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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第三部 ダンジョン編

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237 お花見デート

 デート当日。カイとベルはゲートを潜ってとある場所へ出かけた。

 カイの方はいつもの服装に、ピクニックバスケットとパラソルと敷布等々を抱えの大荷物。ベルの方は当然のように手ぶらで、普段とは違って動きやすそうなバカンス風のワンピースに大きな鍔広帽を被っていた。いつもうなじを出して纏められている髪が、今日は下ろされ風に揺れている。


「今日は髪をおろしているのですね。普段も素敵ですけど、今日は新鮮な雰囲気でドキドキします」

「うふふ、こういうの好きかと思って!」

「はい大好きですぅ……!」


 大変正直に答えるカイに笑って、ゲートを潜りきると着いた先を見渡した。傾斜の無い、恐らく平地だろう広い野原。足元から視線を上げると、満開の美しい桜が辺り一面を彩り息を呑む程美しい景色が広がっていた。


「まあ、桜! そう、村だと季節を忘れてしまいそうだけど春だったわね……!」

「ええ、そうなんです」

「とっても素敵! 気に入ったわ。秘密の場所みたいにあなたが見つけたの?」

「いえ、此処はカピバラの神に教えて頂いたのですが――」


 ベルと度々秘密のお茶会をするアナベルの花の群生地は、昔にカイが見つけた場所だが此処は違う。世界を俯瞰して見る事が出来るカピバラの神に教わった場所だ。


「此処は、村と同じく最初の神の“再生地”のひとつなのだそうです」

「他の再生地と違いがあるの?」

「ええ、神に聞いて私も初めて知りました。今ある“死の土地を”再生する場合は、ガンナーの例えを借りると『五人目や凶兆の死体で回復薬を作って、それを死の土地に使った』状態なんですよね」

「例えは悪いけど、まあそうよね」


 カイが頷き、ベルも頷く。


「その再生には、人類の形跡は殆ど含まれません。死に果てて“ゼロ”になった土地が、新たに生命力を得て嘗ての自然環境に近い形で生まれ直しています」

「過去の良い自然環境に近くはあるけれど、以前と同じ“復元”ではないという事ね」

「はい、そうです。それに対して、最初の神が行った再生は“復元”なのだそうです。今の再生では人類の形跡は殆ど含まれないと言いましたよね」

「ええ」


 デートらしからぬ話題ではあるが、ベルもこういう話は好きだし二人きりの時は色んな考察や議論をして遊ぶ事もある。その為機嫌も損ねず興味深げに相槌を打っていた。


「含まれない形跡より、含まれる形跡を挙げた方が早いとカピバラの神は言っていました。『植物や家畜の品種改良等、人為的ではあるが新たに種として登録されたもの』は私達の再生でも復元されるそうです」

「アルパカのように古来より人々が生活の為に品種改良をした――けれど今では当たり前の種になった、という辺りの事ね」


 立ち話も何なので、良い場所を探して歩きながら話を続ける。


「そうです。含まれない形跡としては、前の人類が建築した建物など、新たな種として登録されていないものだそうです」

「成る程ね。じゃあ、最初の神の“復元”はその建物だとかが残っているのかしら?」

「ええ、この場所には城の跡地が少し残っているそうですよ」


 話している内に川沿いのような場所に着き、桜も見事に咲いているので此処に決めた。カイが敷布を広げ、恭しくベルをその上へとエスコートする。桜の天井が見事なので、ひとまずパラソルは立てない事にした。


「ねえ、この川ってお堀じゃない?」

「本当だ。対岸がお城の跡地ですかね」


 ベルが指差す対岸を見ると、川向こうには苔むした石垣のようなものがある。石垣の上には本来城壁がある筈だが、城壁どころか城の形は何も残っておらず、ただ石を積み重ねた石垣だけが残っていた。


「面白いわね。わたくし、前人類の痕跡を見るのは初めてよ」

「私もそうかな……? ガンナー曰く、死の土地の一部には兵器や建物の残骸があるそうですが。直接見に行った事は無いですね」

「最初の神が行ったのは“復元”なのでしょう? 建物は復元しなかったのかしら」


 目は桜を楽しみつつ、思考は新たに得た世界の謎に少しワクワクしている。


「最初の神が行った再生、復元は主に自然環境だそうです。大気や海、土壌の汚染など、このままでは廃棄するしかない状態の大元を出来る限り回帰させ――傷んだ土地も、まだ死んでいない場所を優先したとか」

「ああ、そういうこと」


 ベルが納得して深く頷いた。今多く死の土地と化しているのは、前人類が多く存在した住みやすい場所ばかりだ。その辺りは衛星から見ても“ハゲ”ていて完全に死んでいる。その辺りは後回しにして、最初の神は瀕死でもまだ死に絶えてはいない土地を優先して復元したのだろう。完全に死んでいない土地の再生だから“生まれ直し”ではない。


「じゃあ田舎や辺境に行けば行くほど、前人類の痕跡があるかもしれないのね」

「そうなりますね。人が住まない場所ですから、元々少ないでしょうけど」

「うふふ、遺跡巡り位なら出来るかもしれなくってよ」

「嗚呼、それは素敵ですね」


 カイが微笑み、ピクニックバスケットから色々取り出しお茶の用意を始めた。


「後は、前の状態を知らない私達には分かりませんが。最初の神はこの世界を作った神であり、歴史を知るからこそ完全に復元ができたそうです。この桜の木が復元されていたとして、以前と同じ位置に生えている筈なんですよ」

「それなら田舎や辺境の自然系の観光名所はそのまま楽しめるわね」


 以前と違っていても、それは自分達には分からない事だが、と頷き。ベルがふと気になって首を傾げた。


「ケン様もデート場所をカピ神に聞いたと言っていたわ。あの子達、世界中を把握できているのかしら? だとしたら便利だけど、ロマンは無いわね」

「嗚呼、いえ、私もそうかと思ったんですけど。そうでもないみたいで」


 ミニテーブルを出し、クロスを敷き、茶器やティースタンドを並べながらカイが首を振った。


「よく彼らは世界を水槽に例えるでしょう。自分で一から設計して作った水槽なら把握出来るでしょうが、彼らは水槽を引き継いでいるので。それでも残された記録を見たり、水槽の外から眺める事は出来ますからね。目で見える範囲の絶景や名所を教えてくれているようですよ」

「そう……じゃあまだ見えない範囲に世界の謎は残っているのね」

 

 カイが手際よくティースタンドにスコーンや菓子、サンドイッチなどを飾り付けるのを眺めながらベルが難しい――というよりは興味深そうな顔つきで小さく唸った。


「ねえ、わたくし凄い事を考えてしまったわ」

「おや、何でしょう?」

「あの子たち上級神って、基本的に細かくは水槽の中身に手が出せないじゃない? 大きくは出せるけれど」

「ええ、そうですね」


「記録を参照すれば、登録してある種の事も分かるでしょう。けど、例えば神ではなく人間が作り出した管理外の生物――かつ種として登録される程ではない、イレギュラーで少数の、合成獣キメラだとか人工生命体だとかが居たとしたら」

「え、ええ……」

「まだ“生き残って”いるかもしれないわね」


 ベルが悪ぅい顔で笑った。流石にそれは思いもよらず、カイが目を丸くする。


「恐らく前人類の消去は、種の登録を利用して消したのでしょう。でなくば一斉に漏れなく消すなんて大変よ。どうするカイ? “旧人工生命体”が残っていて、この世界の占有権を主張してきたら」

「え、えええ……話し合いか共存は無理ですか?」

「どうかしら、世界を壊しかけた悪い人類が作った生命だもの。わたくしより性格が悪いかもしれないわ」


 愉快げにするベルとは対照、カイが難しい顔で考え込み始めるので思わず笑ってしまった。


「っふ、あはは……! もう、真面目なんだから! もし存在していたとしても、もう居ないわよ。世界が壊れかけて、人類が消えて、神が消えた世界をどうするか議論をして、それからようやくケン様が来るまでにどれだけ経ったと思うの?」

「あ、嗚呼……そうか……」

「わたくし達みたいな長命種でもなければとっくに死んでいるわ。きっとね」


『きっとね』に一抹の不安を感じて何だか身震いしてしまった。気持ちを切り替えるように、慌てて紅茶を淹れる。お花見デートはまだ始まったばかりだ。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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