306 戦わずして
翌日、宇宙人の話題で持ち切りになりながら建設組は別荘建設へ向かった。
「宇宙人の映画は大変面白かったな! まさか宇宙空間にエイリアンを追い出してしまうとは……!」
「戦えなくても機転で何とかしてるの凄かったよねえ……!」
「本当! ハラハラドキドキだッたワァ! まだシリーズや他の作品もあるみたいだし、観せて貰いましょうネッ!」
「次は違うタイプの宇宙人が出るものが観てみたいですねえ!」
昨日のリョウとカイの奮闘で外塀はほぼ完成し、今日は手分けして温泉周りとトイレや電気の作業をする。明日からは家屋の骨組みを建てて一気に作業が進む予定だ。
「ああ、俺も戦いたい! 宇宙人と戦いたいなあガンさん! ガンさんばかり戦ってずるいなあ!」
「おれにチラチラしても宇宙人が来る訳じゃねえんだよなァ!?」
「ガンナーちゃん、昨日カピ神ちゃんに聞いていたでしょう? 何か分かった?」
「あ、あァ……」
ケンのワクワクを打ち砕いてしまうのは哀れだが、来ないものは来ないので早めに叶わぬ望みは潰しておいた方が良いだろう。だが出来る限り優しい言葉で。
「それなんだがな、ケン――心を強く持って、しっかり聞いてくれ」
「な、何だ……!」
ガンに両肩を掴まれ、ケンがどぎまぎする。ガンが真っ直ぐに目線を合わせて口を開いた。
「昨日カピ神に宇宙人のこと、確認したんだよ。宇宙人自体は存在するらしい」
「おお、では……!」
「けどな、もうおまえの戦いは知らない内に終わッてるんだ……!」
「どういう事だ!?」
ケンが『えっ!?』という顔になる。
「宇宙人は確かに地球を狙って、遠くから観察してた。けどな、“五人目”の戦いがあっただろ? おれ達、いや、おまえのあまりの強さに恐れをなしてだな」
「何と! 俺は戦わずして勝っていたと! そういう事か!?」
「あーうん、そんな感じ。奴らは撤退したし、ビビッてもうよっぽど来ない! だから諦めてくれ……!」
やや言い方を変えたが概ね嘘では無い。大体合っている。『これでいけるか……!?』と思いケンの表情の移り変わりを観察したが、すぐにドヤ顔になったので安心して手を離す。
「うむ、そうかそうか! 俺に恐れをなして撤退したならば仕方あるまい! 直接見えなかったのは残念だが! 既に勝利していたなら良かろう!」
「え、けど遠くから観察してたならガンさんの攻撃の方が良く見えたんじゃ……」
「あの規模の爆発ならまあ、ケンの攻撃も観測できたとは思いますが……」
「煩いおまえら黙れ余計な事言うな! 全てはケンのお陰なんだよ……!」
ガンのその物言いで察した二人がハッとした。
「そ、そうか! 流石ケンさんだ! 戦わずして勝っちゃうなんて凄いよ!」
「いやあ、流石ケンです! 恐れをなして二度と来ないでしょうね宇宙人!」
「わはは! 取ってつけた感が凄いが苦しゅうない!」
「ウフッ! 実際会えなくても映画で楽しめば良いじゃない! ネッ!」
取ってつけ感は凄いが、一応ケンも上機嫌で納得したようなのでよしとする。宇宙人への夢が断たれた後も、皆やる気高く作業を開始した。
* * *
ケンとガンはシェルターから持ってきた簡易トイレやソーラーパネルの作業に掛かる。残る三人――リョウとカイとジラフは温泉の方の作業に取り掛かった。既に穴などは掘ってあるので、後は設計に従って良い感じの岩を並べたりコンクリートで土台を作る仕事だ。
「お風呂は全部でみっつ! ひとつは屋根なし露天風呂、つぎに屋根付き露天風呂、後は洗い場付きの内風呂ネッ! 今日は露天風呂の方と、内風呂の土台の方の作業するわヨッ!」
「はあい! みっつも楽しめるの良いねえ!」
「景色を完全に味わう為の屋根なしと、天候に配慮した屋根付きと、冬でも寒くない内風呂ですね!」
「そうでェす!」
三人共ウッキウキで作業を進めていく。ケンプロデュースだけあって、温泉のデザインも文句なしの上、何よりも臨む景色が美しい。完成したら本当に素晴らしい温泉施設になりそうだった。
「ハァ、完成楽しみだねえ! 僕今回無限に働けちゃうよ!」
「ウフフ! 初めての“室内デート”が出来る場所だものネッ!」
「そう、そうなんだよぉ……! ああいや、それだけじゃないんだけどね!? けど一番の原動力なのは間違いないかな……!」
「分かります。私も鼻先に人参をぶら下げられた馬のような気持ちです……!」
ジラフも似たようなものなので、二人の気持ちはよく分かった。
「アタシも同じよ……! ジスカールちゃん達が来るまでに完璧に仕上げてみせるわ……ッ! 快適な住まいを用意してあげなくっちゃ!」
「離れの内装も東方風なの? よく腰が膝がって言ってるじゃん?」
「完全に東方風だと負担が掛かりそうですねえ?」
「ちゃあんとそこは考えてあるのよ。両方の要素を組み合わせた“和モダン”っていうデザインなんですって。流石ケンちゃんだわ……!」
ジラフが聞いた所によると、内装は和風と洋風を組み合わせた和モダンで、机や椅子、ベッドなどの家具は洋風のため腰や膝にも優しいらしい。
「ケンさん普段はああだけど、そういう気遣い細やかだよねえ」
「ですね、見習いたい所です」
「リョウちゃんもいつか“新居”をお願いするかもしれないんだし、今の内からメイちゃんと相談して要望を固めておいた方が良いんじゃない?」
「しっ、新居……! そ、そうか、結婚したら、そうか……!」
言われてリョウがハッとして、想像して頬を赤らめる。
「そうよォ、子供だって産まれるかもしれないんだし!」
「新居よりベッドルームを夢想しているようなお顔ですが、リョウが幸せそうで何よりですよ」
「ちょ、違うから! そりゃ一緒に寝るなら大きいベッドだなとは思ったけどさ! 他にも色々考えたんだよ……!」
「例えば?」
ベッドルーム以外も想像したらしいので聞いてみる。
「ほらあの! えーとキッチンとか……! メイさんは背が高いから、今の村のキッチンだとちょっと使い辛そうじゃない? 新居だったら、メイさんに合った高さのキッチンを作ってあげたいな、とか……!」
「ウフッ! 今考えた風はあるけど、確かにそうねェ。メイちゃんの手料理食べたいわよねェ……!」
「そういえば子供はどの位の大きさになるんですかね……?」
ふとカイが思いつき首を傾げる。
「えっ、あっ……どうなんだろう? 僕巨人と人間のハーフ見た事ないや……」
「リョウちゃんとメイちゃんの中間位に育つのかしら……?」
「いやけど、メイさんは巨人族の方だと小柄らしいよ……僕は人間ではやや大きい方だし……これ分かんないな?」
「どちらの遺伝が強いかは分かりませんが、男児だった場合はメイより大きくなる可能性が……?」
見た事は無いが、存在自体は聞いた事があるため子供自体は出来ると思う。だが家となると急に想像が付かなくなった。
「仮に子供が5m位に育つと思うと、迂闊に新居も建てられませんね……」
「ちょっとこれは予想外だったぞ……いやほんと、早めに考えておいた方がいいや……メイさんともまた相談しよ……」
「そうネ、それが良いと思う……!」
思わぬ懸念が出て来ながらも、着々と作業は進んでいった。岩を全て設置し、コンクリートを流して土台作りを終えて本日の作業は終了だ。ケン達の方もトイレの設置と電気の何やらは上手く行ったらしい。明日からは本格的に家屋を建てる事になるので、楽しみにしながら村へと戻る事にする。
戻ったらいつものよう風呂に入り夕飯を食べ、ロボ太郎の映像を見て休む予定だったのだが――村では思いがけないものが待っていた。
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