29 海の幸
数時間後。作業をしていたリョウと魔王の所に、ほどよく日焼けした全裸の二人が戻って来る。ケンの方は何やら籠を担いでいた。
「悪い、遊び過ぎた……!」
「ああ、沢山遊んで楽しかったぞ! そして腹が減った!」
「アッアッ」
「おかえりなさい! とりあえず魔王さんがアッアッってなっちゃうから二人とも隠そうね~!」
迅速にリョウが全裸たちにパンツを手渡す。
ガンがパンツを穿きながら二人をじろじろと見る。
「おまえら何か仲良くなったらしいじゃん?」
「えっ、あっ、うん、へへ……! その、御心配をおかけしまして……!」
「フ、フヒッ、その、ええ……! もう大丈夫ですお友達になれました……!」
リョウと魔王が二人揃ってもじもじ照れる。仲良しだ。
「……おお、なんか揃ってきもくなったけどそいつァ何より」
「酷くない!?」
「心無いですガンナー……!」
「わはは! 仲良くなったならば良き事である!」
「そうそう、昼飯に丁度良いかと思ってケンと魚とか獲って来たんだよ」
まったく取り合わず、ガンがケンを促す。丁度パンツを穿き終えたケンが、思い出したように足元の籠を拾う。
「うむ! ガンさんに遊びを教えるついでに色々獲って来たぞ! 是非これで美味い昼飯を作って欲しい!」
「わあ、ありがとう! なんだろなんだろ」
喜んで籠を拝見すると、緑のココナッツはじめ、大きな魚やタコや貝など諸々入っている。砂浜だけでなく岩場や海中での遊びも確り満喫してきたようだった。
「わあ! これはすごいよ二人とも! すぐにお昼ご飯作りますからね~!」
「あっ、私も手伝いますよリョウ……!」
はしゃいでリョウが慌ただしく昼食の用意をし始める。魔王も多少は心得があるのか、下拵えなど簡単な部分を手伝っている。何があったやら、見るからに打ち解けた様子だった。
「ほぉん、ほんとにすっかり仲良くなっちまって」
「ああ、微笑ましいなあ! どれ、ガンさん。待つ間に良いものをやろう」
「おっ、何なに?」
「この果実はな、青い内は中に果汁が入っていて飲めるのだ」
ケンが緑のココナッツをひとつ手に取り、上部をナイフで断ち落とす。中にはココナッツジュースがたっぷりと入っている。そのままガンに与えてやると、観察するように覗き込み、注意深く匂いを嗅いでいる。
「薄っすら知らねえ匂いがする。……えーと、電解質、ビタミン、ミネラル、サイトカイン、たんぱく質、L-アルギニン、アスコルビン酸……悪いもんじゃなさそうだな」
「ガンさん! つまらぬ飲み方をするな! 解析などしなくていい!」
「ええ……分かったよ」
渋々ガンが口を付ける。最初はこわごわ、だが散々海で遊んだ身に水分は染み渡ったようで、次第に大きく傾け一気に飲み干した。
「ぷは」
「どうだ?」
「薄っすら甘え」
「そうだろうそうだろう! そこまで美味くはないのだが、水分補給には丁度良いのだぞ!」
「いや、美味かったけど……」
「そうか……」
「ココナッツジュースは結構好き嫌い分かれるからね。冷やすともっと美味しいよ、ガンさん」
「へえ……!」
昼食を作りつつ、リョウが二人の様子を見て微笑ましそうにする。遊んでいる間に幾らか塩が出来たようで、見慣れない白い粉も増えていた。
「海ァ結構楽しいな。気に入ったぜ」
「ふふ、沢山遊ばれたのですね。ガンナー」
「おう。なんかな、乾くと肌がいつもと違う感じする」
「ははは、塩水だからな! 折角の海だ! 塩ばかり作っていないで午後はリョウさんと魔王さんも遊ぶと良いぞ!」
「嗚呼、いえ……! 私は屋外で肌を出すのは恥ずかしいので……! お三方だけで是非……!」
「そうだ肌を出すで思い出したよ!」
魚を捌いていたリョウがハッと顔を上げる。
「ガンさん」
「おれか。なんだ?」
「――はい、恐れ入りますが、大変申し上げにくいのですが、恐らくケンさんを見て学習されたと思うのですが、別に海に入る時は全裸じゃなくていいよ。パンツとか穿いてていいよ」
「……!」
「何故だ! パンツが濡れてしまうだろう!」
「ケンさんやめて! ガンさんを海で必ず全裸になっちゃう人に育てようとしないで! これは洗脳ですよ!」
「何故だ! 俺はいつも全裸だが!?」
「ケンさんはケンさんだから良いんです!」
「それは差別では!?」
「これは差別じゃない! ケンさんはオンリーワンだから!」
「くっ! オンリーワンは良い響きだな!」
言い合うケンとリョウを不審そうにガンが交互に見る。魔王は突然のパンツ穿く穿かない問題の勃発におろおろしている。
「……おい、ケン」
「待てガンさん! 俺の日頃の行いとリョウさんの善人面に騙されて俺が悪いような気になっているのだろう! それは違うぞ!」
「善人面って言ったよこの人!?」
「日頃の行いは自覚しているのですね、ケン……」
「…………じゃあ、一言だけ弁明聞いてやる」
「ふん、望むところだ……!」
砂に胡坐を掻いたガンが、めちゃくちゃ疑わしそうな顔でケンを見ている。ケンは仁王立ちで腰に手を当て、盛大に鼻息を鳴らした。
「いいか、パンツなど穿いて海で遊んでみろ! 尻だけ焼けずに白く残るのだぞ! 恰好悪いだろう! それでいいのかガンさん!」
「――!」
ガンが雷に打たれたような顔をする。
――ややあり、リョウの方を向き深く頷く。それから神妙に告げた。
「………………これはケンが正しい」
「やったー!」
「嘘でしょ……!?」
愕然とするリョウの肩を慰めるように魔王が叩く。
「魔王さん、ガンさんが洗脳されてしまった……!」
「リョウ、諦めましょう。この世界に公然わいせつ罪はまだ無いのです……!」
「わははー! これは村が出来たら村の掟第一条は『海は全裸で遊ぶこと』になるぞ!」
「第一条は酷過ぎるしせめて50条以降だし後『ただし異性が居る際は必ず局部を隠すこと、女子は乳房も』っていう風にしないと大問題だよケンさん……!」
「おまえらほんッとシモの話好きだな! 女子が居る時ァ隠せばいいんだろ。それより腹減った! はよ飯!」
「はい」
敗北感に打ち震えながら急かされ昼食を完成させる。
捌いて刺身状にした白身魚とタコに、塩をまぶして水気を拭き取る。それから果汁と香草ニンニク塩コショウ唐辛子などを加えマリネにする。
別の鍋では昆布を煮だして出汁を取り、塩と白見魚と貝と野草を加えた優しい味の魚介スープ。それに焼いた貝と魚と芋等々。
「出来ました……!」
「いただきまァす」
「いただきます!」
「いただきます……!」
ケンはいつものように豪快に、ガンは先ほどケンに叱られたからか普通に、魔王は何だか嬉しそうに食べ始める。
「あっ、魚うま! これが魚の味かァ……!」
「肉も最高だが、肉ばかり食べていたから魚介が新鮮で美味いなあ!」
「リョウ、とても美味しいですよ。昆布と魚介のお出汁がよく効いています」
「えへへ……これで塩問題も解決したのでレパートリー増やして行きたいところですね! 魔王さんのお陰で色んな所に採集にも行けそうだし!」
「はい、何処でもお連れしますよ……!」
和気藹々とした食事の時間。全員楽しみながら食べていく。
「そうだ、いつまでも魔王さんっていうのも何だし。名前決めない?」
「あっ、決めたいです……! リョウとも仲良くなれましたし、元の名前よりは心機一転新しい私という事で……!」
「うむうむ、五人目がまた魔王だと困るしな! 早めが良かろう!」
「そうそう魔王は来ねえと思うけどなァ」
食べながら、新しい魔王の名前を全員で考えていく。
「おれらは得意なもんで付けてんだよな。剣と射撃ッて感じで。リョウは得意の分野が違うけど、料理が得意だからリョウだ」
「うんうん」
「魔王さんは何が得意なんだ? 眼鏡を光らせる事か?」
「いえ、眼鏡を光らせるのも得意ではありますけど……! そうですね……空間系と闇属性の魔法が一番得意ではありますが、他に何かあったかな……」
パッと他に出るものが無いらしく、魔王が考え込んでいる。
「うーん、闇魔法眼鏡……?」
「長くない?」
「じゃあ眼鏡」
「半分眼鏡ではないか?」
「私これから半分眼鏡って呼ばれるんですか?」
「いやいやいや、それはちょっと。後から眼鏡掛けた人来たら困るし、それはもう得意じゃなくて外見的特徴だよね」
迷走しつつも全員真剣に考えている。名前は大切だ。生まれ変わって新たな生活を始める証明のようなものなのだ。大切だ。
「外見的特徴か。別に得意である必要は無いし、そちらから攻めてみるか」
「シチサンは?」
「いえ、確かに七三分けですけど。私これからシチサンって呼ばれるんですか?」
「シチサンさんって呼ぶの語呂悪くない?」
中々難しい。全員唸って考えている。
決してふざけてはいるのではない。真剣だ。新たな仲間の大切な名前なので、本当に真剣に考えているのだ。
「どんな名前が良いとかある? 魔王さん」
「そうですね……半分眼鏡やシチサンよりは、今日の良き日を忘れぬような、あやかった名前が良いかなと思うのですが……」
「塩?」
「塩か?」
「それはちょっと……!」
「せめて海では……!?」
――――海。全員がはっとする。
「海、海か……カイさんでどうだ?」
「おお」
「カイさん。僕は素敵だと思うな。魔王さんは?」
「海……カイ、…………素敵ですね」
何度か名前を反芻し、ややあり魔王が嬉しそうに笑う。
「――今日から名前、カイにします!」
名前も決まり、歓声と拍手が巻き起こる。
夜には改めて歓迎の宴を行い、こうして確りと四人目が加わったのだった。
――そしてそれは、“全ての準備が整った”事を意味すると彼らはまだ知らない。
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