18 観測結果
翌朝、晴天。
朝食と支度を済ませ、昨日リョウが見つけた土地を見に行く事にする。
村の候補地になるかもしれなかった。
「二時間以上歩くけど、帰りは魔法陣使うからすぐだよ」
「おー、初体験!」
「魔法移動は久々だ! 楽しみである!」
険しい悪路だが、三人にはあまり関係ない。昨日の雨の影響も見つつさくさくと進んでいく。
「そういえばガンさん、観測結果って出たの?」
「ああ、完全じゃねえけどもう大体」
ちら、と見るとまだガンの眸には“眼”起動中の光が灯っていた。答える表情は何だか複雑そうで、怪訝に思う。
「あんまりよくない結果だったとか……?」
「いや、何をもって良い悪いとしていいか分かんねえ感じ。おれだけで考えるのもあれだし、未知の世界の楽しみを奪っちまうようで悪いんだが、大体だけど説明しちまっていい?」
「ああ、勿論だ」
「うんうん」
「分かった、じゃあ結果そのまま。まずこれが今おれ達が居る世界な」
昨日のホログラムのように、ガンが指先から丸い立体を浮かばせる。
白や緑や茶色が混ざっているが、基本的には丸くて青い星が浮かんでいた。昨日の人類連邦政府のシンボルによく似ている。
「おまえらの世界と同じかは分からんが、星が見えて太陽が巡って重力あんならまあおまえらんとこも丸いだろ。これはおれが居た世界の形に近い」
「えーっと、勇者は基本東西南北あちらの方向へ行け、みたいに動かされるのでそういう方面はちょっと不得意ですね……!」
「わはは! 丸いのは知っているが俺も天文学は疎いぞ!」
「おまえらでも分かるよう簡単に説明してあげましょうねえ……!」
ガンが簡単に子供でも分かるように説明する。
この星は今自分達が居る場所で、外には宇宙が広がっており他にも色んな星があること。太陽があるから昼は明るいし夜は月がのぼる事など。
噛み砕いてやさしく説明したので二人にも理解出来た。
「で、まあ。おれんとこの星に似てるんで仮に“地球”と呼んじまうけど、これが赤道で上が北半球、下が南半球――」
「ガンさんもう少し説明欲しいですね」
「そうだな、優しくお願いしたい」
「はい」
赤道に自転軸、半球北極南極等々、更にはオゾン層や大気圏に至るまで、再び子供でも分かるように今度は念入りにやさしい説明がされる。
説明だけでとっくに道程は半分を越えた。
「なるほど、地球ってそうなってるんだなー!」
「宇宙にも詳しくなったなあ! 我々は賢くなったぞリョウさん!」
「ねー、ケンさん!」
二人は地球を大体理解した。ガンは疲労が溜まった。
「はい、最初に戻りまァす! こっちがおれの住んでた地球! こっちはデータ上の超絶太古の自然豊かだった頃の地球! どこが違うでしょうか!」
ぱぱ、と新たな星のホログラムがふたつ浮かぶ。
「わ、クイズだ。えーと、太古の方が緑の割合がずっと多いです! というかガンさんの方緑が一切無いです!」
「ガンさんの方、海小さいし砂漠と荒野しか無いじゃないか……全体的にくすんでるし……」
「だから自然なんか無えっつってただろうが……!」
ふんと鼻を鳴らして、ガンがすいと指を動かす。みっつの地球ホログラムが移動し、今いる世界の球を中心に水平に並べられる。
「こういう事だよ。比べてみろ」
「これは……」
「ふむ……」
今居る地球。ガンの方のように緑がまったく無い訳ではない、だが太古の地球ほど緑が多い訳でもない。割合的には中間に見えるのだが、ただ中間というよりは何となく。
「不自然なハゲが幾つかあるな?」
「そんな頭のハゲみたいに。あるけど。……後、太古よりだいぶ緑が少ないのと海の割合が多いかな?」
「あと緑の偏りが結構激しい……?」
「そうだ。そしてそのハゲを拡大するとこうなる」
ガンがまた操作、地表のハゲ部分をズームアップ。大きくクレーター状に抉れた“爆心地”だ。衛星から見て分かる程のサイズの爆心地が各地に点在している。
「あと文明の名残っぽいもんもあった」
違う場所をズーム、広い大陸の砂漠地帯。砂に埋もれる壊れた巨大建造物のようなもの、何かの機械か兵器の名残だろうか――のようなものも見える。
「……戦争っぽいね」
「ああ」
「だろうな。人類が繁栄しやすい、環境良さそうだった場所に限ってこのハゲがある。あと、」
ガンが頷き、何らかの数値を見るように画面を呼び出し操作する。
「もう説明面倒だから色々省くけど、海面高度とか温度とか大気とかオゾン層とかそういうの。数値的に徐々に回復中なんだよ。人間が居ねえから」
「あー、それは……人間が数値を悪くしていたのが消えて、っていう……?」
「戦争の跡を見るに、自滅コースも在り得たがこれは……」
話しながら歩く内、目的地は徐々に近付いている。
最早この辺りでは、になってしまうが――自然は豊かで鳥獣の声も賑やかで。
ケンが難しい顔をした。
残存人類が居るのなら、もう少しこの辺りに名残があって良い筈だった。人が住める場所は減っていて、此処は数少ない住める場所のひとつなのだから。
だが居ない。人間は消えたのに、鳥獣は生きている。
「人だけ消されているなあ。神による育成失敗からの強制リセットで確定か」
「一番他人事じゃないやつ来ちゃったなあ……」
「まあ生かしといたらおれの世界みたいになっちまうか、文明が足りなきゃ地球ごと廃棄だしな。それはよしとしなかったんだろ」
「まあ俺が神でもそうする。治めるにも土台が壊れきってしまってはな」
「ああー……神目線か、そうか……」
リョウが思い至ったように顔を顰める。
「どうしたリョウ」
「……恐らくなんだけど、僕らは善意だけでこの世界に送られた訳じゃないと思うんだよね」
「ほう?」
「土台を回復させたいだけなら、無人のまま待った方が良いだろ? 僕達がまた破壊するかもしれないんだから」
「……そりゃそうだけど、やったらおれらもリセットされんじゃね?」
「簡単にリセットは出来ないよ。僕らは神ほど万能ではないけれど、神と戦えるほど“強くはある”んだから」
「うむ、戦えるなあ」
「でしょう。だから神は善意という体で、……いや、善意と目的は両立なのかもしれないけど、兎に角目的があって僕らを此処に送ったんだと思う」
「散々神のいいように魔王退治に使われてきた勇者が言うと説得力あるなァ」
「…………でしょう、そうでしょう」
ケンとガンが慰めるように肩を叩いてくれた。切ない。
「となると、我々が此処に居る自体に意味があるか、何かをさせようとしているか、だなあ。今はさっぱりだが!」
「世界中を地道に緑化運動させようとかだったらきッついわ。無理」
「……大丈夫だよ。今は分からなくても絶対いつか分かる時が来る。きっと僕らが此処まで推測するのも織り込み済みだ。意に添わなければ絶対何らかの手段で誘導してくるし、思い通りならいつか必ずその時が来る……僕は知ってるんだ……僕は詳しいんだ……! 神は平気でそういう事をしてくるんだ……!」
リョウが暗い目でブツブツ言い始める。二人とも心配そうにした。
「おい、勇者の闇が深い。何とかしてやれよ、王様」
「おお 勇者よ! 存外心の傷が深い! 撫でてやろう!」
ケンが滅茶苦茶撫でてくれた。
「ありがとう……ごめんね、お見苦しい所を……」
「気にするな! 勇者の闇を垣間見た心地である!」
「そうだ、リョウ! いいもんあるぞ!」
ガンがホログラムを操作して、南半球のある一点を拡大して指す。
「此処が今おれらが居る辺りだ。ちっと遠いが、海があるぞ!」
「はっ、海……!」
「岩塩でも塩湖でも欲しいならおれが探してやる! 元気出せ! な!?」
「ウッ……ガンさん……! ありがとう……!」
リョウが持ち直したので仕切り直す。
「ともあれ、リョウの言う通りその時にならんと分からんって事だな」
「うむ! 大体謎は解けたし、ならばその時まで世界を楽しもうではないか!」
「っふふ、そうだね……! そうしよう!」
「けどひとまず大掛かりな自然破壊はやめとこうな」
「ああ、うん」
「それはそう」
頷き合い、三人は目的地へとほどなく辿り着いた。
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