃でその身が削れる傍から再生しているのが見えた。そこに、更に踏み込む。


「行くよカグヤさん!」

「はいっ!」


 声を張り上げながら、盾を更に押し込み――大きく勇者の剣を薙いだ。以前に空間を飛び越えミカエラの胴を切断した一閃は、嘗てのリョウとは比べ物にならない程の威力がある。ケンほど長く維持は出来ないが、真っ直ぐに走った白光の斬撃が反射した獣自身の力と合わさり、回復が追い付かない程大きく肉身を削った。


「核が出ました! ゲート開きます!」

「はいっ! 一瞬で決めまする!」


 核を視認した瞬間、カイが座標を特定しカグヤの目の前にゲートを開いた。途端に核を剥き出しにする程の力の余波が溢れて来るが、カグヤの攻撃はそれより速かった。腰を落とし、深く構え膂力も力も完全に練り込んだ状態のでの抜刀一閃。それは瞬きより短い間に迸り、核を一刀両断した。


「やりましたぞっ!」

「ゲート閉じます! リョウ!」

「はいッ!」


 直後にリョウが攻撃を打ち切り、勇者の盾を全力で展開する。其処にカイの闇色の防御層が重なり、強固に四人を守った。核を破壊された獣が鼓膜を破るような絶叫を上げ、溢れるエネルギーを制御できずに大爆発を起こす。余波が消えるまでは数分掛かり、完全に倒したと分かるまで皆息を殺していた。


「――……やった、かな……?」

「気配も消えたし、余波も収まったようですね……」

「わ、わぁ……おら達で……あんなおっかねえ相手を……!」

「や、やった……! やったでござる……!」


 皆が小声で確認し、徐々に確信を持つと興奮した面持ちになる。


「や、やった……! このメンバーでも倒せたよ……!」

「ええ、やりましたね……!」

「ふへぇ……! 何だかレベルも上がった気がするな……!?」

「はっ……! 本当だ……!」


 アナウンスや目に見える形ではないが、スッと経験値のようなものが入って来た気がする。


「カグヤさんの経験値倍増スキルの効果ってここでも出てるのかな?」

「皆様がどれだけ貰ったか比べられないので分かりませぬが……」

「大丈夫だぁ、倍増されてるならおらを追い越すだろうし、その時はおらがLV9000になった時点で試練が終わりますっ!」

「結局一番レベルの低い者がLV9000に達したら終了という形にしましたものね」

「うんうん」


 レベル設定は悩んだのだが、カグヤが前の世界で貰った経験値倍増スキルの効果があるかどうか分からないので対象を指定せず『一番レベルの低い者が』という設定にした。これならば、メイでもカグヤでもどちらか対象者が達した時点で終了になる。


「ともあれ、この調子で頑張って行こう! 幸先はいいよ……!」

「ですね……!」

「へぇ、頑張るぞ!」

「拙者も頑張るでござる!」


 全員笑顔で初戦を終えられた事を喜び、カイが防護壁を解いた。リョウも勇者の盾の展開を止める。その瞬間だった。


「えっ」

「あっ」

「へっ」

 

 声無く目の前でカグヤが潰れた。文字通りぐしゃりと潰れた。一瞬で肉塊と化した様子に目を丸くするが、次の瞬間大きな影が全員に落ちる。見上げると、そこには巨大な新たな敵が浮いており――。


「わああああ……! メイさん蘇生っ! そっ蘇生っ!」

「カグヤどーん! 今すぐう……!」

「はっ早い! 次の敵が早い……!」


 全員悲鳴を上げて慌て始めた。



 * * *



「ウププ! やっぱりドタバタはするんですねェっ!」

「あの子達、緊張感というものが無いのかしら……!?」


 ファナティックが爆笑し、ベルが頭を抱えた。


「まあまあまあ! 図太いのも才能っ! 仲良き事は美しきかな! 吾輩わがはいもアナタの言っている意味が分かりましたよォっ! “亀の歩み”であろうと、彼らは仲良くコツコツ堅実によりよい成長を選んでいるという事ですねェっ!」

「そういう事にしておこうかしら。今のはわたくしから見てものんびりしているように見えてしまったわ……」

「アハン! それは大丈夫ですっ! これから敵のレベルがどんどん上がってのんびりなど出来ませんからァっ!」


 スロー再生にしていたモニターを通常速度に戻す。遅れていた時間がぎゅるぎゅる早送りされ、現地の現在時刻に合わさる。此方の時間で換算すると、既にあちらでは一月以上は経っているようだった。見れば敵のレベルも随分上がっているようで、四人が必死で戦っている。ひとまず全員、ちゃんと生存していて発狂もしていないようで安心した。蘇生も回復もちゃんと機能している。


「……確かにのんびりもしていないし、顔つきも引き締まってきたわね」

「ええ、ええ、これなら全員問題無く試練をクリア出来そうですねェっ!」


 頷いたファナティックが席を立つ。ベルが怪訝そうにすると、ニカーッと微笑まれた。


「吾輩用事を思い出しましたので少々席を外しますっ!」

「安全管理は?」

「この様子なら大丈夫そうですしっ! 何かあれば大声でお呼び下さいなァっ!」

「…………」


 ベルが良いとも駄目とも言わず、ただ肩を竦めた。それを了承と受け取って、ファナティックの姿が煙のように掻き消える。ベルとしては『安全管理は!?』という思いはあるものの、ファナティックが居ない状態はある意味有難かった。


「此処にヒントがあるとは思えないけれど、一応ね……」


 モニターから視線を外し、宇宙空間に似た工房をぐるり見渡す。此処は次元の狭間。次元を超えられる者しか辿り着けぬ場所。銀河のように見えるものは別世界へのゲートだろう。過去に数度だけ見せて貰った師匠の次元の狭間工房に似ている。つまり今のベルでは到達出来ない“高み”だ。


 ファナティックが訪れて試練を持ち掛ける事自体が異常事態。であれば、次元規模で何かが起こっているのではないかと思ったのだ。とはいえ“言えない”事柄なら、ファナティックが情報を残しておく事は無いだろう。逆に遊び心で“ヒント”を散りばめている可能性もあった。親切心でヒントは仕込むが、気付かなければそれまでというような――悪趣味な彼ならばやりかねない。


 彼が戻って来るまでベルは、モニターも気にしつつ念入りに工房内を魔女の特別な目で観察していた。



 * * *



 ジラフは一人、ツリーハウスの厨房でリクエストされたブリオッシュを作っている。今は生地を寝かせている所で、大事な彼らの無事を祈りつつ寝かせの要らない焼き菓子も追加で作っていた。辺りには焼き菓子が焼けてゆく甘い香りが漂い、その中で一人物憂げに息を吐く。と、不意に気配と声がした。


「おや良い匂いっ! 血の傭兵王は菓子作りが御得意でいらっしゃるっ!」

「アンタ! こんな時にこんな所で何してんのヨッ!」

「ンフーッ! アナタに用事があって来たのですがァっ!? ちなみに我が親愛なるジスカール教授とウルズスは頑張っていますよっ!」

「あらそ! アタシに用事だなんて何かしらッ!」


 ツンケンしてやるが、ファナティックが構わず笑顔で近寄って来た。


「ついでの頼まれ事の御届け物ですよォっ! 『アナタの雇い主』からのねっ!」

「――……」

 

 そう言われた途端、ジラフの表情が強張った。

お読み頂きありがとうございます!

年末年始仕事+諸々で執筆時間が取れませんので、31日と1日の更新はおやすみさせて頂き、次回更新は2日となります宜しくお願い致します。書きかけの短編がありますので、そちらは明日か明後日にアップ出来ればと思っております。皆様良いお年を!

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