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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第一部 村完成編

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38/620

38 決着

 ガンは遙か上空に居た。

 あんな“でかぶつ”同士のぶつかり合いの近くに居られるほど、この身は頑丈でないからだ。

 

「見せつけてんじゃねえぞ。くッそ腹立つ……!」


 天まで届く黄金の威光。腹立つ顔を隠さぬまま、既に空に展開していた数多の分離端末を作動させる。数えて3回。撃ち出した光弾は過不足なく獣を足止めする。

 解析は終わっているし、今まで一人で何十万の“虫”と戦ってきたのだ。宙では衛星が演算のサポートをしているし、こんなものは通常運行だ。


 だが次は違う。カイが先日見通したステータスより、明らかにケンが上乗せしたのが解った。獣を倒すのに必要なのか礼儀なのかは知らないが、ひょいと気軽に見せつけられて非常に気分が悪い。

 ケンを愛する神やら祝福達に“届く”のはおこがましいと嘲笑われているような気もするし、同時にケンからは、あれでも加減しているのだろうが同じ以上の出力を要求されていると感じてそれはもう本当に実に腹立たしい。


 舌打ちする間に最初の三秒が終わる。眉間に皺寄せ、今度は此方が準備を始めた。


 既に変容している右腕が、葉脈状の光を纏わせたまま更に増殖する。金属を編み上げたような自身の何倍ものサイズの砲身へと“進化”し、更に後部に電飾を纏ったような蕾を広げてゆく。


 “一秒”


 全身の酷使がきつい。外傷よりも今内部で起きている事がきつい。構わず植え付けられた生体ナノマシンが増殖と進化を続け、花弁を広げていった。粒子を取り込み変化させ、花の中で加速し“弾”が生成されてゆく。


 “二秒”


 砲身も花弁も自身も淡く光っている。こうなると自分に生身は残っているのか、あるいは全てナノマシンに置き換わっているのか不安になる。ばたばたと吹き荒れる長髪が煩わしい。毛先まで淡く灯っているのが苦々しい。

 “弾”の生成が完了する。


 “三秒”


 空を覆って完全に開花する。眼下には此方に迫るケンの攻撃の余波と、更にその先――剥き出しの核が視える。

 嬉しくない目算通り。どれだけ肉身が削れても、今の攻撃だけで核が傷ついた様子は無い。もう一打が必要なのだ。

 間髪入れず撃ち出すと同時、視界の端、少し離れた場所に不意に開くカイのゲートが見える。


「ッは! 気が、利く――――ッッッ!」


 思わず笑ってしまう。

 撃ち出し着弾まではコンマ。一秒も必要無い。結果を見届ける前に砲身を瓦解させ、なりふり構わずゲートへ飛び込んだ。

 バウンドし、転がり込んだ先はエリア外のすぐ近くのようだった。目の前にリョウが展開した勇者の盾の光が見える。あれは此方側を護るものだ。


 起き上がる前に息を吐く前に――――始まった。


 規模の加減はしたが、何があろうと何であろうと絶対に消滅させられる“反物質”を生成して撃った。撃ち出した弾が獣の核に触れ、閃光を放ち対消滅を起こす。核ごと“物質”が消滅し、獣の内包する力と此方が撃ち出した威力だけがエネルギーとしてその場に残され大爆発を引き起こす。盾の防壁の向こうは凄まじい光と爆発で何も見えない。

 

「…………リョウとカイ、生きてッかな……」


 ケンの事は別に心配しない。ふと見れば空の端が明るい。獣の遭遇から数時間だが、一度移動したからだろう。夜明けが来ていた。

 のろのろと疲弊した身を起き上がらせ、座り込んで爆発と余波が収まるまではその場でぼんやりと眺めている。


「…………疲れた……」



 * * *


 あらゆる余波が収まる頃――――リョウが嫌な汗を滴らせ、荒い呼吸で膝を付く。カイも酷く辛そうに肩で息をしていた。

 二人とも黒い球体の中に居る。カイが二人を護るために生成した防護結界だ。幾重に分厚く生成したのだが、それも最後の一枚だったし、酷く罅入り、割れる直前だった。だが、耐えきった。


「…………終わっ、たと……思います。もう、解いても良いですよ……リョウ」

「…………うん、……ありがとう……」


 カイが球体を移動させ、エリア外で結界を解く。

 二人とも装備を放り出して地面に転がった。使い果たした。動けない。


「ちょ、っと……休んだら、二人を探しに行こう……ケンさんは、兎も角、ガンさんは……そんな頑丈じゃない、だろうし……」

「ええ、そうしましょう……ガンナーには、直前にゲートを開きましたから、避難出来ていると、良いのですが……」


 動けない。首だけなんとか動かして、エリアの方を見る。


「…………生きてるかな……?」

「……いえ……生きて…………いや、駄目かな?」

 

 いつか“ハゲ”と評したクレーターよりも酷い大穴が広がっていた。内部でエネルギーが吹き荒れた分、外に行かなかった分、数百km規模ですり鉢状に大地が抉れて地盤は完全に融解し、エリア中央は溶岩の海のようになっている。


「まあ……大丈夫でしょう。ケンさんだし……」

「そうですね……」


 まだまだ動けそうにはなかった。諦めて弛緩して大地にのびる事にする。


「けど、五人目は確実に、止められたと思うよ……」

「……ええ、そうですね」


「…………?」


 言葉を続けようとして、鼻先に触れたものに瞬く。最初は雪かと思った。違うものが、雪のように降り注ぎ始めている。



 * * *


「――――おい、ケン」

「……ガンさんか」


 余波が収まった後、リョウの盾の防壁が消えた後、のろのろと足場のみの戦闘機に乗ってケンを迎えに来てやった所だ。すり鉢状に抉れた穴が深いし広いしで中々探すのに難儀したが、爆心地から少し離れた所に大の字で転がっているのを発見した。


「迎えに来てやった」

「おお、ガンさんなのになんと優しい……」

「煩えな。動けるんだろ?」

「うむ、動ける。だが余韻を楽しんでいた」


 流石に焦げたり血が流れたりケンもそれなり傷んでいる。それなりなのが腹が立つ所だが、直撃では無かったしあの“上乗せ”を見ればこんなものだろうとも思ってしまう。それよりも『余韻』の響きの方がずっと苛ついた。


「はん、余韻だと。久々に暴れられて楽しかったか? それとも羨ましかったか?」

「はは、そういえば機嫌を損ねていたな……!」


 戦闘機から緩慢に降り、否、落ちて、のろのろとケンを覗き込むよう頭上に屈んで睨め付ける。機嫌が悪いと顔に書いてある。ケンの方はまだ起き上がる気は無いらしく、見上げてにんまりと笑った。


「両方だ」

「……くそ冷血漢。四対一なら確実に葬れる? さも五人目の為っぽく言ってたが、絶対おまえ自分の事考えてたろ」

「わはは……! ガンさんは俺をよく分かっている」

「リョウとカイはいいよ。分からんけど分かる。おまえのは腹が立つ」

「いやいや、俺も少しは考えていたのだぞ」

「少しだろ。……?」


 笑って寝ころんだままのケンが片腕を伸ばすので、怪訝そうに瞬く。伸びた指が、覗き込んで落ちた髪の白い部分をひょいと掬う。一房だけ白かった部分が、倍以上に増えている。


「…………」


 気付いたガンが、煩わしそうに指を払う。そのままやつ当たりのように、まあまあ強い力でケンを引っ叩いた。


「またまあまあ強い力で……! やつ当たりだぞガンさん!」

「どうせ痛くねえだろうが! それよかさっさと起きろ! 此処は焼けるんだよ!」


 ケンは良いだろうが、地盤は融解しているし溶岩の海の近くなのだ。此方はたまったものではない。急かすと渋々起き上がり、すぐに満面で肩を組んでくる。


「では流石に傷んだ事だし、肩を貸して貰おうか」

「寧ろおれが貸して欲しいんだが」

「ふむ、では俺が貸してやろう」


 どちらが肩を貸しているのか分からない状態で、すり鉢状の斜面を登っていく。


「戦闘機は?」

「あれ一人乗りだしおまえを乗せんの何か嫌だ」

「そうか」

「五人目は?」

「ちゃんとガンさんが仕留めたぞ。見事であった」

「あ、そ」


 訥々話しながら登っていく。


「何がむかつくんだ?」

「ああ……?」


 ガンが嫌な顔をする。ケンが愉快げに横目を向ける。


「……無限の寿命があんのに、捨てたがるとこ」

「ははは、ガンさんは短いからな」

「此処に来た時はどうでも良かったのになァ」

「だから、よき事だと言ったろう。ちゃんと情緒が育っている」

「そういう事かよ。腹立つな」


 少しずつ登っていく。リョウとカイの姿はまだ見えないが、どうせ無事だろう。


「約束を捨てたくなったか?」

「それは別に」


 互いに視線は遣らないが、見なくともケンが酷く嬉しそうにするのが解る。


「おれには分からん気持ちでも、仲間が望んでるなら異存は無い。そう言ったろ」

「ああ」

「おれの寿命が尽きる時、おまえも望み通り殺してやる。約束はちゃんと守る。どんな手を使ってでも、おれがおまえを終わらせてやる。安心しろ」

「……ああ、楽しみにしていよう」

 

「だからリョウとカイを巻き込むんじゃねえぞ」

「うむ、分かった」

「分かったならいい。だから、それまで付き合えよ。おれは今が生きて来た中で一番楽しいんだ」

「そうだな、俺も楽しい」

「あ、そ」


 なら死にたがるなと言いたげな盛大な鼻息。悪びれずケンが笑う。


「――ッはは、だから俺はガンさんが大好きなんだ」

「きッしょ」


 無限に続くかと思われる傾斜を登る内、ふと怪訝に足を止めた。


「…………?」

「何だ……?」


 夜明けのグラデーションに塗られた空に、雪が舞っている。違う、暗い空でも視認できる。鼻先に触れても冷たくない。雪ではない。

 雪のように降り注ぐの光の粒。一面に降り積もってゆく。


「これが雪か?」

「いいや、似ているが違うな」


 見ていると降り積もった光の粒が、大地の傷を、綻びを癒すように粒が糸になり、糸が編まれて同化してゆく。

 融解した大地も溶岩の海も覆われて、登る傾斜すら埋め立てられて足元がせり上がっていく。


「これは……」

「――……嘘だろ、再生されてる」


 目を瞠ったガンが呟く。いつか完全に死んでいると言った土地が、命を与えられて急速に再生している。

 呆然と見守り――――気付けば豊かな緑の大地に立ち尽くしていた。

お読み頂きありがとうございました!

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次話は明日アップ予定です。

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