24 魔王と勇者
双方分かれて落ち着きを取り戻した後、ガンと魔王は村の方へと来ていた。道中でこれまでに解った送られる仕組みや、考察した世界の事などは話し終えている。
「ひとまず魔王でいいだろ、呼び名。別のが欲しきゃまた付けりゃいいし」
「あの、はい…………その、ガンナー……」
「いいよ、何でも好きに話しな。けど食いながらにしよう」
リョウの見よう見まねで湯を沸かし、茶を淹れてテーブルに食事と共に並べる。
「あっ、人の食いもん食える? 大丈夫か?」
「あ、はい……大丈夫です……」
「よし、なら食いな」
促しガンも食べ始める。魔王は恐る恐る口を付け、それから「美味い!」というような顔をしておずおずと食べ始めていった。
「その……美味しいです」
「そりゃ良かった。これはリョウが作ったもんだ」
「……! 勇者が……!」
「毒は入ってねえから安心しろよ」
「……いえ、そうではなく……私のようなものが勇者の作った料理を口にするなどあまりに罪深く……!」
「めんどッくせえな! 料理に罪は無えだろ、いいから食え!」
「はい」
怒られてしおしおしながらそれでも食べる。
「美味しいです……」
「そりゃ良かった」
「あの、ガンナー……」
「なんだ?」
魔王は几帳面な性質らしく、こまごまと魚の骨を取って食べている。ばりばり頭から齧りながら、ガンが魔王を見る。
「私は魔王ですが……その、あなたは怖くないのですか……?」
「えっ」
「えっ」
「いや、怖がる要素が無えんだけど……おまえ腰低いし、戦ったところでどっこいだろうし……」
「あっ、はい……」
「いやけどそういう事じゃねえよな、分かる、分かるって」
ちょっと待ってのジェスチャーで暫しの間。
「まず見た目。おまえより妙な見た目の宇宙人は沢山居る。怖くねえ」
「宇宙人と比べられる日が来るとは……!」
「それから敵性の有無。今んとこおまえはおれの敵じゃねえ」
「敵対するつもりはありません……!」
「これまでの悪行。――知らんけど、種族と立場が違うだけで同じかそれ以上殺してるよ、おれは」
「…………」
ガンが茶を飲み、ちょっと考えるように空を見る。土地を拓いたから、言葉に出来ない程美しい星空が存分に見られる。
「……こりゃ多分、おれが敵性宇宙人と和解できるかッて事なんだろうなァ」
「そう、なりますか……」
魔王も茶を啜って夜空を見上げる。
「宇宙人ってのはさ、言葉が通じねえんだ。文字通りの通じねえやつも居るが、共通の言語を解しても、主張や価値観が違い過ぎて結局争っちまう」
「そうですね……人間と魔族もそうなのでしょう……」
「けどよ、世界関係なく。無人島に敵性宇宙人と一対一で放り出されたとする。価値観も利害も合わない嫌な奴だったらそりゃ争うよ。仕方ねえし」
「ええ……」
「けど良いやつで、話も合うんだッたら――まあ共存してもいいかなァ」
「……それが、あなたの大切な人を殺した宇宙人でもですか?」
魔王が強く竹の湯飲みを握る。もともと青白い肌が更に血の気を失う。
ガンが瞬き、魔王に視線を戻してちょっと笑った。
「同じ種族なだけだろ。別個体だ。 おまえが良い奴なら、おれは共存できるよ」
「そう…………ですか」
世界を渡ってはじめて。ほんの微かに魔王が笑う。
「まあ勇者の場合は分からんけど。けどあいつも良い奴だからさ、ちゃんと話し合えば何とかなるんじゃねえかな。ほら、片付け手伝え」
「ゆ、勇者と話し合い……出来るでしょうか……はい」
食事を終え、ガンに促されて片づけを始める。
「おれは結構あいつの事、信頼してる。そのあいつが言ったんだよ」
「……?」
「お前が来る前に予兆があった。虫の知らせみたいなもんらしいんだけどさ。“悪いものじゃないと思う”だってよ」
「…………!」
カーッと耳まで魔王が赤くなる。
「えっきも」
「心無いですガンナー……!」
きもがられつつ、片づけを終えれば昼に用意した小屋で二人とも横になる。
「あっ羽仕舞えんだ」
「あ、はい。送られる時は丁度出していたもので……」
自然の豊かな音に包まれ、濃密な闇の中。
「…………此処は、命に満ちていますね。ガンナー」
「そうだな、おれも来た時そう思ったよ」
訥々と色んな話をしながら、二人は眠りに落ちていった。
* * *
もう一方の二人は、拠点の方へと戻ってきた。
「ケンさん! もういいよ! もう自分で歩けるから……!」
「わはは! 軽いものだ! 甘えて良いのだぞ!」
結局降ろされたのは拠点に着いてからで、リョウは肩で息をしていた。
「まあまあ、まずは飯にしようじゃないかリョウさん。おれは腹が減ったぞ!」
「……はい、お茶淹れるね」
リョウがお茶を淹れる間にケンが料理を机に並べた。
いつも三人で食べていた食卓も、一人欠けるだけで随分寂しく感じる。
「では! いただきます!」
「はいどうぞ」
ケンは勢いよく、リョウはのろのろと食べ始める。
「うむ、今日も美味いぞリョウさん! 肉と芋は最高の組み合わせだな!」
「それは良かった……」
「元気が無いぞリョウさん! どうせ魔王の事であろう! さあさあ俺に話すが良い!」
「ケンさんだから知ってたけど直球過ぎるよぉ……!」
「わはは! これでも千年生きている。王には頼るものだぞ、勇者!」
ケンが面白がるというよりは優しい顔つきをしている。何だか恥ずかしくなって、リョウが視線を落として芋を齧る。
「……うう、その……魔王だよ。僕はほら、魔王を何度も倒してきたじゃない……? だから、どういう顔をして良いか……どう接して良いかも……分からなくなっちゃって……さっきは取り乱してごめん……」
「ははは、謝らずともよい。 だが、そう、悪くない魔王というのも不思議だが、悪い魔王ではなさそうだったではないか?」
「……………………そうなんだよね……」
ずん、とリョウが暗く落ち込む。ケンは構わず肉を齧っている。
「悪くなさそうなんだよ、なんで……? いや、僕がそもそも先触れで悪くないって感じ取ってしまっているんだけど、悪くない魔王ってなに……? ねえケンさん、悪くない魔王だよ……?」
「ふぅむ、そもそも白い世界で送られる際にも“善悪”に対する言及は無かったからな。なにがしかの偉業と、世界に居られない程の力、それを満たしていれば魔王でも関係無いという事だろうか」
「そうか、確かに言及無かったな……」
リョウが机にへばりつくようにして芋を齧っている。
「リョウさんまるでなめくじのようだぞ。悪くない、結構ではないか。何が不満なのだ?」
「あああ、そこ突かないでぇ……!」
「闇か! また勇者の闇か! この王に聞かせるが良いぞ!」
「この王様人のデリケートな所に土足で踏み込んでくるぅ……!」
リョウがしおっしおになりながら、それでも何とか言葉にしようとする。
「僕は今までさ……魔王が邪悪だから、その悪しき行いから、世界を守るために、倒して来たんだよね……どの魔王もそうだったんだよね……」
「ははぁ、それが悪くなさそうな魔王が出てきて、僕の今までの魔王討伐は本当に正しかったのか!? 魔王は悪でなくてはならないのに! じゃないと僕の存在意義は!? などと小さい自分が出てきてしまったのだな!」
「もうやだこの王様ぁ……! その通りでございます王様ぁ……!」
最早リョウは地面で悶絶している。ケンは笑顔で肉を齧っている。
「ははは! リョウさんまるで地虫のようだぞ!」
「ケンさんそろそろいい話してくれないと泣きますよ僕は!」
「ふぅむ、ではいい話をしてやるか……」
ケンがいい話を考える間、よろよろとリョウが座り直す。
「俺が世界征服をしていた頃、リョウさんと似たような悩みを抱えた若き武将が居たのだが」
「うん……」
「悪など居ないのだ、リョウさん」
「えっ……」
「魔族とて、その本能に従い生きる為に“人類にとっての悪しき”行いをするのだろう。逆に魔族から見れば、リョウさんがこそが魔王にあたる」
「それは……」
「それぞれの正義同士がぶつかった時、争いが起き、片方が悪とされる。国盗りとはそういう事だ。人間と魔族の領土争いも似たようなものだろう」
すっかり食べ終え、ケンが茶を啜る。
「若き武将は、戦う相手が悪であって欲しかったのだ。でなくば、自分が罪の意識に苛まれる故な。だがそんなうまい話があるものか、相手とて生きている。善きも悪きも居て当然なのだ」
「…………」
「俺はその弱さを叱責し、3つの道を示した。リョウさんならどうするかなあ」
もぞもぞとリョウも食べ終え、無言のままケンを見る。
「ひとつ。相手を悪と断じ、何も考えず首を刎ねよ。……これが一番楽だし早く解決する」
ケンは試すような面白がるような顔でリョウを見ている。
「ふたつ。苦しみを伴うだろうが相互理解と解決に努めよ。……これは時間も掛かるし成功も失敗もする。だが成功すれば一番豊かを得るだろう」
リョウが口を引き結び、じっと聞いている。
「みっつ。向き合う勇気も持てぬなら逃げよ。……ただし、これは停滞したまま何も進まぬ。成功も失敗も、得られぬままだ。――さあ勇者よ、どうする」
「…………僕は……」
目を閉じ、深く息を吸い込む。すぐに答えは出た。
「ふたつめがいい。…………向き合わないと、いけないんだな」
「うむ、そうか。では努めて見極めよ。見極めた先でリョウさんが魔王の首を刎ねるであれば、俺もガンさんも文句は言うまい」
「刎ねないよ……! 悪い魔王じゃないって言っただろ……!」
「わはは!」
笑って、ケンが片付けに立ち上がる。
「その、ケンさん…………ありがとう。明日ちゃんと、話してみる」
「ああ、そうするが良い」
リョウも立ち上がり、片づけへ。
二人で石畳を踏み、川の方へと歩きながら。
「――――いやあ、リョウさんがみっつめを選ばなくて良かったな!」
「若き武将はみっつめを選んだの?」
「ああ、それで俺に首を刎ねられた」
「えーっ」
「一度は戦略的撤退だろうが、二度の撤退は武人の恥だろう! リョウさんも既に一度戦略的撤退をしていたから危なかったぞ! わはは!」
「待って! 一度目はケンさんが強制的に担いでいったよね!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら夜は更けてゆき――明日にはまた四人揃う事となる。
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