412 同じは出来ない
カグヤの放った幾重の斬撃が獣の全身を斬り刻み削っていく。只の斬撃ではない真空状態の刃は、触れた瞬間気圧のアンバランスを生み出し大きく傷を弾けさせるように広げていった。
「むう、綺麗な斬撃より此方の方が若干治りは遅いようでござるが……誤差のようなものでというか血がっ! 血がーっ!」
「カグヤさんっ!」
獣の身体構造上、動きを止めるような部位に傷を負わせたので数秒静止させる事は出来たが――お返しの如く傷から強酸の血液がまき散らされた。悲鳴を上げて逃げ回るカグヤが溶けてしまう前にリョウが慌てて盾を掲げて庇う。
「急所攻撃により一瞬足止めする事は可能と分かりました! けど傷の治りが早過ぎるでござるっ! 出力はまだ上げられるにしても、核を剥き出しにするには攻撃し続けねばならぬかとっ! ケン氏達はどうやって……!?」
「ああ、ええ、ケンさんが馬鹿みたいなエネルギー放出で蒸発させ続けて剥き出しにしてたかな!? それを遠くからガンさんがまた馬鹿みたいな攻撃で……!」
「拙者そんな事は出来ませぬがぁ!? 一閃を連続で繰り出してもそれは一閃の連続なんでござるよぉ……!?」
「だよねえ……!?」
リョウもその辺りは薄々分かっていた。敵は同じだが、今回は構成が違う。カグヤが『ひとまず核の位置を確かめまする!』と再び色んな攻撃を放ちに飛び出していく。リョウも迎撃とサポートをしながら必死で頭を巡らせた。自分達では、ケンとガンと同じように獣を倒す事は出来ない。
恐らくカグヤの攻撃は斬撃系がメインで、鋭く疾い分その攻撃はその場に留まり続けない。今も色々試しているようだが、出力を上げての連続攻撃で核を剥き出す事自体は可能だろう。だが、その場合獣から飛び散る強酸や腐食性の体液を浴び続けなければならない。リョウも同時に攻撃する必要がある為、守り続ける事は不可能だ。
「となると、カグヤさんが核破壊の担当になるな……」
リョウが核を剥き出しにする攻撃を仕掛け、カグヤが止めを刺すという形が一番良いように思う。遠距離から攻撃出来るなら良いが、もしくは――。
「カイさん!」
「はい何でしょう!」
「カイさんの攻撃で核を剥き出しにする事は出来るかな?」
「出来ない事は無いですが、大分大技になりますのでリョウ達が近付けないかと……!」
「あああ、そうか……! じゃあ核の破壊は?」
「第二形態であれば直接殴るか握り潰すかで……!? ただ第二形態は物凄く怒らないと移行できないので……!」
「そうだよねえ!?」
自分が核を露出させて何とか第二段階になったカイが――というパターンも考えたが、お互いの属性が特攻なのを思い出した。自分が光の全力攻撃をしている所に魔王を飛びこませる訳にはいかない。
「ってなると、やっぱり僕からのカグヤさんか……! ガンさんみたいに超長距離で必殺撃てるかなカグヤさん……!? どうしよう……!」
「ゲート越しにカグヤが放つのはどうですかリョウ!?」
「それだ……!」
核が露出した瞬間にゲート越しで必殺を叩き込めば、距離は関係なくなる。その時カグヤが『核の位置が分かったでござる!』と声を張り上げた。
* * *
「こっちは正統派というか――まだ安心して見ていられるわね」
「フフッ! 若干ドタバタしておりますけどねェっ!」
「初めて組んだパーティーなのだから仕方ないでしょう」
「これは失礼っ! 初々しくて可愛らしいと言い換えまショうっ!」
ジスカール達の試練に比べ、金扉の方は正統派というかまだ普通に見ていられた。ファナティックが気を利かせて初戦をスロー再生してくれたので、普通に二人で観戦する感じになっている。
「とはいえもう少し頑張って頂きたい所ではありますっ!」
「その心は?」
「勇者と魔王は直接対峙していないとはいえ、既に弱点も攻略法も分かっている相手ですからねェっ! 既にあちらの時間で15分経過しておりますよォっ!」
「初回サービスなのに攻略が遅いという事ね?」
「ええ、そうですっ! 星落としは単身で三分掛からず倒しましたからねェっ!」
その瞬間ベルがファナティックを睨んだ。
「ガンナーにも最初に“コレ”を出したの?」
「ええ、ええ、レベルは少し落としましたがほぼ同じ獣をっ! けれど彼は冷静でしたし、的確に最速で処理していましたよォっ!」
「単身で一体どうやって?」
「最初に有無を言わせぬ重力波で獣を圧し潰しました。再生し続けようが潰れて“平たく”なり続けていれば核は見えますからね。そこを人工衛星からの攻撃で破壊していましたよォっ!」
そもそも三分だし、聞いた感じ怪我も苦労もしていないようだったのでベルも少し表情を緩める。
「流石うちの子だわ。優秀じゃなくって?」
「ええ、ええ、吾輩の子でもアリますからしてっ! 星落としは“殺す”為の理解と学習が誰より優れて――」
「お黙り、わたくしの子よ。不愉快! 大変に不愉快!」
「エーッ! ではアナタの前では控えますけどォっ!」
「つまり一度殺し方を学習しているから早かったという事ね」
不愉快なので『吾輩の子』は仕舞って貰い、話を続けた。
「そう、そういう事ですっ! それに比べると此方の初心なパーティーは効率には欠けておりますでショうっ! 四人も居りますのにっ!」
「そう言ってしまえばそうだけれど、効率が悪いだけじゃないと思うわ」
別にカイが居るからパーティーの肩を持っている訳ではなかった。ベルがモニターを眺めながら、少ぅし微笑ましそうにする。ファナティックには効率に欠けるように見えているが、本質はそこではない。
メイとカグヤはこのレベルの敵は初めてだ。だからリョウは敢えて交戦を長引かせ『最良』の倒し方をしようとしている。二人に経験を積ませ慣れさせること、全員の能力を把握し、一番味方の被害が少なく倒せるように作戦を練ること。一人よがりではなく、ちゃんと周囲の言葉も聞いている。前とまったく同じ倒し方は出来ないから、今ある手札で自分達なりの攻略を探しているように見えた。
「そうよね、いつもはケン様が居るから出番は無いけれど。リョウも違った形で皆を引っ張れるのだわ。――大丈夫よファナティック、きっともう倒すから」
「スロースターターという事ですかァっ!」
ベルの言う通り、カグヤが核の場所を報告してからのリョウの采配は早かった。全員に指示を出し、まずはカイとメイの攻守が入れ替わった。カイが防御を受け持ち、メイが『戦いの歌』でリョウとカグヤに強烈なバフを掛ける。カグヤは後方に下がり、必殺技を撃つ為の集中状態に入った。
リョウが矢面に立ち、ケン程ではないが勇者の剣が力場を纏って大きく長く伸びる。このコツは以前のミカエラ戦で覚えたものだ。そのまま圧されつつも幾多に分かれた槍のような獣の尾とまともに打ち合い、時折盾で押し込んで距離を詰めてゆく。同時に放たれるエネルギー弾はカイが魔法の複数展開で打ち落としていた。
「これでは勇者が必殺溜めをするタイミングが無いのではないですかっ?」
「いいえ、リョウは敵の技を知っているのよ。待っているんだわ」
「ほう!」
ベルの言葉通り、焦れた獣が大きく跳躍し尾で全身を包んで巨大な一条の槍と化して突貫してくる。全てを叩き壊して熱量で周囲を融解させるような“大技”だ。大技だからこそ通常攻撃に比べてラグがある。そのタイミングをリョウは見逃さなかった。獣が突貫する間までに、リョウの勇者の剣も刀身を伸ばし更に力場を蓄えている。更に同時に、勇者の盾までも“真解放”が行われた。
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