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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第一部 村完成編

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30/618

30 束の間

 四人目の仲間が増えて一月が経った。


 リョウは毎日上機嫌で、楽しくて仕方が無い。カイのお陰で色んな場所に採集に出かけられるようになり、今まで手に入らなかった食材や調味料の材料などが手に入るようになったのだ。料理の幅も広がり、食生活もどんどん向上している。これには他の三人も大変喜んでいた。

 

 カイは孤島で人間達と半分自給自足の生活をしていた事もあり、畑や日常に必要な色々に詳しかった。特に畑仕事が好きなようで、村の一角に菜園を作り、各地で見つけた種や苗を育て毎日やりがいに満ちているようだ。

 この二人は衣食住の『食』班として良き相棒となった。


 ガンはケンの倉庫から出てきた書物の解読が進んで、色々と気になる事を試している。家具を作ったり、粘土をこねてレンガや土器を作ってみたり、コンクリートやモルタルを作ってみたり、それで石窯や炉を作ってみたりと生活に使える物を作るのが楽しいようだった。それらを使ってケンと一緒に村の整備も行う。

 

 ケンは最初は山頂までの道の舗装をしていたが、終わってしまうと村の方に手をつけ始めた。ガンと共に村を囲む石垣を作ったり、村内の土地を分ける歩道を作ったり、川から水路を掘って生け簀を作ったりしている。最近は“読み聞かせ”のお陰で少し薄っすらを取り戻し、次は建築の強化計画を立てているらしかった。

 この二人は衣食住の『住』班として、元々仲は悪くないが更に良き相棒となった。


『衣』班は存在しないが、むさ苦しい男ばかりで身形には構わなかったし、防寒が必要な気候でもなし、最悪ケンの倉庫に着替えがあるので今は据え置きとなっている。ツリーハウスは『村完成』の大目標として、よりよき建て方やデザインを議論している所でまだ着手はしていない。


 朝食で全員揃って『今日は何をするか』と計画を立て、それぞれで動く事もあるし、手が要る時は全員で行ったりもする。昼食は集まれる時は集まって、集まれない時は各自弁当を持って出る。

 夕食にはまた集まり、一日の成果を報告しながら『明日は何をしようか』と話し合う。寝る前には『寝る前のお話』を交代で楽しみ、また次の朝が来る。


 定めた休みは無いが、気が向くと全員で『今日は休日』と決めて遊び倒す事にした。全員良い歳の大人だが、そんな事は気にせず全力で遊ぶ事にしている。

 ――そんな風に順調に、実に楽しく生活を続けていた。


 * * *


 とある朝。いつものように全員集まり食卓を囲む。

 今日の朝食は塩漬けの豚を野菜と香草と一緒に石窯でローストしたもの、魚介とトマトをオリーブオイルと塩だけでシンプルに味付けしたアクアパッツァ、ココナッツオイルで揚げたバナナ、フルーツ等々。

 

 野菜を色々発見できた事もあるし、ココナッツやオリーブから油が取れるようにもなったので初期に比べると明らかに食レベルが上がっている。

 今日も全員幸せそうに食べ、様々な話をする。


「――そういやおれ、ふたつやりてえ事あってさ」

「お、何なに?」

「一個目はやりてえッつうか忘れてたの思い出したんだけど、ハゲたとこまだ行ってねえじゃん」

「嗚呼、あの戦争の跡地のような場所ですね」

「そそ」

「おお、確かに。色んな場所へ行ける嬉しさでまず豊かで楽しそうな場所にしか行ってないからなあ……!」


 最近は楽しさにかまけて世界の調査もおろそかだった。

 ガンも数日は衛星による観測を続けていたが、大きな変化は無いと見るや一度止めている。今は目の光も灯っていない。

 

「急がんでも良いとは思うが、一度まあ見といた方が良いかなァ、くらい」

「では後で行ってみましょうか。座標を下されば繋ぎますから」

「そうだね、一応見ておいた方が良い気はする」

「うむ、全員で行こう!」

 

 今日の予定がひとつ決まり、全員で頷く。


「ガンさん、ふたつめは?」

「あー、昨日ケンの本解読したら載ってたんだけどさ。石鹸作りてえなッて」

「石鹸」

「石鹸!」

「石鹸……!」

「灰から炭酸カリウム抽出するだろ、あとこの料理に入ってるオイルと、ミツロウか、蜂の巣はどっかから取って来なきゃなんねえけど、なんかそんな感じで作れるらしいからさ。材料揃いそうじゃん?」

 

 石鹸という急におしゃれな響きに三人とも動揺する。


「…………確かに、その、うん、毎日水浴びはしてるけどさ、気にはなっていたよね……」

「いえ、あの、はい……まだ臭いという程では無いのですが、ええ……このままではいずれ……ね……」

「ガンさんそれは素晴らしいぞ……! 臭くむさ苦しい我々が、良い匂いのむさ苦しい我々になるという事だぞ……!」

「やめてケンさん! 僕らまだ臭くないよ……!」

「そうです、ギリですよ……!」


「まあ完成まで一ヶ月くらい掛かるらしいんだけどよ」

「それは早急に着手しよう。今日着手しよう!」

「そうですね、今日は戦争跡地の調査と石鹸作りを行いましょう……!」

「うむ……! 蜂の巣くらい幾らでも取って来てやる……!」

「おまえらの石鹸に対する情熱うけるんだが」


 今日の予定はすっかり決まり、後は食事を終えたら片付けて動き出すだけだ。


「…………あの、リョウ」

「どうしたの、カイさん」


 食後の茶を飲みながら、不安そうにカイがそわつく。


「わ、私……臭いですか? 水浴びはしてますけど、加齢臭とか大丈夫ですか……!? 急に不安になってしまって……!」

「えっ、いや……! まだ臭くないと思うけど……!?」

「心配なので確認してください……!」

「えっ、えー! 今!? い、いいよ……」


 カイがデリケートにめちゃくちゃ不安がるので、やや渋々匂いを確認してやる。それから自分の匂いも嗅ぐ。


「だ、大丈夫だと思うんだけどなあ……えー、めちゃ不安になって来るじゃん……」

「安心しろ、同じような生活してんだ。誰か臭えなら全員臭えよ……」

「カイさん、加齢臭と言ったが歳は幾つなのだ?」

「エッ、そんな、恥ずかしいです……!」


 年齢を聞かれて頬を赤らめカイがもじもじする。


「大丈夫だよ、カイさん。ケンさん1000歳越えてるからね」

「えっ」

「うむ、不老になったのが確か45か46歳頃だ。そこから千年と少しは経っているな。正確な年齢は忘れてしまった!」

「カイはケンと同じかちょい年上に見えるから、1500歳とかか?」

「あ、いえ……848歳です……」

「ンン、微妙……!」

「微妙って言わないであげて! 見た目46歳も48歳もそんなに変わらないから! 大丈夫だよカイさん……!」


 慌ててリョウがフォローに入る。カイは割とどうでもいい事を気にしいなのだ。


「そういうリョウさんとガンさんは幾つなのだ! まだ聞いておらぬぞ!」

「あっ、僕は33歳です」

「おれ30」

「えっっっガンさん若っか……! ごめん、同い年か上だと思ってた……」

「老け顔で悪かったな……!」

「ガンさんが末っ子という事か!」

「末っ子言うな!」

「大丈夫ですよ、33歳も30歳も大して変わりませんからね……!」

「年齢三桁が言うと説得力あるね……!?」

 

 騒ぎつつ、食後の茶を飲み終えて片づけをする。

 結局長男がケン、次男はカイ、三男はリョウ、末っ子がガンという事になった。


 片づけを終えると、ひとまず衛星から見た“戦争の跡地”らしき場所を見に行く事にした。何度か空間を繋げ、問題ない事が分かっているので今回は一番遠い、一番広い跡地を見に行く事にする。


 座標を指定し、魔王が空間を繋げる。

 いつものようにぽっかりと虚空に開くゲート。向こう側は今立つ豊かな自然とは対極、悲しい程に何も無い砂漠だった。

 

「――有害だとアレだから、一応おれが最初に見てくる」


 ガンがひょいと先にゲートを潜り、辺りを見回したり目に光を灯して何やらを解析している。


「……死の土地だな。普通の人間だとまあ有害なんだが、おまえらなら大丈夫か。短時間なら全然問題ねえと思う。けど気分悪くなったらすぐ戻れ」


 来い来いとガンが三人を招く。


「――……」


 死の土地という響きに少し緊張しながら、三人はゲートを潜って行った。

お読み頂きありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

次話は明日アップ予定です。

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