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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第四部 前人類世界編

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348 戦いの歌

 治療の為にベル達が駆けつけた時、地に横たわったガブリエラを無限段階サイズに戻ったウルズスとジスカールが必死で介抱していた。見た瞬間ベルの眉間が寄り、タツにウルズスの治療を命じると自分はガブリエラの傍に屈む。


 メイも手伝おうとしたが『もう傷を治す段階じゃないから、あなたはリョウ達を支援なさい』と新たな役目を命じられて今に至る。ケンの方は放っておいても大丈夫そうなのでジラフとリョウ達の戦いを観察し、難しい状態なのを知ってすぐに動いた。


 「苦戦しとるようだども……リョウどんの力はそんなもんじゃねえ……おらがリョウどんを強くします……」


 言うや“最強装備”のローブの袖を揺らし、天へ訴えかけるように両手を広げた。敬虔に目を閉じ、歌うように高い音階の祝詞を紡ぎ始めるとメイから白い光の柱が立ち昇る。


「……あれは戦いの歌じゃな。メイ殿が歌うなら百人力ならぬ万人力じゃろて」

「聖女魔法ね」

「そそ。行使中は無防備になる故使いどころが難しいが、びたり決まればあれひとつで戦が引っ繰り返る特別な魔法じゃよ」


 タツの言う通り、本来なら戦で自軍の兵達を奮い立たせ、神の加護と強力なバフを授ける魔法である。通常ならば何百何千何万の兵へ授けるその加護を、今はリョウ一人へと注ぎ込む。


 美しい歌声を風が運び、気付けば白い光の粒子となってリョウを包み込む。ほのかに光る自身の身体と湧き上がる力にリョウが目を瞠った。


「これは……! そうか、ありがとうメイさん……!」


 前の世界で勇者をしていた頃、仲間の聖女にこうした支援を受けた事がある。それ故すぐに理解出来たが、授けられる力は段違いで比べ物にならなかった。如何にメイが聖女――否、大聖女として優秀なのかが分かる。“極細”だったリョウの力場が見る間に太く立ち昇り、メイと同じく白い光の柱を立てた。


「ジラフさん! これならいけるッ!」

「オッケ! 完全に任せるわよッ!」


 ジラフが後退すると同時にリョウが勇者の剣に力場を纏わせ、大きく振り抜いた。その力は一撃でミカエラの五本腕の攻撃を弾き返す。



 * * *



 ウリエラが倒れた時、ラファエラとミカエラは何も感じなかった。彼女達は“同じ”存在の為、同情は元より無く一人欠けたところで自分が消えるという焦燥に結びつかない。“同じ”でなくなったガブリエラは敵となったが、“同じ”存在は一人でも残っていれば幾らでも立て直せる。彼女達はあまりに同じで、それ故他者を頼る発想が無かった。例え別個体といえど他者など居ない。全ては同じ自分である。


『ミカエラ、ワタシこノ男倒せナイ』

『離脱ハ』

『離脱モ出来なイ。瞬間移動潰さレル』

『…………』


 ラファエラまで消えれば、流石に自分一人になってしまう。それでも自分が生きていれば全て立て直せる。ミカエラは少し考えてから返事をした。

 

『弱い血肉取り込ンダ、ラファエラのミス。ワタシの取り込んダ血肉トテモ強い、ダイジョウブ』

『…………』


 立場が逆であれば恐らく同じ事を言った。だが死の間際、現在進行形で死にゆく中。ラファエラに初めて“同じ”じゃない感情が芽生える。


『助けて欲しイ、ミカエラ』

『……?』

『ワタシ死にたくナイ』

『……? ダイジョウブ、ワタシが生きル。ワタシ死なナイ』

『違ウ、ソうじゃ――』


『ナイ』と続ける前に、既に剣山のように突き立ち続ける黄金剣がラファエラの“命”に刺さった。最早言葉も出ず、ただ遠いミカエラに腕を伸ばすのが精一杯だった。それすら無情に黄金の剣が突き立ち埋め尽くしてゆく。


 心には足りない。だがガブリエラが得たのとは違う確かな“感情”を知りながら、ラファエラは息絶えていった。三体の中で唯一敗因を理解して。一人だから勝てなかった。ワタシ『達』は、最初から協力して戦うべきだったと。



 * * *



 ラファエラが息絶えたのを感じ取り、潮時だと思った。目の前の人間達とは渡り合えるが、ラファエラを殺した男が此方へ来たら流石に分が悪い。ガブリエラの殺害とジスカールの誘拐を行いたかったが、最早難しい。幸いガブリエラは感じ取る限りもう長くない。


 目の前の小さい方の男も何だか急に強くなった。大きい方の男は油断なく、此方の瞬間移動を逃さぬよう見張っている。だが今ならまだ逃げられる。ミカエラの判断は早く、攻撃に回していた力場を全て防御へ回した。先に取り込んだ血肉は特別に強い。逃れて更に力を使いこなし、立て直すべきだ。


 小さい方の男の剣を跳ね返すと、少し驚いたような顔をした。構わず瞬間移動を発動し、別空間へと飛び込む。直後に血色の槍が豪雨のように空間を超えて追いかけて来る。が、防御を固めた今なら致命傷には至らない。このまま耐えて、飛びきってしまえばミカエラの勝ちだ。


「リョウちゃんッ! 感覚でアタシの攻撃を追いなさいッ! できる筈よッ!」

「やってみるッ!」


 現実空間では瞬きに満たぬ時間。別空間では流れが違ってミカエラは“出口”を目指してどれだけ槍が食い込もうが走り続ける。このまま逃れ、また“自分”を増やして大量に子を生み出し、人間達の隙を狙って仕掛ければ良い。


「逃がす、もんか――――ッ!」


 出口は目前。現実空間でリョウが力場を纏い長大に伸びた勇者の剣を振り抜いた事など知らない、気付けない。ミカエラが出口に踊り込むのと同時に、背後から一瞬で迫った光の刃がその胴を断ち切った。



 * * *



『……?』


 遠く彼らから離れた地上に着地し、初めて自分の胴が上下に別れている事に気付いた。おかしい。あの大きい男の槍は自分の防御を貫けなかった筈だ。小さい男が何かしたのだとしても――あれはラファエラの血肉の元になった男だ。自分が取り込んだ血肉の強さを超える筈がない。ないのに。


『ドうシテ……?』


 思考し答えを得る前に、急に額が熱を帯び視界が赤くなった。額に手を遣ると、焼け焦げた小さな穴が開いている。また不思議に思った直後、二度三度小さな衝撃が頭を揺さぶった。それでミカエラの意識も命も呆気なく――何かの感情を覚える前に途絶えきる。


 その頭上。大気を越えた宇宙空間には“四射目”のエネルギーを砲身に蓄えた人工衛星サテライトが浮かんでいたが、ミカエラの絶命を確認し充填を中止した。


「――離脱出来たと思って防御を解くのが早過ぎだ。素人め」


 離脱前の遙か遠い場所、ミカエラの逃亡に備えて観測できる限りの場所を警戒していたガンが呟いた。これで全ての戦闘が終わり、皆がジスカール達の元へ集まる事になる。



 * * *



 リョウ達が駆けつけると、横たわったガブリエラの傍にジスカールとウルズス、それにベルが居てタツが少し離れた所で手招いた。


「邪魔するのもアレじゃし、リョウ殿達はこっちに来んしゃい」

「……治せねえのか?」

「ウルズスは儂が治したわい」

 

 小声で問うガンにタツが肩を竦めた。つまりウルズスは治す事が出来たがガブリエラは治しきれなかったという事だ。それを聞いてジラフが慌てて駆け寄っていく。他の面子はタツの傍で、邪魔をしないよう眺めるしかなかった。

 

 ジラフが駆け寄ると、目を赤くしたジスカールがガブリエラの手をきつく握っている。驚いた事にウルズスまでもがそっと別の手を握っていた。ガブリエラの半身はひしゃげ、一目でもう使い物にならないと分かる。それだけなら治療魔法で何とかなりそうだが、“駄目”なのはジラフでも分かった。傷より何より、枯渇しきったように生命力を感じないのだ。


『……ジラフ、アりガトウ。ミカエラ達、全員反応無クなッタ』


 ジラフの気配に気付き、ガブリエラの念話が届く。何を返せば良いか迷いながら、ジラフが傍らに跪いた。

お読み頂きありがとうございます!

次は明日アップ予定です!

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