34 傾向と対策
慌てて村から死の土地へ移動し、少ししてガンが頷く。
「進路変えたな。やっぱおれらに向かって来てるわ」
「それは良いんだか悪いんだか……」
「数時間でここまで来る。逃げ回るつもりは無えんだろ?」
「うむ、既に一度戦略的撤退をしているからな!」
「二度の撤退はケンさん許さないからね……」
「そうなのですか……」
砂漠に円陣を組んで座り、急いで作戦会議を開始する。
「ではガンさん、観測結果を聞かせてくれ」
「おう」
先の攻防をずっと観測していたガンが情報をまとめる。
「およそだが体長100m、体重は3万トンを超える。原理は分からんが多分魔法由来、飛べるッつうか空を自在に駆け回れる。体液は腐食性、唾液や血液が落ちた地面が腐り落ちてた。体を取り巻いてる“もや”はよく分からん、魔法じゃねえかな」
「あれは瘴気というか、よくない呪いの塊のようなものですね。有害です」
「成程、触らねえ方が良さそうだな」
此処までで既にリョウが「うへえ」という顔をしている。
「んで、本体の方の赤黒いばちばちしたやつ。あれは内包するエネルギーが強過ぎて溢れてんだ。あの図体でただ暴れるだけでもやべえんだが、あのエネルギーを撃ち出したり放出し始めるとほんとやべえと思う」
カイも「ンン……」と悩ましい顔をした。
「でな、再生速度が異常だ。ケンの攻撃が着弾してからおよそ一秒以内で完全再生してる。再生だけじゃない、攻撃の着弾時に何らかの手法でダメージを軽減してる。リョウの結界みてえな奴かな。何枚もバリアが貼られてて、それを突き破った上で着弾してッから、致命打になってねえ感じ」
「うむ、感覚だとバリアは二十枚位だろうかな。バリア自体の再生も早かったぞ。二撃目にはもう全て回復していた」
ケンが笑顔で手応えを添える。ガンは渋い顔をする。
「ひとまずそんな所だな。不死だと困るが、バリアで守ってる以上弱点自体はあんじゃねえかな。形状で考えると心臓か頭ッぽいけど、他に核があるかもしれん。今は分からん」
「ふぅむ……バリアと核ごと消失するくらいの攻撃なら倒せそうだが……なあ」
「ああ、それやると多分地盤がもたねえんだよな……」
「その規模となると死の土地を越えて盛大に被害が出ますね……」
「……あっちは構わず全力出せるけど、こっちは被害を気にしつつになるもんな。これ四人で良かったよ……一人だと詰んでた……」
一人でも無理矢理倒すだけならば“どっこい”で倒せただろう。だがその時点で地球が取り返しのつかない状態になる事が容易に想像できた。
四人でも、倒し方だけならすぐに幾つか浮かぶ。だが護る方が中々難しい。リョウとカイが眉間に皺を寄せて唸り始める。
「一撃で無理ならば二段階か。一撃目でバリアを破壊し核を露出させ、二撃目で核を仕留める。これなら一撃集中より出力も抑えられるのではないか?」
「一撃目と二撃目の間が一秒以内か」
「それも相当厳しいけど、そうだね、再生しちゃうから……」
「二撃に分けても相当の出力ですよ。死の土地を越えます。周囲を護る方法も考えねばなりません」
悩めば悩むほど時間が経っていく。あまり悠長にもしていられなかった。
「――よし、では攻撃と守備で班を分けよう」
「おっ」
「俺とガンさんが攻撃班だ。あれの間近で対峙するなら一番頑丈な俺が良かろうし、ガンさんなら補助もしつつ一秒以内に確実に撃ち抜けるだろう」
「んだな、核を剥くならおまえが一番楽そうだ」
ガンが肩を竦める。異存はないらしい。
「となると僕らは――」
「うむ、リョウさんとカイさんは守備班だ。リョウさんには勇者の盾があるし、カイさんは空間を繋げられるだろう」
「そもそもおれら守備に向いてねえしな」
「わはは! そうなんだ!」
「笑いどころォ……!」
「実際守備班の方が大変だろうが任せたぞ。俺もガンさんも加減はするが、し過ぎては倒せぬ故な」
「えーっと、つまり全力の五人目と加減はしても手抜きはしない二人の余波が死の土地の外に及ばないように全方位何とかしろって事だよね……?」
「言葉にすると結構酷くて笑っちまった」
「うむ! その通りである!」
「リョウ、リョウ……! 今すぐ細かく作戦立てましょう……!」
「そうだね、時間が惜しい……!」
カイが無理難題を押し付けられた顔でリョウを引っ張る。抗議する間も惜しんでリョウがカイと離れていった。
残された二人は、焦って作戦会議をするでもなく離れる二人を見送る。
「………………ガンさん」
「なんだよ、ケン」
「まだ機嫌が悪いのか?」
「ああ?」
ガンが滅茶苦茶嫌そうな顔をする。
「悪かねえよ。――おまえにむかついただけだ」
「ほう?」
ケンが何故だか嬉しそうな顔をする。
「そうか、そうか。むかつきを覚えるようになったか。よき事である」
「くっそ腹立つ言い方しやがる……!」
盛大に顔を顰めて立ち上がった。尻に付いた砂を払い、五人目が近付いてくるであろう方向を睨む。まだ姿は見えない。だが二時間以内に此処へ到達する事だけは解っていた。
「その話は後だ。おれらも一応作戦立てとくぞ」
「ああ、そうするか」
――――二組が作戦を立て、半時後。
* * *
「何とか作戦決まったよ……」
疲弊した顔でリョウとカイが戻って来る。
「五人目がこのエリアに入ったら、カイさんが全体を囲む形で防護結界を敷きます。これはもう気休め程度。あった方がましレベルです」
「塵も積もればと申しますのでね……」
「同時に、エリア内周を自由移動できるようにゲートも複数同時に開けて貰います。これにより僕がエリア内なら何処でも護りに出現する事ができます」
「リョウがだいぶ忙しくなってしまいますが……」
「うむ!」
「想像したらもう既に絵面が面白えんだが……」
もぐら叩きのように色んな穴から護りに出るリョウが浮かんでしまっている。
「やめて! こっちは必死なんだよガンさん……! でね! 勇者の盾は急速発動も出来ますが、真解放で更なる守備力を得ますのでね……!」
「成程、流れ弾は急速発動で良いが、大技の時は知らせろと」
「そうです!」
「盾以外でも私とリョウで流れ弾を打ち払う事は出来ますが、止めレベルの大技となると確実に護らねばなりませんのでね……!」
「あー」
ケンとガンがちょっと考える。
「俺は多分すごく光るから分かると思うぞ! それはもう光る!」
「わあ、夜だしすごく分かりやすい!」
「ガンナーはどうですか?」
「そうだな、花が咲いたら全力で護ってくれりゃ良いよ」
「花」
「お花」
「唐突なカワイイ」
「うるッッッッせえな! 見りゃ分かんだよ!」
ガンがブチ切れたのでそれ以上聞く事は出来なかった。
「――ええと、後は他の死の土地にゲートを繋げて抑えきれない余波はそちらに流します。守備作戦としてはこの位ですが……」
「うむ、現状ではそれが最上だろう。よくぞ組み上げてくれたな、二人とも」
「でかしたぜ、リョウ、カイ」
「えへへ……それほどでも……!」
「フヒッ……がんばります……!」
褒められると二人はちょろい。――残り一時間を切った。
「そろそろ準備しておかないとね」
「ああ、超遠距離攻撃してくるかもしんねえしな」
「うむ、着替えておくか」
「皆さんの最強装備一式拝見するの初めてですし、こんな時ですが少しわくわくしてしまいますね……!」
「それな」
「実は僕らもお互いのフルセット見た事無いんだよね」
「うむうむ!」
全員の手の甲が淡く光って魔紋が浮かぶ。
それぞれが装備を引き出し、手に握られたり傍らに出現してゆく。あるいは光が零れて肉体を包み、鎧などに形を変えてゆく。
決戦は間近、形は違えど、全員それぞれ“最強装備”へと着替えていった。
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