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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第一部 村完成編

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36 開戦

 砂の大飛沫をあげ獣が大地に着地する。

 その正面向けてケンを乗せた軍馬が大地と変わらぬ速度で宙を蹴り、駆け上っていく。本当に獣と同じよう空を駆ける馬であるらしかった。

 ガンは戦闘機の真上で銃器を構えたまま大きく旋回する。原理は分からないが、獣や馬と同じく空を自在に駆ける“足場”のように見える。


「作戦通りだぞ! 楽しくなッちまって羽目外すなよ!」

「分かっている!」


 大声で釘を刺されてケンが笑う。

 生命を見つけた歓喜か憎悪か、滴るような激情を孕んだ咆哮があがる。大きく開いたあぎと、口内は剣山のように歪な牙が喉奥まで生えている。再び赤黒いエネルギーがせり上がりばちばちと弾けながら凝縮し、どうッッッ――! ケン目掛け放たれる。


「二番煎じッッ!」


 真っ向激突するように軍馬の疾駆は衰えない。そのままケンが大剣を振り下ろす。分厚い剣圧が放射を斬り裂きそのまま道を拓く。

 裂かれた二条の奔流は衰えぬまま大地へ着弾し爆散。地面を融解させ大穴を開けた。


「獣に堕ちては頭まで鈍くなるのか。それでは効かぬぞ。もっと見せよ」


 ガンに言わせれば『クッソ腹立つ顔』、リョウが居れば『何煽ってんの!?』と言われそうな顔と口調で明確に獣を煽る。

 言葉を解する知能は残っているのか、憎々しげに唸った獣が四肢で強く大地を砕き、大きく背を膨らませた。

 ばち、ばちばちばち――ッ、生えゆく血膿色の棘。直後、放電現象のように“全周囲”に剣呑なエネルギーが放出される。足元は一瞬で融解し、瞬きの間に同じ以上の熱量が周囲に放たれてゆく。


「おかしい! 何でいきなりあんな大技使ってくるんだよ! 絶対煽ったでしょあの人――ッッ!」

 

 遠方で微かなリョウの悲鳴が聞こえたような気がする。

 遠くで光の盾が発動する気配、同時にかしこに巨大なゲートが開き、熱量の多くが他の死の土地へと逃されてゆく。エリアに貼られたという結界もびりびり震えていた。


「分かる。あいつの煽り顔クッソ腹立つんだよな……!」


 ガンが上空でリョウとカイの奮闘の気配を認めながら、酷く分かった顔をする。眼前迫る熱放出の壁を、此方も熱弾を撃ち出し相殺させ届かせない。そのまま大きく転身し、獣目掛けて急降下していく。


「リョウもカイも悪いが暫く奮闘してくれ。作戦通りだからよ」


 降下しながら熱弾を連射し獣の後方から背を射抜いていく。今度は“バリア”が視認できる。通常攻撃で軽く破れるのは三枚程度だ。


「ケン! 三枚!」

「心得た!」


 すれ違いざまに報告してゆく。ケンの方も細かい剣撃を繰り返してバリアの具合を確かめている。最初から打ち合わせた作戦なのだ。

 最初は防戦一方。どの位で破れるかの防御計測からの適正な出力調整。後は――。


 

 * * *


 

「おかしい、おかしいよカイさん!」

「何がですかリョウ……!」


 遠方。エリア外を護る為に配置された二人は肩で息をしていた。


「序盤の小手調べじゃない! 絶対的に明らかにケンさんが五人目を煽って技を出させまくッッ――――ってるゥ……ッ!」


 言い終える前にエリア外に飛んでいきそうなエネルギー弾の飛来。リョウが飛び込んで行って勇者の盾で受け止める。着弾、爆散、休む間も無く次の場所へ。


「私達お着替えに気を取られてあちらの作戦聞かされておりませんからね!? 先に手の内を出させてしまう作戦でしょうか……!?」


 カイも休む間も無く王錫を動かしている。各所へ幾つもの魔法防護結界の展開、同時に放出的なエネルギーを他の死の土地へ逃す為のゲート開通。それはもう忙しい。


「そうだね分かるよ絶対『じゃあ最初にクッソ怒らせて色々技出させようぜ』『うむ!』位の遣り取りで決まった奴ゥ……!」

「その場合はガンナーが戦犯ではないですか……!?」

「ケンさんだって嬉々として同意したに決まってるだろ! あの人は体力が有り余ってるんだ! 暴れたくて仕方ないんだよ……!」

「オゥ……」


 夜だが月光と激戦のエネルギーのお陰で、エリア中央で戦っている三人の様子はよく見えた。エネルギー放射だけでは殺せないと理解した獣が、直接ケンとぶつかっている。その間にも空から援護するガンを厭うように、背の棘から絞ったエネルギーを撃ち出したり、巨大な尾が薙ぎ払ったりしている。


「……少しずつ狙いが正確になってない?」


 気付けば少しずつだが流れ弾が減っており、代わりにケンとガンに放たれるエネルギーが収束していっている。漸く一息、構えは解かぬままに怪訝そうにする。


「あれだけ眼がありますから、徐々に狙いを絞っているのでは……?」

「なるほ――――どッッッッ………!」


 等と言っていると“明確”にリョウとカイ目掛け放たれる熱線。慌てて飛び退き表情を引き締める。


「こっちも圏内だ。油断しないでいこう、カイさん……!」

「はい……!」


 守備班の奮闘は続く。まだ夜は明けない。



 * * *



「ははは! 楽しいなあガンさん!」


 がづんッッ!がづんッッッ――! ケンと獣が打ちあっている。強大な前脚がその質量ごと振り下ろされたかと思えば、今度は幾重に分離し螺旋状の槍となって四方八方より迫る。その全てを的確に大剣で打ち払い受け流し、互角の打ち合いを続けていた。

 余波を受ける周囲の地形は酷い有様だ。融解し砕かれ抉られ地層が露出し無惨な様相を呈している。


「おれはちっとも楽しくねえ! ばか防御力共が! 馬まで無事ッてどういう事だよ!」

「わはは! オルニットも巨人の祝福を授かっているからに決まっている! なにせ俺を乗せるのだからな!」


 巨人の祝福――任意で太古の巨人が如き力と質量を得られる祝福。先程勇者の盾無しでの直接対決を懸念し聞いたら、そう説明された。

 つまりは見た目が小さいだけで実際は獣と同等かそれ以上の大きさの巨人が殴り合っている状態なのだ。互角で何の不思議も無い。

 

 一方そんな祝福も特製の鎧も無く、空を飛びまわっている羽虫の如き此方は、もう随分“よれて”いる。腹も立とうというものである。

 直撃は無いものの、激突の余波や熱風でかしこが傷んでいた。ヂッ――! 絞った熱線が頭すれすれを飛来し髪を括った紐が弾け飛ぶ。一房だけ白い黒髪が風に吹き荒れ盛大に舌打ちした。


「段々照準合わせてきやがる……!」

「ああ、五人目もなかなか楽しそうになってきたではないか!」

「あァ!?」

 

 お世辞にも獣に楽しげな色は浮かんでいない。リョウのように共感能力が無いから真実は分からない。咆哮を聞くたび増悪してゆく負の感情がびりびりと伝わるだけだ。

 

「これは元は良き武人であったぞガンさん! 打ち合えば分かる! 武人はなあ、全力を尽くして死んでこそ誉れなのだ! 守備班の二人には悪いが全力を出させてやった上で葬りたい!」

「おれは軍人だから、わッかんねえよ…………!」


 またガンが露骨に嫌な顔をし、ぎりぎりの軌道で獣の側面を射抜いて上昇する。戦闘開始から30分以上。まだ隠し種はあるだろうが、おおむねの技は見たし威力計算もほぼ完了した。

 

「だがそれが必要だッてんなら手伝ってやる。――準備できたぞ、ケン!」

「おお! では始めるとするか!」


 互角だった打ち合い、返す刃の威力を切り替える。激しい衝突、獣が大きく飛び退いた。


「――――さあ、五人目の仲間よ。此処から俺とガンさん併せての“本気”だ。貴公も悔いを残さぬよう、全力を尽くすが良い」

 

 剣先を向けての宣言。ガンは苦々しい顔のまま、ケンは酷く楽しげ――仲間や家族に向けるような優しい眼差しで獣を射ている。


 言葉が届いたか、此方の気配の変化を感じ取ったか。

 獣が粛々と一度荒ぶる身を鎮め――――それから一気に力を解き放った。

お読み頂きありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

次話は明日アップ予定です!

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