377 御機嫌好う
500年前にガン世界の歴史に登場し、画期的な生体ナノマシン技術を提供した。
400年前にカイ世界の人間界の王を務め、魔族の侵攻を助長した。
300年前にジスカール世界へ渡り、考古学者の助手という立場を利用し世界に危険な遺物を流出させる。更にジスカールを監視下に置き遺物を発掘させていた。
110年前にはカグヤ世界の派生、この世界の第一次世界大戦の参戦国の首相補佐を務めていた。裏で戦争を勃発させた可能性が高い。
そして此処30年前後、リョウとメイの世界の出来事は時間が被っているが、どちらも『魔王が連続で生み出されるシステムを構築しておく』『呪術師に知識を与える』という常駐する必要が無い“種まき”の為、双方の世界を往復し『魔法ギルドの長』と『聖神殿の神官長』の両方を演じていたと思われる。
超古代は置いておき、近々だけを並べても時系列は矛盾しない。“被害者”達が突っ伏したり顔を覆ったり震える中、無事なジラフとタツが首を傾げた。
「そんなに簡単に世界を渡れるものなの? リョウちゃんとメイちゃんの時なんて、そうだとしたら同時進行じゃない?」
「渡れると思うぞ。俺の治世中も薔薇の魔女はよく姿をくらましておった」
「随分精力的に悪意を振り撒いとるようじゃが、何者なんじゃあ?」
「さっきのケン様の説明だけじゃ足りないわね。三度の飯より人の不幸が好き――なのは間違いではないけれど、それだけではなくて人間が大・大・大好きなのよ」
「どゆこと……?」
ベルが紅茶を一口、溜息を吐いた。
「本人からすれば愛故に『大好きな人間達が成長し進化する為の試練や技術』を与えているそうよ。後は死に物狂いで頑張る人間を眺めながら飲む酒は美味い」
「可哀相萌えというやつでござるか……!?」
「愛が知恵の輪より捻くれとるんじゃよ!」
「わたくしの師匠に匹敵する力を持ち、世界を自在に渡る高位の――恐らく賢者か魔法使いの成れの果て。それがゲロゴミドブカスクソ野郎よ」
薔薇の魔女とて物見遊山で世界を回るし、興味本位や退屈しのぎで手出しもする。だが一応薔薇の魔女は決して優しく無いが“善の魔女”だ。彼女が手を出した場合は、例え戦争が起き多くの血が流れようと最終的に世界は末永く平和になる。それはベルやケンの世界で実証済みだ。
「自慰しかしないド下手くそ自己満野郎とも言っていたわね。師匠とやっている事は似ていても、ゲロゴミドブカスクソ野郎の場合は大半が不幸な結末を辿るの。これまで数え切れない世界が、ゲロゴミドブカスクソ野郎のせいで滅びかけたり滅んだりしてきたわ」
「そんなのもう、凶兆とどっこいじゃない? どうして神はそんな存在を野放しにしているの……?」
ジラフが理解出来ない顔で問う。ベルが肩を竦めた。
「神の評議会の外部顧問だから。お師匠もそうよ。神では無いし議決参加も出来ないけれど、影響力はある。神とは違う視点を持つご意見番みたいなものかしら」
「何じゃそりゃあ! 人格加味しとらんのかい!」
「任命される程の偉業を過去に成している筈。それにやっている事自体は『進化の促し』だから、支持する神も居るのよ」
「ええ……!?」
「ある種の必要悪。人類よゲロゴミドブカスクソ野郎の妨害なんかで滅ばない程、自浄に優れ高潔であれ――ってこと」
ベルがやれやれ顔をする。タツとジラフもうんざり顔になった。
「納得いかんなぁ~! ゲロゴミドブカスクソ野郎なんかより儂を外部顧問にした方が絶対良いじゃろに~!」
「わたくしですら入れないのよタツ! そもそもこの事だって師匠から聞いていなければ、わたくし達は知る事も出来なかったのだから。悔しいけど次元が違うの」
「なァんか! 理屈は分かったけど納得行かないわァ~! アタシを差し置いてジスカールちゃんを200年以上玩具にした辺りとかッ! とかァッ!」
「ジラフ殿主にそこじゃろ!?」
「薄い本が分厚くなりすぎる年数でござるぅ……!」
顔を覆っていたカグヤがいち早く復活し、深い深い溜息を吐いて朝食を再開した。納得行かない思いはある。物凄くある。だが。
「目の前に居たら絶対殴ってしまうと思うでござるが……そもそもしている事が直接世界を滅ぼすのではなく、直接関与ではない黒幕の位置なんですよな……始末が悪いやつでござる……悔しい……」
「そうだな……後はゲロゴミドブカスクソ野郎が居なくても、似たような世界の危機は訪れるんだ……。ゲロゴミドブカスクソ野郎の場合は人為的かつ、色んな世界にばら撒きやがるから余計にクッッッッソ腹立つだけで……」
次にガンが復活し、朝食を再開する。
「その、ゲロゴミドブカスクソ野郎がこの世界に来るって事は無いの……? 物凄く物申したい気持ちなんだけどぉ……」
「おらも、おらもゲロゴミドブカスクソ野郎を問い詰めてえです……」
「嗚呼、メイの口からその響きが出ると中々ショッキングですね……」
リョウとメイとカイも復活し、もそもそ朝食を再開する。
「たまたまかもしれんが、俺やベル嬢の世界には居なかったろう。薔薇の魔女とのバッティングを避けているという事はあるのか?」
「師匠がゲロゴミドブカスクソ野郎を毛嫌いしているから、あちらも避けて同時に同じ世界に現れるという事は無い筈よ。ただ……」
皆の話を聞いていたケンも首を傾げ、ベルが頷いた。
「時間を置いて交互に同じ世界へ現れる可能性はあるし、ゲロゴミドブカスクソ野郎は“英雄”が大好きだから、わたくし達と遊びたくてこの世界に来る可能性はゼロじゃないわ」
「何それ……!?」
「遊ぶッて何だよ! おれらは玩具じゃねえんだよ……!」
「ゲロゴミドブカスクソ野郎はね……人の不幸が三度の飯より好きだけど、自分が与えた試練を乗り越えた英雄達がそれ以上に好きなのよ」
本来与える『愛ある試練』は乗り越えて貰うのが前提で、一番の目的は『乗り越え只人から進化した英雄を愛でたい』なのだそうだ。だが大抵失敗するので、成功した時の愛はとんでもないのだという。また失敗した場合はそれはそれで人類の不幸っぷりを楽しんでいる。
「キッショ……! ド変態じゃねえかよ……!」
「それはどの定義の変態なのでショうか。動植物や化学組成による状態変化を指しているならば適切ではアリませんが、異常や病的、変態性欲の方を指すのであれば当たらずも遠からずつまりそれは吾輩の愛なんですねェ」
「どう考えても後者だろうが! 愛ッて言や何でも許されると――……」
キッショな相槌に顔を顰めて反論しようとするが、先が続かなかった。今返事をしたのは誰だ。特定しきれず『え、今の誰だ?』と視線が彷徨った瞬間に硬直する。他の全員も驚いて動きを止めていた。
気付いた時には既に居た。空いた椅子に腰かけ普通に食卓に混ざっていた。
「…………?」
皆の様子がおかしいのに気付いて、まだ顔を覆って震えていたジスカールが顔を上げる。その瞬間目が合った。
「ンフ、お久しぶりデス。我が親愛なるジスカール教授っ」
「――――……」
語尾にハートが付きそうな語調と共に微笑まれた瞬間、ジスカールが白目を剥いて卒倒した。慌てて隣のジラフが支える。皆が呆気に取られる中、こぐまが『あーっ』と椅子の上に立ち上がった。
『なんだおまえ! いつからいたの!? 全然きづかなかった! だれ!?』
「ドーモ御機嫌好う! そう吾輩が! 噂のゲロゴミドブカスクソ野郎です!」
「うわあああああああああゲロゴミドブカスクソ野郎だああああ……!」
見覚えのある者全ての記憶と一致するイケメン顔で、ゲロゴミドブカスクソ野郎がニカーッと笑った。
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次話は明日更新予定です!




