400 金か銀か
「あの、先に話しておきたいんだけど……」
集会所に移動し、最初にリョウが挙手した。内容はファナティックとの面談で聞かされた“最強装備”の適正装備レベルがLV9999であった事と、勇者の鎧の真解放について。後はガンに聞いた金扉の試練の過酷さだ。
「ふむ、やはり何かありそうだな? リョウさんがこの世界に来た時のレベルは四千半ば位だったぞ。LV9999はどう考えてもオーバースペックだ」
「それにわざわざゲロゴミドブカスクソ野郎が、神に正式の許可を得てまで試練を与えに来ているのもおかしな話だわ。これはもう絶対今後何かあるわね」
「あるって前提だと、やっぱり試練は受けるべきだよねえ」
「まあ皆の決定に任せるが、受けておくに越したことは無いだろうな」
ひとまず全員受けるという前提で話を進める事にした。
「受けねばならんのじゃったら、儂はやっぱり銅扉一択じゃよ~!」
「まあタツさんはそれで良かろう」
「わたしとウルズスは選択肢がそもそも無いから、用意された試練を受ける事になるかな。ウルズスもそれでいいかい?」
『うん! いいよ!』
真っ先に確定したのは、タツとジスカールとウルズスだ。ジラフが残りの候補者に目線を向ける。
「リョウちゃん達はどうするか決めてる? それとも悩み中?」
「拙者は正直迷っておりまする。金扉で皆さんと行けたら一番良いとは思うものの、拙者のレベルが一番低いので――もし均等に経験値が入る仕組みだとしたら、拙者のカンストまでに特にリョウ氏とカイ氏をお待たせしてしまうと思い……」
「経験値の入り方は確かにまだ聞いてなかったわネッ」
「後は銀扉の『死なない』という部分は凄く魅力的なのでござるよ。ただ一人ぼっちで一年以上耐えられるか……? という……!」
その気持ちは凄く分かるので、メイも深く頷いた。
「おらも似たような感じで悩んどりました。けども、リョウどんがそういう事情で『誰か』が必要なら、おらはリョウどんと一緒に行きます」
「ウウッ、メイさんありがとう……!」
「ふふ、何もだぁ! おらがリョウどんと一年も離れたくねえだけですっ!」
「あっ、あっ、そっ、それなら拙者も一緒に行きたいでござるぅ……!」
矢張り孤独は嫌なので、カグヤもおずおず追従した。それを見て、ベルが小さく唸って口を開く。
「……それなら、一番レベルの低いカグヤがLV9000に達した時点でクリアという形にしたらどう? 高レベルになる程必要経験値が上がるから、単純計算は出来ないけれど。それなら誰かがカンスト後の無駄も少ない筈よ」
単純計算なので実際誤差は大分出るだろうが、と。それを聞いてパッとカグヤの表情が明るくなった。
「成る程! 確かレベル設定が出来るような事を言っておりましたものな! 一番レベルの低い拙者がLV9000になれば、他の皆様は確実にそれ以上!」
「確かに、良いかも……!」
「そうしようか! リョウどん! カグヤどん!」
メイがリョウとカグヤに笑顔を向けてから、そうっとカイの方を見る。ファナティックのお勧めパーティーにカイも入っているのだが、まだ悩んでいるようで発言していないのだ。
「その……カイどんは……?」
「私は正直迷っています――というか、ベル次第ですかね」
「……!」
カイが見遣ると、ベルは一度目を丸くしたがすぐ嬉しそうに微笑んだ。
「――ありがとう、カイ」
「いえ、既にガンナーの事でも心を痛めたでしょうし。一番貴女の心労が少ない扉を選びたいと思います」
「カイちゃん流石……! アタシ感動したわヨッ!」
「と、尊いでござるぅ……!」
ジラフとカグヤが『キャア』となったが、確かにベルはメイのように恋人と共に試練に参加出来る訳ではないし、我が子のように思うガンナーに続いて恋人を送り出さねばならない。他より心配も心労も深いだろう。
「そうね――個人的には安全な銀扉に行って欲しいと思うわ。けれど、全体の成功率や色々を考えると、四人で金扉に行くべきだと思う。カイだって一年以上一人は辛いでしょうし、自分だけ銀扉なんて嫌でしょう?」
「ベル……良いのですか?」
「良いから言っているの。金でも銀でも結局心配なのは変わらないのだから、それならあなたが寂しくない方を選ぶべきだわ」
カイが嬉しそうに微笑み返すと、今度はベルがつんと澄ました。
「けれど絶対無事に戻ってくる事! 約束して頂戴ねっ!」
「はい! それはもう……!」
「それにそもそもカイが抜けたって、金扉の最初の敵レベルは『LV5434』から『LV5360』になるだけよ。それなら四人パーティーの方が安心でしょう。カイだけでなく、他の三人も心配だもの」
「ベル氏ィ~! 拙者達の事まで心配して下さりィ~! お陰で拙者カップルの間に挟まる邪魔者とならずに済みまするゥ~!」
カグヤがベルを拝み倒し、カイも金扉へ行く事が確定した。
「そういえばその気まずさもあったわね。カグヤ相手に何も起きやしないだろうから、そういう意味でも快く許可してよ!」
「はは~っ! 有難き幸せ!」
「流石ベルです……! ありがとうございます……!」
「どういたしまして。じゃあひとまず四人は金扉で確定ね。後はメイに行く前に確認しておきたい事があるの」
鷹揚に頷いたベルがメイの方を見る。
「メイ、あなた蘇生魔法は使えて?」
「へぇ、神殿や教会で行われる一般的なもんなら」
「リョウとカイは? カグヤは魔法は使えなかったわね?」
「僕は回復魔法しか使えないかな」
「私もリョウと同じくです」
「拙者は脳筋スタイルにて……!」
ベルが皆の答えに頷き、メイに術式の説明をするように促す。
「へぇ、おらの使える蘇生魔法は幾つか条件があるんです。まず死体の状態と“総量”がとっても大事で。傷んでいればいるほど、パーツが少なければ少ないほど、成功率が下がります。後は絶対条件があって――……」
魂が肉体から離れていない事が絶対条件なのだそうだ。RPGでも教会で勇者パーティーは復活出来るのに、イベントなどで死んだNPCは生き返らない。そのような事だろうかとカグヤが聞くと、RPGという言葉が分からないなりにメイが説明してくれた。
「勇者パーティーの場合は、神の加護や本人達の意志が強くて魂が留まりやすいんでねえかな? おらは前の世界で何度か蘇生したけども、やっぱり大往生だったり、悔いの無え死に方したお人は大体魂が離れとったです」
「成る程……!」
「メイの蘇生魔法は今回の試練の『保険』になるわ。三人とも必ずメイを守ること。また、メイも無茶をしないこと。いいわね?」
大体理解したベルが、金扉組に言い含める。全員良い返事をした。
「ゲロゴミドブカスクソ野郎は、夢ワールドの蘇生魔法は『魂の損傷具合による』と言っていたわ。肉体が無い分、魂が離れるという状態にはならないと思うけれど、逆に肉体イコール魂という事だと思うから――」
「おらもそう思います。なるべく損傷しねえように立ち回らねえとだな……ベルどんありがとう。向こうさ行ったら真っ先に回復具合や蘇生条件の確認します」
「ええ、そうして頂戴」
皆がしっかりと頷き、これで明日のファナティックへの返事は決まった。
「よし! では本日は皆確り別れを惜しむよう! 残る組にとっては数時間の別れだが、試練組は数年単位の別れとなるからな!」
「カイは今夜はわたくしの屋敷に泊まるのよ。良いわね?」
「はっ、はい……!」
有無を言わせぬベルの言葉に、カイが赤面しつつも確り頷いた。それを見てこぐまがジラフを見る。
『今夜はジラフも一緒にねよ! しばらくあえないんでしょ……!?』
「ええッいいのォ~!? けどベッド狭くない!? 大丈夫!?」
「なら日本の別荘の方に布団を敷いて寝ようか。わたしも別れを惜しみたいしね」
「キャアッ! そうしましょォ~!」
こぐまとジラフの申し出に、ジラフも感激して頷いた。
「そしたら儂も今夜は海上都市で夜の接待祭りじゃの~!」
「リョウどん! 試練までにたらふく美味えもんを食べておきてえですっ!」
「分かりました! 今日の夕飯と明日の朝食は豪華にしますっ!」
「タツ氏……! ちょっとご相談がっ!」
「何じゃあ!?」
コソコソとカグヤがタツに耳打ちすると、すぐにスケベなニヤニヤ顔で頷いた。
「それは確かに良い気遣いじゃあ! よいよい! 儂の寝床を使って良いぞ!」
「え、何どうしたの?」
「メイ氏とリョウ氏っ! 拙者本日はツリーハウスのタツ氏部屋を借りて寝ますゆえっ! お二人はどうぞ女子寮でふたりきりでイチャイチャして下されっ!」
「……!」
「……!?」
物凄く気を使われた二人が瞬時に赤面し『!?』という顔になる。
「そっすっ」
「カグヤど……!」
「拙者今夜は試練前の充填としてロボ太郎氏にBL作品を大量摂取させて貰う予定なのでっ! 何卒っ! お気になさらずっ!」
「そっ、あっ、ありがとう……!?」
「カグヤどん……!」
そのまま押し切られ、今夜はリョウがメイの部屋へ泊まる事になった。
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