373 文献探し
カグヤが村に加わった事で、これまで手探りで色々試していた『ジャポン系人種が好む料理』が充実した。ロボ太郎は多くのレシピを知っているが人間側が『こういう感じ』『こういう素材を使って』と検索しなければ出てこない。が、カグヤの場合は『アレが食べたいコレが食べたい』とずばりを提案出来る為、それをロボ太郎で検索し――という事が可能になったのだ。
「最近特に飯が美味い……」
「カグヤさんのお陰だねえガンさん」
「おう、でかしたぞカグヤ……!」
「ははーっ! ガンナー氏の胃袋を幸福に出来拙者も嬉しいでござるよ!」
昼の食卓にはチキン南蛮、甘辛味の豚バラこんにゃく、焼き厚揚げの大根おろし乗せ、茄子の煮びたしとキュウリの酢の物が並んでいる。
「とはいえ拙者は作れぬゆえ、リョウ氏と厨房小人氏達、ロボ太郎氏のお陰でありますけどなっ!」
「ヘルシーなメニューが増えて喜ばしい限りだわ」
「わたしも歳のせいか脂に負けるからね。こういうメニューは有難いよ」
「儂も結構好き~!」
ガンのみならずベル達にも好評でリョウとしても嬉しい所だった。他の面子は好き嫌いが無いし、ケンはひとまず肉が出ていれば文句は言わない。文化の違う世界から皆集まっている為、皆が同時に満足できる食事というのは中々難しいのだ。
「私もこういうの好きですねえ。先日の大根の煮物も美味しかったですし」
「ふろふき大根良かったよね。ああいう優しい味は僕の世界に無かったから新鮮だったな……」
「冬になったらお鍋やおでんも美味しいでござるよ~!」
「季節料理か、良いな。此処では雨季と乾季しかないが、良い季節になったら拠点でそういうのを楽しむのも一興――今後も各地に別荘を作っていくとしよう」
ケンがうむうむと頷き、カグヤを見る。
「カグヤさん、今後の別荘地に向いた風光明媚で過ごしやすい土地探しも頼んだぞ! 地質などはジスカールさん! 移動はカイさんに頼るよう!」
「ははーっ! お役目有難く! ケン氏の仰せの通りに!」
「カグヤさんもう便利なケンさんの家臣になっちゃってるじゃん……!」
「拙者今は固定の仕事がござらんから! ケン氏の為喜んで働きまする!」
最早猛烈なケン信者であるので、カグヤの目は労働の喜びに輝いている。
「そうそう、カグヤ。今日は午後から予定が空きますから、日本語の文献探しに行きますか?」
「おおっ、カイ氏! お願い出来るでござるか!?」
「ええ、勿論。もう探索の目星は付けてあるのですよね?」
「はいっ!」
「ロボ太郎も付いてッてやれよ、世界が近いならアドバイス出来るかもしれねえ」
『デスね! 了解イタしマした!』
話は纏まり、午後から早速二人と一体は目星を付けた場所に出かけて行った。
* * *
カグヤが指定した場所は日本の中でも南寄り、大き目の島だった。ゲートを潜った先は岬らしく、時差がある為夜明けの光に照らされた海と、豊かな島の自然が同時に目に飛び込んで来る。
「カグヤ、此処は?」
「四国の高知県あたりでござる。拙者も実際来た事は無いのですが、前世界の知識と今の世界の状態を見るに良いかと思い」
ガンが人工衛星で観測した現在の世界地図では、日本にも死の土地があり、主に大都市を中心に広がっている。無事な土地の中でピックアップしたのが此処だった。
「四国の名の通り、この島はよっつの県で構成されておりまして。拙者の好きな偉人の出身地という事で多少調べた事がありまする」
「ふむふむ、成る程」
「山脈で北と南に分かれておりまして、気候は異なるものの基本的には温暖と聞いておりますな。台風や土砂崩れの危険はあるものの、火山も無く何より自然豊かなのでござる。温泉も幾つかありますぞ」
『ガガ……ワタシの世界でモ名称は違いマスが似ておりマす!』
まずカグヤが考えたのは、無事な人間の施設を探そうという事だった。図書館や学校ならば文献が沢山あるに違いないと。だがこの世界は滅んで30年以上経っている。そう考えると、戦争であまり被害を受けず、かつ滅んだ後の自然環境が厳しくない所――というピックアップになった。
素人考えだが、北の方は毎年の積雪で施設が潰れているような気がした。そうなると南の方で、大都市ほどの戦争被害が無さそうな――と地図を眺めて考える内に四国が目に付いた。好きな偉人やゲームキャラにもなっている好きな武将の出身地である。この辺りなら薄っすら知識があった。
「拙者の世界では高知県は人口が少ない方で、後は農地が多いのでござる。有名な祭りや観光名所は沢山あるのでござるが、戦争で狙われるような大都市や工業地帯は無い筈なので……比較的状態の良い文献が見付かるのではと思い」
「成る程、確かに戦争で真っ先に狙うのは人口が多い大都市と工業地帯です。海に面していますから、台風や津波、後は海上からの侵攻の有無は気になりますが」
カイが納得し、うんうんと頷いた。
「自衛隊の駐屯地があったかまでは流石に覚えておりませんな……!?」
「いやいや、大丈夫ですよ。見た限り自然も豊かで色々見付かりそうです。……そうですね、私は飛べますから空から建物があるかちょっと調べてみましょうか」
『ワタシも飛べマすのでお手伝いイタしまスよ!』
「おお、お願い出来るでござるか! では拙者は地上を調べまする!」
そうして手分けして、二人と一体は前人類の痕跡を探し始めた。カイが羽を出し飛んだ瞬間、山中を横切る形の舗装道路を見付けたのでカグヤはそれを辿ってゆく事にする。カイとロボ太郎はそれぞれ離れた場所を調べる為に飛んで行った。
「ふぅむ、傷んではおるものの中々立派な道路でござる。恐らく人里まで繋がっておりましょうな」
センターラインは劣化で消えてしまっているが、ドライブコースのような片側一車線の立派な道路だ。期待が持てると思ってカグヤが早速駆け出した。チートと鍛えた冒険者生活のお陰で、長く走っても割と平気だ。
走る内、途中で幾つかの発見がある。ただ流石に海近くは台風の影響か土砂崩れで埋もれていたり、元は施設だったかもしれないが崩れてしまった跡地ばかりで収穫は無い。それでも進んでいると明らかに『人里』と思える場所に出た。
「おお……! これは……」
其処は確かに人里で、前文明の名残を感じさせる『街』だった。だが人は勿論居ないし、全てが廃墟化したゴーストタウンの様相である。
「戦火は此処にも来ていたのでござるな……」
人が消えて廃墟になったというだけではなく、地面に焦げたクレーターがあったり、穴が開いて倒壊した建物も見える。実際目の当たりにすると酷く悲しくなって眉間に皺が寄った。自分の故郷世界に酷似しているから、余計に胸にくる。
「うう……もう二度と戦争なんか起こさせないでござる……!」
若干涙目になりながら、街を捜索していった。戦火の跡が残るとはいえ、大都市に比べたら予想通り被害はずっと少ない。高い建物が少なくて、田畑も多いから田舎の街らしい。暫く道路沿いに進むと大きな建物が見えた。
「おお、これは病院でござるな」
四階建てで、駐車場があって如何にも病院らしい建物があった。看板にも読み辛くはなっているが『なんとか病院』の名前が見える。病院に文献はあるだろうかと思いつつ、ひとまず入って屋上を目指した。窓は破れ傷んだ如何にもな廃墟であるが、久しぶりに見る“現代”の施設は懐かしさもある。
「ふむぅ、町役場でもあれば地図か何か――……」
倒壊せぬよう慎重に進み、屋上まで出て街を見渡した。病院は津波対策で高台にある事が多いから、見渡せるのではと思ったのだ。予想通り街を一望出来、他に大きい建物がふたつ発見できた。
「あれは多分市役所っぽい建物でござるな。あちらのは……」
ひとつはどう見ても市役所っぽい建物だった。カグヤ以外なら『どれも大き目の建物』で済まされるが、酷似した世界に居たカグヤには『ぽい』が分かる。もうひとつの建物に視線を移し、そして――決定的な物を見付けた。
「プールにグラウンド……! あのヤシの木みたいなやつに建物の感じまさしく! 小中高は置いといて学校でござろう……!」
プールとグラウンドらしい名残り、そしてヤシの木みたいなやつ――ソテツが生えている明らかに学校ぽいものを見付けた。喜び勇んで屋上から飛び降り、カグヤが駆けてゆく。
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