404 見たかったやつ
「ハアッハアアッ! 下ろし髪ィ! トランクス丸出しィ! しかもぶかぶかミリTッッ! 解釈一致! 完全に解釈一致でござりまするゥ~!」
「なんだこいつ……! 別にこのシャツはいつも着てんだろ!?」
「普段はぴったりサイズでござるからァ!」
「このサイズは使う奴が他に居ねえんだよ! 筋肉組だと小せえしカイとジスカールはTシャツあんま着ねえし! 勿体ねえだろ!」
数十年ものとはいえ未使用で保管状態も良かったミリT始め衣服関連は、ちゃっかり村でも使用されている。サイズが丁度良いものは各々日常使いで、該当者が居ない微妙なサイズはこうして寝間着で活用されているのだ。
「デュフゥッ! ガンナー氏もケン氏もトランクス派なんですなぁ……っ!」
「村の男の九割はそうだよ! 支給された奴そのまま穿いてんだよ……!」
「そうだぞ! だが希望すればジラフさんのように特注ビキニも貰える!」
「つまり例外の一割はジラフ氏という事……!」
ベルが衣服の支給をしてくれるようになってから、村の衣服事情は初期に比べて改善している。下着のみならず希望を出せば大体叶えてくれるのだが、村の男の殆どはおしゃれに興味が無いので支給されるままだ。パンツも土地柄、通気性を取ってトランクスのままで良いやと希望を出さない者が殆どだった。
「ハアァ、ありがたや……! ありがたや……!」
「マジで分からねえ……! ケンもおまえも似たような恰好だろうが……!」
カグヤに拝まれ、ガンが今世紀最大の分からん顔をした。Tシャツとトランクスならケンだって同じだし、カグヤだってゆったりしたTシャツと短パンである。一体何が違うのか――それはあまりにもガンには難しかった。
「勿論ケン氏の事も抜かりなく見ておりますぞっ! 夢のような筋肉とぴっちりTのマリアージュそしてトランクスッ! 最の高! ガンナー氏の下ろし髪に気を取られ感動が後回しにになってしまっただけにござるっ!」
「何言ってんだこいつ……! もう帰って良いのか!?」
「待てガンさん! カグヤさんへの餞別だぞ! もう少しサービスしていけ!」
「何がサービスになるかさッぱり分からんのだが!?」
確かに試練は大変なので、餞別で頑張れるというならそれ位はガンとてやぶさかではない。が、まったく分からない。
「まあまあ、すぐ終わる故そこで待っておれ! カグヤさん、近う!」
「はひぃ!」
ガンを待たせ、今度はケンが前に出た。カグヤも呼ばれて慌てて前まで行って直立する。
「約束していた俺の“ご立派”を見せてやる。過去のエピソードは試練から戻った時の楽しみに取っておくがよい」
「アヒイィィ! 現物を拝ませて頂けるのでござるかァッ! 現物をまず拝見した後のエピソード生殺しッ! やる気と妄想が漲りまするゥッ!」
「うむ! 戻った時の楽しみはあった方が良いからな!」
ガンが無の顔になり、普通にケンがシャツとトランクスを捲って“ご立派”をカグヤに披露した。恥ずかしげもなく覗き込むカグヤから感嘆の声が上がる。
「フオォォッ! ケン氏! ケン氏ィ! これはまさに“神”でござるゥ! 惜しみなきギャランドゥまで見せて頂き拙者感無量……ッッッ! きっ、記憶に焼き付けて宜しいか!?」
「ああ、構わん! 満足いくまで見るが良い!」
「ハアァ……! 平時でコレとは覇王が過ぎる……! 臨戦態勢になってしまったら如何ばかりか……!」
「わはは! 流石に臨戦態勢は見せられぬが、其方の期待を裏切る事は無いぞ!」
偉ッそうに高笑いするケンの声を聞きながら、無の顔をするしかないガンにロボ太郎がフォローのように呟いた。
『古来、戦地に向かう若者の筆おろしをシてやルという文化が一部地域ニありマしタので、多分コレもそうイう感じのものデハないかト……?』
「絶対違うだろ……!」
ロボ太郎にツッコんでる内に、どうやら“ご立派”披露も終わったようだった。カグヤが肩を震わせながらケンに感謝している。
「ウッウッ、拙者これで明日も頑張れまする……!」
「他に希望は無いか? 無ければBLタイムとやらを奪っては悪いから戻るぞ!」
「アッアッ、ではケン氏の前髪を崩したお姿とっ! ガンナー氏の生尻を――」
「ふざけんな嫌だよ! おまえは謙虚ッて言葉を知らねえのか!?」
「ではせめて腹筋をぉ……!」
「ケチ臭いぞガンさん! 尻が駄目なら腹筋位見せてやれ!」
「…………」
ガンが物凄く舌打ちし、Tシャツを捲って腹筋だけ見せてくれた。途端にカグヤが感激して『はわわ』と口元を押さえる。
「バッキバキ……! バッキバキでござる……! 皮下脂肪どこォ……!? ガンナー氏細いのに薄いのにバッキバキしゅごいィ……!」
「細い薄い煩えわ! マジで気持ち悪ィなおまえはよ……!?」
「恐らくこれは褒められているぞガンさん!」
「最上級に褒めておりまするゥ……!」
「うるせーばか! ケンさっさと済ませろ! 帰るぞ!」
ガンがブチ切れそうなので、早々に済ませる事にした。
「ではカグヤさん、とくと見よ……!」
「はひぃ!」
適当に撫でつけながら乾かす為、普段は大体額が出ているケンの髪が、わしゃわしゃ崩され前髪が落ちる。途端カグヤが悶絶した。
「アヒィーッ! これが! 拙者これが見たかったアァァ……!」
「女は俺と閨を共にせねば見られぬからな! 希望の目の付け所が流石よ……!」
普段ツリーハウスで一緒に寝起きし風呂へも入る野郎共からしたら珍しくも何ともないのだが、カグヤにとっては大変貴重なものらしい。再び感激したカグヤが打ち震え、つぅと涙まで零した。
「ケン氏……! ガンナー氏……! 拙者もう思い残す事はありませぬ……!」
「この程度で!? 思い残せ! 死ぬぞ!?」
「言葉のあやでござる! 必ず生きて戻りまするが! この感動を表現したかっただけでありィ……!」
「うむ、つまり明日は頑張れるという事だな!?」
「はいっ! 拙者今日の記憶は決して忘れず! 辛い時には思い返し必ず成功し戻ってくるでござるよ! お二人とも本当に感謝いたす……!」
試練で生きるか死ぬかの時にケンの“ご立派”や自分の腹筋を思い出されて奮起されるのは何か嫌だなあ――と正直に思ったが、カグヤが実際それで大変元気になっているので言わない事にした。
「宜しい! では後は適当に楽しみ明日に備えよ! 徹夜はいかんぞ!」
「はいぃ! 気を付けまする! お二人ともおやすみなさい!」
「おう、おやす――」
「おやすみ!」
「おい!」
おやすみを言い合うタイミングで、問答無用でケンがガンを抱え上げた。再び『ギィヤァアァ! 追いサービス姫抱きィ! 現人神イィ~!』とけたたましい悲鳴を上げるカグヤを背に、のしのしケンが三階へ降りてゆく。数秒階下でケンを罵るガンナーの声が聞こえたが、それすらカグヤにとってはご褒美だった。
「ハア、ハアァ……! ハアァァ……! ロボ太郎氏……!」
全ての音が聞こえなくなってから、感無量でカグヤがベッドに突っ伏す。
『ハイッ! 先程の検索を続けマスか? それとも今のケン達の姿を再生しマスか? 今でシたらケンの局部以外はメモリーに残っテいまスよ!』
「流石ロボ太郎氏ィ……! 勿論ケン氏達の姿をエンドレスリピートでお願い致すゥ……! 今夜記憶に焼き付けるでござるが! 試練から戻っても反芻したいので永久保存しておいてくだされェ……ッ!」
あまりにも仕事が出来るロボ太郎のお陰で、今夜のカグヤの『お楽しみ』が確定した。歓喜と共にカグヤは夢中で餞別を反芻し、今ならばどんな敵とも戦えるような気持ちになりつつ明日への活力を蓄えるのだった。
そして恋人達はそれぞれ女子寮と魔女の屋敷でイチャイチャし、夜は更けてゆき――次の朝が来る。
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