411 パーティーアタック
金扉の四人が試練空間に転移した時、目の前には見覚えのある『獣』が居た。
「……ッ、カイさん……!」
「はい……ッ!」
見た瞬間リョウが目を剥き、全力で勇者の盾を展開し同時にカイも障壁を張った。メイとカグヤが驚く中、リョウとカイが同時に叫ぶ。
「これ“五人目”だよ……っ!」
「これは“五人目”です……っ!」
最初の敵は全員の平常レベルの平均値『LV6234』だ。“五人目”がケンの見立てでLV6000~LV7000だったから、レベル帯的には“五人目”クラスが出てきてもおかしくないとは覚悟していた。だがこんな――ファナティックが意図的にそうしたのだろう、目の前の獣は外観から性能まで酷似した確かに“五人目”だった。
数百の目をもつ血膿色のおぞましい獣。“そのまま”だとするとおよそ体長100m、体重は3万トン超え。空を自在に駆け回り、腐食性の体液をもち触れれば腐食する。同じく触れれば有害な瘴気を纏い、体表で爆ぜている赤黒い雷のようなものは、強過ぎる内包エネルギーが溢れてきているものだ。
「え、ええ……っ! カイどんの村の記録で見たあれか!?」
「せ、拙者まだ見てないでござる……! けどやばそう!」
「ざっと説明するけど本当に気を付けてね……ッ! やばいよ!」
盾と障壁を展開した直後、獣の撃ち出したプラズマ弾が着弾して辺りに融解しそうな熱と衝撃をばら撒いた。『このようにエネルギーを直接撃ち出してきます!』とリョウとカイが記憶にある限りの特徴を語った。尾を槍のように変形させたり、自身ごと槍のように突貫したり、全ての攻撃が超必殺技レベルであると。
「ひいっ! 拙者の世界のラスボスよりやばいのでござるがぁ!?」
「それだけじゃないよっ! 再生速度が異常な上に二十枚位のバリア持ちなんだ……! ケンさんの小手調べ攻撃を一秒で完全再生するくらい!」
「バリア自体の回復も早いんです。バリアがまず此方の攻撃を軽減し、致命打を与え辛い上にバリアも肉体も急速に再生しますから……!」
「攻守ともにチート過ぎでござろうが!」
自身もチートを授かっているのに、カグヤが悲鳴を上げた。説明される間も、あらゆる攻撃が盾と障壁の守りを襲っている。それを見るだけで『嘘では無い』というのが嫌になる程理解出来た。
「け、けどっ、ケンどん達と四人で倒せたんだろ……!?」
「実際倒したのはケンさんとガンさんだよ……! 僕らは死の土地以外に被害が出ないように守る担当だったからさ……!」
「具体的にはケンの一撃目でバリアを破壊し核を露出させ、ガンの二撃目で核を仕留めています! このフィールドなら余波を気にせず四人で戦えるとは思いますが……!」
「つ、つまりそれは一撃だろうが二撃だろうが、我々であの二人クラスの攻撃力を生み出さないと話にならぬという事で……!?」
「そうなるねっ!」
「あわ、あわわわぁ……! どっ、どっ、どうしたらぁ……!」
「お、おらもこんなおっかねえ敵相手は初めてで動揺しとります……!」
「リョウ、貴方が指揮を執るのですよ」
動揺するメイとカグヤとは裏腹、カイが冷静にリョウを見た。
「僕が?」
「ええ、リョウは長年勇者としてパーティー戦闘に慣れているでしょう。この人数の指揮なら一番場数を踏んでいるのが貴方です」
「そうか……分かったよ」
この世界に来てからはケンが主導を執るから何だか久しぶりな気がした。だがこの場にケンは居らず、初見のメイとカグヤは動揺している。カイも確かに魔王側でパーティーアタックの経験は少ないだろう。状況を見て取ると一瞬で覚悟を決め、深く頷いた。
「メイさん。全員に防御強化のバフと、その後此処に防御壁を張るんだ」
「へぇ……!」
「メイさんの防御壁が完成した時点で僕とカイさんは防御を解除。僕とカグヤさんが敵を攻撃する。僕が攻撃を引き付けるけれど、カグヤさんに向かった時はカイさんがサポートして下さい」
「はっ、はいぃ……!」
「はい、心得ました」
言われてすぐ、メイが詠唱開始し全員に強烈な防御バフが掛かった。
「カイさんには援護と防御、離れた時のメイさんへの指示まで臨機応変に任せます。カグヤさんはひとまず、色んな出力の攻撃を試して『どの技なら核まで届くか』を見出して欲しい」
「はひぃ……!」
「僕はバランス型で、カイさんとメイさんは後衛型だ。この中だとカグヤさんが一番攻撃力を出せると思う。頼んだよ」
頼まれて悲鳴が出そうになったが、自分を信頼しきった勇者の眼差しを見ては否とは言えなかった。この時初めてカグヤは『ああ、この人は勇者なんだ』と理解した。普段の様子とは全然違う、ケンに王の風格があるように、リョウには勇者のカリスマがある。無言で口を引き結び、カグヤが頷く。
その直後にメイの魔法が完成した。盾と障壁の守りに重なるよう生まれた神聖防御壁は光り輝き、堅牢な強さを感じさせる。
「防御壁出来ましたっ!」
「流石メイです。これなら十分持ちますよ。では、リョウ――」
「ああ。行くよ、カグヤさん!」
「はいっ!」
展開していた守りを打ち切り、駆け出すリョウの背を追うようにカグヤも走り出した。カイは新たに詠唱を始め、獣を取り巻くように幾つもの小型の魔法陣が浮かび上がる。それらが一斉に闇色のエネルギー弾を撃ち出し、獣を牽制した。
「メイ、並列詠唱は出来ますね? 防御壁を維持しつつ、彼らのサポートをするのです。最初は敵の把握に時間を使って構いませんが、慣れたら回復は任せますよ」
「へぇ……!」
カイは兎も角メイはこの“獣”も、こんな強敵との戦いも初めてなのだ。だが決して足手纏いになる訳には行かない。メイも目を皿のようにして、獣の動きを見定めながら並列詠唱に集中していった。
「カグヤさん! 奴は目が多い! 照準も外さないから気を付けて!」
「はい!」
先んじたリョウが――盾もあり『タンク役』に向いている為、攻撃を引き付け受け止めながら声を張り上げた。普段より美しく重厚な刺繍の施された着物に袴姿の“最強装備”を纏ったカグヤが、腰に佩いた大小二本差しの打ち刀の柄を握る。武器の方も美しく、一見儀礼用に見えなくもないがこれらは全て神が鍛えた『英雄の為の』装備である。
「行くでござるよ! デュクシッ!」
リョウが攻撃を受け止めた瞬間、陰から瞬歩で飛び出し居合抜きの一閃を獣の前脚へと見舞った。カグヤ命名の愛刀『デュクシ』から繰り出される斬撃は、この世に斬れぬものはないのではないかと思わせるほど鋭く、思わずリョウが目を瞠る。
デュクシの一撃は、体長に相応しく直径10メートルはあろう獣の前脚を立ち落とした。バリアがあろうと問題の無い攻撃力だった、が。
「はっやっ! 回復はっやっ!」
落ちて離れる瞬間に爆発的に肉が盛り上がり再生し、やはり一秒ほどでくっ付いてしまう。驚愕する中、頭上から巨大な尾がカグヤを潰すべく豪速で迫り――慌てて飛び退く。リョウが見る限り、カグヤは攻撃力と速度に秀でたタイプのようだ。
「リョウ氏! 色々試してみるでござるっ! 拙者速度はありますが『打たれ弱い』ですので援護をお願い致すっ!」
「分かったよ!」
カグヤが獣からの攻撃を避けつつ、カッと目を見開いた。静かな水面のように澄み渡った眸は、所持するスキルの『心眼』である。同時にブーツに包まれた足元にも力が湧くような気配があり、更に速度が上がる。
研ぎ澄ました集中と『心眼』にて獣の巨躯を探った。筋肉の躍動や呼吸、数多のぎょろりとした目の動き。初見でも『攻撃して最も効果的な部位』を感じ取ると大きく飛び上がる。その後見えぬ速度で幾重に振るった真空状態の巨大な斬撃は、大きく獣を削っていった。
お読み頂きありがとうございます!
師走に追われる関係で明日の更新はお休みで、明後日更新となりますよろしくお願いします!




