23 四人目
翌朝。光の柱は空と頂上の中ほどまで伸びてきており、予想通り夕方に到達しそうだった。
朝食や支度を済ませると、昨日の予定通り小屋とトイレの作成をする事にする。
もし来るのが女性じゃなくとも今の洞窟で四人寝るのは狭いし、トイレも今後肥料活用できる為作って損は無いだろうという結論だ。
「はい、ではまずトイレを作りまーす!」
リョウが一番詳しい為、現場監督を務める。
「まあ基本今までと一緒なんだけど穴を掘ります」
今までは穴を掘って埋め立てる、という事をしていたが今回は長期で使うものなのでしっかりと準備する。
風通しの良い場所で50cm以上の穴を掘り、サイドにも風が通るよう溝と、更に空気と水の流れを良くする点穴も掘っていく。穴と溝に落ち葉と炭を入れ、溝に草を被せ、下準備は完成だ。
「なんかこういう生活してっと、文明の極みって感じするな。トイレ」
「そうだな、人は絶対に排泄をするものだしな。必需品だ」
「後なんか、此処に住むぞ! っていう感じがしていいよね」
穴の上に板を渡し、上にしゃがめるようにする。それから周りに雨避けとプライバシー保護の為の小屋を建てれば完成となる。
「これはね、田舎の集落でよく見たタイプなんだけど。ぜんぜん臭わないし堆肥にも使えるし良い事づくめのトイレなんだ」
「へえ~!」
「ちょっと汚い話だけども、大と小が混ざる事で臭いが発生するらしいんだよね。落ち葉と炭がある事で分離できるし、空気の通り道も作ってるから分解も早いっていう仕組みらしいよ」
「ふむふむ」
「使用ごとに落ち葉と炭を上に被せていって、一杯になったら次のトイレを作っていく感じかな。先人の知恵助かる~!」
竹の支柱で小屋を建て、屋根は椰子の茅葺き。風通しと見晴らしが良いよう上部は開けた形で、竹編み壁で四方を囲う。
「ガンさんの竹編み技術がどんどん上がってもう……!」
「ハマると面白くて……」
「めちゃくちゃおしゃれなトイレになるな! これは!」
竹編みは表裏の色合いや組み合わせ方で色んな模様が作れるのだが、ガンの技術向上によりお洒落な幾何学模様の壁となった。出入り口の部分も開閉できるよう扉状にし、果たしてトイレは完成した。
「やったー!」
「やった~」
「やったー! これでいつご婦人が来ても大丈夫だぞ!」
「まだ言ってんのかそれ……!」
まだ昼前、夕刻までまだまだ時間はある。
次は寝泊りする為の小屋の作成へ取り掛かる事にした。
「流石にツリーハウスは時間が掛かるから、ひとまず高床式の小屋を作ろうか。後は余力と時間があれば作業場ってとこかなあ」
「んだな~」
「力仕事は任せて欲しい!」
通常数日掛かる仕事だが、三人のスキルとパワーを持ってすれば半日で完成する。夕方近くにはすっかり、南国でよく見られる高床式の小屋と新たな作業場が完成していた。
「その内ハンモック作ろうぜ」
「いいね~ハンモック!」
「うむうむ!」
時刻は昼過ぎだが夕に近い。光の柱も頂上近くまで来ている。もう数時間で四人目が来ると思うと、全員なんだかそわついた。
「えー、なんかドキドキしちゃうね。ちょっと落ち着かないから先に夕食作っておこうかな……」
そわそわとリョウが新しい作業場で夕食を作り始める。
「おまえは初めてだし、余計にそわつくよなァ」
「ああ、俺もこれで三度目だが楽しみな気持ちはすごく分かるぞ!」
ケンとガンの方は、竹や木材でテーブルや棚を作ったりしている。
今日の夕飯は野生の豚と芋を炒めたもの、川魚を揚げたもの、砕いた木の実やトウモロコシを練って焼いたもの等々。先に作ってしまっても、ケンの倉庫に入れておけば出来たてを後で食べられるのだ。
「――そろそろ向かっとくかァ」
「おお、もうそんな時間か」
「じゃあ一度拠点に戻ってから、山に向かおう」
観測をし続けている事もあり、ガンが一番時間に聡い。一度拠点まで帰還魔法で戻り、そこから山の頂上へと移動していった。
言った通り、光の柱は頂上すれすれ。あと半時もせず届きそうだった。
「わ、わあ……本当にもうすぐだね……!」
「あの光が地面に触れると完全な柱になって、中から人が出てくる感じだぜ」
「今度はどのような人物だろうかなあ!」
「先触れの感覚だと悪い感じは無かったから、変な人じゃないとは思うんだけどなあ……!」
三人のドキドキソワソワが最高潮になる頃――ついに地上へと光が触れた。
中央に敷かれた白石から魔法陣のように複雑な光の線が広がり、周囲の柱へ。柱にも魔術的な文様が浮かび、全てが浸透すると一度強い輝きを放つ。
静まれば、接続が完了したように安定し、中央に太い光の柱が固定される。リョウの結界と同じように、何らかの魔法が完了したような一連だった。
「あっ……」
光の柱の中に人影が見える。
目を凝らす内、柱自体の光が霧散しそれは露わになる。
「ほら、やっぱ男じゃねえか」
背の高い、大柄というよりは確りした骨格の男だった。
「うむ、だが今までとは毛色が違うぞ」
司祭が着るような黒い立襟の祭服らしきを纏っている。几帳面に撫でつけた髪、片眼鏡を掛けた横顔は知性的で確かに今までとは毛色が違う。
「いや、毛色っていうかこれは――」
皮膚は死体より青白く、耳は尖り、爪は獣のように鋭く、こめかみの位置から悪魔のような一対の角が生え、蝙蝠のような大きな翼を持ち――。
「魔族では……?」
呆然と景色に気を取られていた姿が、ざわつきに此方を向く。
「……!」
「!」
「…………!」
「わはー!」
明らかにぎょっとする様子に構わずケンが寄っていく。
「やあやあ、そこな魔族っぽい御仁! 別の世界から来た英雄、勇者の類とお見受けするが相違ないだろうか!」
「強い、流石ケンさんどんな時でも動じない強い……!」
「それより早くフォローしてやらんとほら……!」
四人目の新入りが、明らかにケンを見てブフゥと茶を噴くような反応をしている。分かる、リョウには分かった。いきなりあんな“化け物”が目の前に出てきたらああなるのだ。分かる。
「待って、待って……! 僕らは危害を加えるものじゃないんだ……!」
「そうそう、おれ達も同じように送られた仲間で――」
リョウとガンが出てきた為、再度ブフゥが二人分追加された。
「おいリョウ、こいつちょっと面白えぞ!」
「やめたげて! 確かに反応ちょっとコミカルだけど初対面だよ! やめたげて!」
「…………なん、…………何……」
へたり込む四人目。慌ててリョウが駆け寄る。
「驚かせたよねごめん……! 本当に僕らは危害を加えるものじゃないんだ……! こ、これ、これね! 白い世界で貰わなかった? 最強装備入れるやつ! 僕らも同じなんだ……!」
「も、もら……もらもらもら、貰いました……っ」
「だよね! 良かった! あのね、此処に誰か送られてくる時光の柱が立つんだ! あなたで四人目です! 僕らも全員そうやって送られてきた者です……! 怖がらないで……!」
「何ですって……!?」
ぶるぶる震える四人目と必死で取繕うリョウ。
「おもろ」
「微笑ましい!」
その傍らウケているガンとにこにこしているケン。
「おもろましいしてないで二人とも!? ちゃんと自己紹介して! 正体知れないと怖いでしょ!」
「あっはい」
「うむ!」
ずかずかとケンが前に出る。
「俺はケンという。元は別の世界で世界征服をしていた者だ! 少し毛色は違うが同じ追い出され仲間だ、気にすまいよ。これからよろしくな、新入りさん!」
「おれはガンもしくはガンナー。好きな方でいいよ。別の世界で軍人として宇宙人と戦ってました。後は同じくだ。よろしくな、新入り」
「ケン、ガンナー……」
「で、えっと、僕はリョウ。三人とも本名は別にあるんだけど、新しく付け直したんだ。あなたも好きにするといいと思う」
少しずつ落ち着いてきた様子の四人目が、名を反芻しながらリョウを見る。
「僕は前の世界では勇者として魔王と戦っていたんだ。今は動揺してるだろうし、ゆっくりでいいよ。あなたの事も聞かせてくれたら――」
「――勇者…………嗚呼、嗚呼……」
何故だか、落ち着いた筈の四人目の震えが一層増したように見えた。顔を覆い、許しを請うように蹲ってしまう。
「大丈夫……!?」
「………………です、」
慌てて伸ばしたリョウの手が止まる。
「………………私は、……魔王です……」
「え……」
「ごめんなさい、私は……貴殿が戦ってきた、魔王なのです……っ」
二の句が告げない。伸ばした手も固まったまま。
変な汗が出る、頭が真っ白になる。
魔王の方は顔を覆い身を縮めて震えるまま。
「――へえ、これが魔王か」
「うむ、初めて見たぞ!」
ケンとガンが動く気配がする。リョウは動けない。
「ケン、飯ちょっと分けて。おれと魔王が村の方行くわ」
「うむ、心得た!」
先ほど作った夕飯を幾らかケンがガンに分け与える。それからケンがリョウに寄って行ってひょいと担いだ。
「……っ!? ケンさん!?」
「わはは! 何やら難しい事情のようだ! 今晩は別々で寝るとしよう!」
「魔王の方はおれが世話して説明もしといてやる」
ケンの肩の上で身を捩れば、魔王の震える背をぽんぽんと叩いているガンの姿。
「けど、ガンさん……っ!」
「時間があった方がいいだろ、互いに。明日になったら朝飯作りに来い」
「…………っ」
それ以上言葉は紡げず、後はケンに運ばれるままとなった。
今夜は二組別々で過ごす事となる。
お読み頂きありがとうございました!
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
次話は明日アップ予定です。




