表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第四部 前人類世界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

332/617

341 四姉妹

「ウルズス、彼女は敵じゃない。もう敵じゃないんだ……!」


 荒ぐ呼吸を飲み込み、ジスカールが首を横に振った。


『なんで! ジスカールさらったしミサイルだってうった! わるいやつだよ!』

「今はわたしを守ってくれている……! 他は撃たれても此処のミサイルは撃たれてないだろう……!?」

「待って、他にミサイルを撃った誰かが居るの!?」


 ジラフが先程感じた違和感はそれかと目を瞠る。


「……居る。ちゃんと話すから、まず戦いを止めてくれ……!」


 ジスカールが踏み出し、ウルズスの前に立った。狼狽したような混乱したような、どうしても納得出来ない表情を浮かべるこぐま――今は自分より大きい、を見上げて何とも痛ましい顔をする。


「……ごめんよ、ウルズス。辛い思いをさせた。こんなに傷だらけになって……わたしを助けに来てくれたんだな。ありがとう……」


 腕を回して抱き締めると、ジスカールを傷付けてしまうのを恐れてウルズスが慌てて力場を解いた。再会出来て泣きたい程嬉しいのに、素直に喜べない。


『なんで、ジスカール……なんで……!』

「ガブリエラは君と同じなんだよ。ずっと独りぼっちで辛くって、寂しくてわたしを攫ったんだ。……今は君と同じようにわたしの事を大好きになって、守ってくれている。だから頼む、戦わないでくれ」

『ぼくと……』


 すぐには飲み込めないようだが、ジスカールが抱き締めているから暴れる事が出来ない。振り上げた拳をおろす先が見付からず、困惑したまま固まった。


『シルヴァン、どうシテ目覚めタノ……』

「……君が一瞬でも意識を失ったからだろう。わたしが起きないよう、いや、存在を隠す為かな。昏睡させたようだけど、ほんの少し前に目覚めたよ」

『ダメ、見付かル。シルヴァンは全部隠さナイとダメ』

「もう遅い。……君の気持ちを無駄にしてごめんよ」


 ガブリエラも溜め込んでいた力を解き、完全に戦いを止める。どうやら敵ではないというのは本当らしい。

 

「どういう事なの? ガブリエラはアタシの肉が一部欲しいと言ったのヨ」

「……一部と言ったんだね。それは人を取り込み子供を作る目的じゃない。戦う為の力が欲しかったんだ。全身を取り込まないと、完全な進化は出来ないから」


 一部だけでは特徴やその生物が持つ能力を取り込めるだけだ。完全に取り込まないと『近い種』になれない事を今のジスカールは知っている。ガブリエラが自分を昏睡させる時に、種明かしのように――否、懺悔のように全ての記憶と感情を渡してきたから。


「戦うって、一体何と――」

「時間があまり無いから、手短に話すよ」


 ウルズスを落ち着かせるよう抱き締めたまま、ジスカールが口を開いた。



 * * *



「なあベル嬢!」

「なあにケン様」

「敵ではないとはいえ、流石に数が多過ぎんか……!?」

「まったくだわ。一体どうやってこんなに増やしたんだか」


 ケンとベルはミサイルの発射を確認した後、坑道内の基地に攻め込み着実に他の射出装置や機材などを潰して回っている。その間もずっと異形猿達が襲ってくるのだが、ベルが防御を担当しケンが瞬く間に斬っていくので超能力を使われようとなにをされようと敵ではなかった。だがどう考えても数が多い。


「ジラフさんが予想していたように通常とは違う出産方法なのだろうが――」

「ケン様」


 新たな大扉をケンが一閃で破壊し、中へ踏み込んだ先で足が止まった。


「何だこれは……」


 広い格納庫のような空間に“それ”は在った。



 * * *



「多い……! 敵が魔王城より多いよこれ……!」

「リョウどん大丈夫か!?」

「平気! メイさんは?」

「おらもまだいけますっ!」


 リョウとメイも第1チームと同じく、射出装置や機材を壊しながら基地の奥深くまで入り込んでいた。異形猿の多さには苦戦したが、メイとのコンビネーションで上手く撃破出来ていて今の所問題は無い。


「なあ、おら気になる事があるんだども……此処のお猿さん達は、シェルターを襲撃してきたのとちょっと違うな?」

「え、僕には全然同じに見えるんだけど……!」

「や、凄く似とるんだ! けど、茶色とこげ茶みたいに似とるけど微妙に毛色が違ったり、爪の感じや色だとか……」


 話しながら、沢山の異形猿に追われながら。目の前の大扉を潜るとすぐ閉め、すかさずメイがバリケード代わりにコンテナを引き摺って置いた。


「ええ、ちっとも気付かなかった。よく気付いたねメイさん……!」

「やぁその……猿肉は食えるもんで。此処のお猿さん達も食べられるだろかと思って……観察した時にその……」

「それはギリギリだよメイさん! って思ったけど僕も前の世界ではこの魔物食べられるかなって思ってたから何も言えないや……!」


 恋人のギリギリ発言に目を反らした途端、リョウの動きが止まった。


「何だ此処……」

「ふへぇ……!?」


 メイも背後に視線を遣り、目を丸くした。



 * * *



「何じゃ此処は怖過ぎィ……!」

『やあ……出産場所……だろうか……?』


 タツとトルトゥーガも他チームと同じよう、大きな鉄扉を潜った先にある格納庫らしき広い空間に辿り着いていた。入室した途端、激しく後を追ってきていた異形猿達の気配が途絶える。薄暗い室内を見渡すと壁、床、天井までもが巨大な血管のようなものにびっしりと覆われていた。脈動する様子は酷く不気味で、“生きて”いる。

 

「こんなおどろしい場所で出産なぞする~!?」

『やあ……タツ……あれを……』


 トルトゥーガが空間の中央を指す。目を凝らすと大きい家位のサイズをした、巨大な葡萄にも似た肉腫の集合体みたいな物があった。血管の全てはそこから伸びているようで、肉腫自体からも脈動が感じられる。鼓動に合わせるよう時折肉腫の一部が透けて、中に大きな胎児のようなものが浮かぶ。更に奥には同様の集合体らしきシルエットが幾つも見えた。


「おげェ……!」


 トルトゥーガの言う通り、此処は確かに出産場所らしい。恐らく肉腫の一粒ずつが子宮の役割を持っており、周囲一面の血管状のものは胎盤のような役割だろう――まで考えて、ぞっとした。


「何でじゃあ……!?」

『やあ……ガブリエラは北に居る筈なのに……どうして……』


 今目の前に存在する子宮の集合体、中の胎児は間違いなく生きている。早い周期で一度にこれだけ産めばそれは大軍が作れるだろうと思ったが、母体は此処に居ない筈なのだ。卵ならまだ分かるが、これは違う。意味が分からず混乱し掛けた時、慌てた様子で通信が入った。


『ジラフよ! 込み入った話だから要点だけ言う! ガブリエラは一人じゃない! 彼女は後“三体”居るの――! 皆気を付けて!』

「ヒョッ!? 何て!?」

『やあ……』


 タツが驚きで飛び上がったタイミング、中央の肉塊の上方で音がした。みち、みち、びちッ、濡れた肉を引き千切るような音を立てて――何かがゆっくり起き上がってくる。それは眠りの目覚めのように緩慢で、だが徐々に存在を濃くしていった。


「アーッ! トルトゥーガ殿! アーッ! レーッ!」

『やあ……あれが……ガブリエラ……?』


 下半身を肉腫の塊に埋めたまま、上半身だけが見える。まるで肉の寝台から起き上がったようだった。二人とも直接ガブリエラの姿を見た事は無いが、特徴は伝え聞いている。メイと同じ位の大きさで、しなやかで美しい、銀の毛皮の猿の女神とでも言われたら納得するような異形。鬣があり腕は三対、手足の先は爬虫類に似ていると。薄暗い室内ではあるが、聞いた通りの特徴を備えている。


『…………ガブリエラ、違ウ』


 寝起きの茫洋に似た緩やかな口調で。異形が念話を発した。


『ワタシはウリエラ。4番目のガブリエラ』


 水銀を流したような眸がタツとトルトゥーガを見、きゅうと細まった。


 そして同時刻、違う場所。第1チームと第2チームの方でも、まったく同じ事が起きていた。彼女達も誰何に『ガブリエラ、違ウ』と答えた上でこう名乗った。『ワタシはミカエラ。2番目のガブリエラ』『ワタシはラファエラ。3番目のガブリエラ』と。

お読み頂きありがとうございます!

次は明日アップ予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ