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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第四部 前人類世界編

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312/616

312 救急

『ベル! ベル、助けて! ジスカールがたおれたの!』

「ムッシューが? どういう事……!?」

『わかんない! ジラフがベルをよんでこいって……!』


 泣きそうな声と表情でこぐまが駆けて来る。食堂へ辿り着く前にベルが立ちあがり、足早にこぐまの方へと向かった。


「わたくしは先に行くから、メイは小人の長老を連れて後から来て! 何か分かったら連絡するから他はひとまず待機!」

「へぇ!」

「了解したぞベル嬢!」


 ベルが魔法で箒を呼び出し、こぐまを抱えて腰掛けた。物凄い勢いで箒が発進し、ゲート小屋へ吸い込まれて行く。メイも慌てて小人の長老を呼びに駆けてゆき、残された皆は心配しつつ待つ事になった。



 * * *



「ジラフ! 何があったの……!」

「ああ、ベルちゃん……!」

『ジスカールう……!』


 扉を蹴り飛ばす勢いで箒が食堂へ入って来る。こぐまが跳び降り、テントのベッドに寝かされたジスカールの元へと駆けていった。


「さっき急に頭を抱えて倒れたのヨッ! 熱もあるし呼吸も脈も荒くてッ、意識も戻らないからウルズスちゃんにベルちゃんを呼びに行かせたの……ッ!」

「前兆は? ふらついたり、呂律が回らなかったり、物を落としたり手足が痺れたり、視覚異常や吐き気だとか。些細な事でも何か無かった?」

「いいえ、朝からずっと一緒だったけど健康そのものだったわッ!」

『ぼ、ぼくもずっと一緒だったけど……いつものジスカールだったよ……!』


 ベルがジスカールの傍らで、脈を確かめたり瞼を捲ったり、色々と調べていく。真っ先に疑った脳卒中や脳梗塞の類ではなさそうだが、他の病気の可能性もある。袖から細い杖を取り出すと、魔力で全身を調べるように杖先を翳した。


『ベル、おねがい……! ジスカールを助けて……!』

「この魔女に任せなさい。ムッシューは決してあなたを置いていかないわ」


 こぐまは不安でパニック状態だろうに――それでも診療の邪魔はせず、けれど離れる事も出来ずそうっとジスカールにくっ付いている。その隣では、ジラフがこぐまを落ち着かせるように背を撫ぜていた。


「ジラフ、今朝からの行動を詳しく話して」

「ハイッ! 朝に合流してから今までずっと一緒に居たワ。朝食を作って食べて――至って普通のメニューで、全員同じ物を食べている。これは昼食も一緒ヨ」

「ええ」

「午前は皆でお散歩。後アタシはウルズスちゃんと遊んだりしたんだけど、その間もジスカールちゃんは近くで調査をしていたの」

「調査というと、記憶を視たのね?」


 そう、とジラフが頷いたタイミングで――メイが小人の長老を担いで駆け込んできた。息を切らしながらテントまで近寄り、長老を下ろす。


「お待たせっ、しました…っ!」

「モイモイッ!」

「メイは呪いの類が掛かっていないか調べて。長老はバイタル測定後、脳に異常が無いか診て頂戴」

「へぇ!」

「モイッ!」


 ベルの指示で二人が動き出す。続きを促され、ジラフが口を開いた。


「午後は用途が不明な場所を調べたのヨ。そういう所は危険があるといけないから、アタシが居る時にって決めてるから。今日はUFOがあった場所と繋がった、生体研究所みたいな場所を調べたんだけど……」

「何かあった?」

「何かの生物を研究していたみたい。檻やカプセルは殆ど空か、もしくは中に死骸があった。ただ、そこで記憶を視て……ひとつだけ違和感があったの」


 ジスカールの記憶視は現在から過去へ遡る。今日の調査では、電源の落ちた施設の真っ暗な数十年を経て、生体研究で人が消える瞬間、更には平時の研究を行っている場面まで遡ったそうだ。それ自体は他と同じで『何かあった』とは言えない。だが、暗闇に陥る寸前と現在ではひとつだけ違う所があった。


「停電前は空じゃなかったのに、現在は空になっているカプセルがあったのヨ」

「……? 中の生物が逃げだしたということ?」

「分からない。カプセルに破損は無いの。まるで中の生物だけ煙みたいに消えてしまった感じ。気になると言えばその位のものだわ。他はいつも通りで……」

「そう……」


 中の生物が何らかの手段で逃げたのかもしれないし、あるいはカプセル内で融解して消えたのかもしれない。記憶を視た所で、停電した闇の中だから真相は分からぬままだ。


「ベルどん、呪いの類じゃなさそうだ。何も感じ取れねえ」

「そう、ありがとう。わたくしも血管や臓器を調べてみたけれど、詰まったり滞ったりという事は無さそう。長老はどう?」

「モイッ! モイモイモイッ!」

「……!」


 長老の報告に瞬き、ベルがジスカールの頭側に回った。両掌がこめかみに触れ、深く何かを調べるように目を閉じる。


「…………どうだ? ベルどん」

「……原因が分かった。先に応急処置をするわね」


 ベルが短く呪文を唱え、触れた先から魔力が流れてゆく。そのまま見守ると、徐々に苦しげだった呼吸が収まり表情も穏やかになっていった。それで全員がやっと安堵の息を吐く。


「メイ、ジスカールの首と腋を冷やしてあげて。脳を冷やしたいの」

「へぇ……!」

『ベル……! ジスカール大丈夫なの……!?』

「ええ、もう大丈夫よ。今からちゃんと説明するわね」


 長老に何かを命じた後、こぐまとジラフを招いてベルがテントから離れた。食堂の椅子に二人と一匹を座らせ、ゆっくりと説明し始める。


「脳の使い過ぎよ。過度の酷使とストレスが倒れた原因だと思う」

「記憶を視過ぎたってコト……?」

「可能性はあるけど、多分違うわ。これを“成長痛”といって良いのか迷うけど、明らかにムッシューの脳の使用領域が拡大しているのよ」

「成長痛って、子供が成長する時に痛がるアレよね……?」

『ジスカール……おじさんなのにまだそだってるの……?』


 こぐまもジラフも不思議そうに首を傾げた。

 

「肉体ではなく脳――いえ、ムッシューの“超能力”の成長と言うべきかしら。記憶を視る能力はカテゴリとしては『超感覚的知覚』といって、同じカテゴリだとテレパシーや透視や予知があるんだけどね」

「超能力ってそもそも何? 魔法とは違うの?」

「似て異なるといった感じ。魔法は魔力や神の力、呪文や杖を使って起こすものだけれど、超能力は全て自己完結の自前だわ。少なくともムッシューはそう」

 

 一説には脳の普段使用されていない領域が持つ力で、人によってはそれが目覚めて使える云々等、色んな説があるらしいが――その辺りは今回重要じゃないので割愛しベルが本題に戻る。

 

「五感という通常の知覚手段以外で、情報を得る事が出来る『超感覚的知覚』という部分が、急激に拡大されている。これまで使っていた部分は自然なのだけれど、拡大された部分は最近拓かれましたという感じで炎症みたいなものがあったの」

「その能力が成長? 拡大して? 過度の酷使とストレスが発生したってコト?」

「恐らくそう。こんな急激に成長した理由は分からないけれど――ここ最近頻繁に記憶視をしたからかしら……? けどしっくりこないのよ。寧ろ……」


 クーリングを終えたメイも話しに混ざるように、そっと椅子へ腰掛ける。


「事故や脳への衝撃で、そういう力が目覚める事もあるらしいのだけど。脳を診た感じ、それ系なのよね。自然にじゃなくて無理矢理拓かれたというか……」

「ウルズスどんやジラフどんが気付かねえ内に、ジスカールどんの脳に何か、誰か……? の干渉があったって事だろか?」

「無理矢理拓かれたはちょっと聞き捨てならないんだけどォ……!?」


 ジラフが形相を変えメキメキと拳を握った。難しい話で完全には理解出来なかったこぐまも、ジラフを見て『ぬん』と鼻息を荒くしてみせる。


「ジラフ、落ち着きなさいな。ムッシューが目覚めたら詳しく話を聞きましょう。今は魔封じの術を応用して、能力を抑制しているの。少し休んだら目覚める筈よ」

「わ、分かったわヨッ……!」

「メイは長老を連れて、一度戻って皆を呼んできて頂戴」

「へぇ、分かりましたっ!」


 ベルが命じた作業が終わったらしく、長老がテントから出て来たのでメイも頷き立ち上がった。そうして暫く、ジスカールが目覚めるのを皆で待つ事にする。

お読み頂きありがとうございます!

次は明日アップ予定です!

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