12 夜話
夕食は雉肉と野草のスープ、茹で筍、自生の根茎を掘り返して焼いたもの等。二人とも大喜びで綺麗に無くなった。
今はゆったりと火を囲んで食後の時間を楽しんでいる。
「今日採集していて思ったのだけど、やっぱり此処は南方か――は分からないけど、暖かい熱帯か熱帯雨林地方だと思うんだよね」
「ふむ、確かに。俺もそう思う」
「僕とケンさんの世界の自然環境は近いようだから、多分間違いないかな」
「おれの世界は参考になんねえしなあ」
話しながら、ガンに竹の籠編みを教えている。やはり物覚えがよく、すいすいとコツを掴んで編み進めているようだ。ケンもチャレンジしてみたが、早々に向いていない事が分かって今はただ寛いでいた。
「季節は……難しいけど多分春くらい、かな。筍の具合とか、パンの木の花が咲いていたんだ。確か夏に実がなるから。まあ、ずっとこの気候の所だと本当に分からないんだけど」
「四季ってやつか。記録で見た事ある」
「そうそう。四季といっても地域によって結構違いがあるから、この辺りはどうだろうなあ」
「ふうむ。乾季と雨季に分かれるタイプか、ずっと高温多雨なタイプか、前者のようにも思うが暫く過ごしてみないと分からないだろうな」
「だよねえ」
「何だ、雪降らねえの?」
「どうだろう。確定じゃないから分からないけど、この辺りは降らないかも」
「ガンさんは雪が見たいのか?」
「見た事無いから見てえんだ。緑は此処で見ただろ。あと海も見てえ」
「海は僕も行きたいな。此処からなら、海の方が探しやすいかも」
海を思う。塩も作れるし海の食材も魅力的だ。思わずうっとりしながら、編み終えた籠をふたつ組み合わせる。川に仕込んで魚を獲る罠だ。
ガンの方はせっせと採集用の籠を編んでいる。
「いずれ海や他の環境を探して遠くまで足を延ばすのも良いな。世界を巡るのは良いものだ」
「うんうん。ただ光の柱の見守りもあるから、完全に留守には出来ないのが難点だねえ」
「おまえら魔法の世界から来たんだろ。ワープ魔法とか瞬間移動魔法とかなんかねえの?」
「あるにはあったが、高位の魔女しか使えなかったなあ」
「無論おまえは使えないと」
「うむ、魔法は人任せだ!」
「僕は帰還魔法っていうのが使えるんだけど、一度設定した地点に戻れるってだけの魔法で、一方通行なんだよね……」
「ピンチの時に役立ちそうだが、新規開拓ってなると不便だなそりゃ……」
「そうなんだよ……」
「ははっ、悲観せずともその内魔法が得意な仲間も増えるだろうさ!」
「その可能性は……あるなァ」
「あるね。前の世界に居られないレベルだもんなあ」
ぱち、と焚き火が小さく爆ぜる。それぞれ自分が世界を出された事でも思い返したか、全員なんだか笑ってしまった。
「そういやおれ、聞きてえ事があったんだよ」
完成した籠をリョウに渡して出来栄えを見て貰いつつ、ガンがふと。
「お、何だろ。籠はとてもよく出来ています。流石です」
「何だいガンさん?」
「おまえらの世界の物語、お話? 民話とか伝説? 童話? っつうの?」
「ああ、うん」
「おれはそれが聞きてえんだ」
「何だガンさん、寝る前に物語をせがむとは子供みたいで愛らし痛い!」
ケンが言い終える前に無言でガンがまあまあ強めの力で引っ叩いた。
「今のはね、ケンさんが悪いと思うよ」
「ああ、ケンが悪い」
「まあまあ強めに叩かれるくらい俺が悪かったようだな」
「けど、ケンさんじゃないけど、ガンさんって結構物語? 詳しいよね。昼にも言ってたしさ。好きなの?」
「好きっつうか興味がある」
ケンが余計な事を言わないよう、ガンが目の前でシュッシュッと牽制の素振りをしている。
「能力開発の一環で読まされてたんだよな。想像力を養う事で能力が向上する可能性が云々ってよ」
「成程、それで詳しいんだ」
「そうだ。あと単純に、おれにとっちゃおまえらの世界こそが物語だからよ。物語の中の物語はどんな風なんだろうって、気になんだろ?」
「それは確かに。あっ、じゃあさ……僕とケンさんの世界は近いけどまったく一緒じゃないし、ガンさんの世界も未知数で気になっているので、毎晩交代で話をしていくのはどうだろう?」
「おお?」
「自分の世界の童話や物語でも良いし、自分が体験した事や、見聞きしたエピソードでもいい、みたいな。それこそ『寝る前のお話』だよ。どうかな?」
「うむ! 互いの世界の相互理解になるだろうし、良き娯楽ではないか。何より『寝る前のお話』という響きが良い! やろう!」
「――ふぅむ、悪かねえな。んじゃそうするかァ」
少し考えてガンも頷く。素振りの手が指差しに変わった。
「じゃあ今晩はおまえな。さっきやらかしたから」
「相分かった!」
寝るにも丁度良い時間だった。
作業の手を止め、『寝る前のお話』を聞くべくそれぞれ横になる。
「折角だから最初は俺の故郷の童話にしようか。俺もよく乳母に聞かされたし、千年経っても母親が子に聞かせ続けているおとぎ話だ」
「いいじゃん」
「おお、何かわくわくしちゃうな」
――お話の、はじまりはじまり。
◆◇◆◇◆◇◆
『欲しがり男の話』
昔むかし、ある所に根性まがりの男がいました。
男はなまけ者で貧しく、自分より幸せな人々を見ては、酷くねたんで意地悪をするので国一番の嫌われ者でした。
ある時天使が訪問してきて、男に言いました。
「どうしてそんなに意地悪ばかりするんだい。お陰でおまえはひとりぼっちじゃあないか」
男は言いました。
「みんなが俺より幸せなのが悪い。俺は不幸で何も持っていないのに」
天使は言いました。
「おまえが変われば沢山のものが手に入るだろう。全てはおまえの心がけ次第なのだよ」
男は天使の説教に怒って、棒でたたいて追い返しました。
「うるさい! 俺は楽をして幸せになりたいんだ!」
天使を追い返した次の日、悪魔が訪問してきました。
「死んだ後におまえの魂をくれたら、欲しい物をなんでもくれてやるぞ」
男は死んだ後のことなど考えていなかったので、喜んで悪魔に魂をやる約束をしました。代わりに悪魔は男に魔法の力を授けました。
「この魔法は誰にでも欲しい物を言えばそれが貰える魔法だ。ただし、貰ったものは絶対に返せない。よく考えて使うことだ」
悪魔は忠告をすると帰っていきました。
男は大喜びで街へと出ました。
教会で結婚式を挙げている花婿と花嫁がいます。
幸せそうで、花嫁はとても綺麗でした。
「旦那さん旦那さん、その綺麗な花嫁をおくれ」
花婿は花嫁をくれました。とつぜんの事に花嫁は泣きだしましたが、男の物になったのでとぼとぼと後をついてきます。
本当に何でももらえる、これは気分がいいぞと男は思いました。
お金持ちのお屋敷へ行き、お屋敷と財産を貰いました。お金持ちは裸で追い出されてしまいました。
男はたっぷりとぜいたくな暮らしを楽しみます。
けれどその内、男はつまらなくなりました。綺麗な花嫁は泣いてばかりだし、ぜいたくな暮らしもずっと続くと飽きてしまったのです。
ならもっと良いものを貰いにいこうと、男は城へ向かいました。
王様から王冠とお城を貰いにです。王様はとても立派で、国で一番慕われて尊敬されていました。
国で一番なのだから、それはきっと幸せにちがいないと男は思ったのです。
王様も魔法の力には敵わなかったので、とうとう王冠もお城も、国中全部がすっかり男のものになりました。前の王様は男のめいれいで首を斬られて処刑されてしまいました。
すごく気分がいいぞ、すべてが俺のものだ。男はそう思いました。
けれど王様の仕事はたいへんで、男はたくさんの仕事をしなくてはなりませんでした。
王様はお金持ちより立派な暮らしができるけれど、むずかしい仕事やたくさんの責任があったのです。
ちっとも幸せではありません。けれど返すことはできません。
男は怒りだし、なまけて仕事を放りだしました。
一年もたちませんでした。責任をはたさない新しい王様に怒った家来や国民たちがお城につめかけたのです。
皆が男をかこんで、怒って棒でたたきます。やめろと言っても誰も聞いてくれません。欲しい物にしか魔法は効かないのです。
とうとう男はたたき殺されてしまいました。
死んだ男の魂は地獄で悪魔のものになり、永遠に酷い意地悪をされる事が決まりました。
おしまい。
◆◇◆◇◆◇◆
「え……怖い。訓話系なんだと思うけど……えー、怖いな。あと花嫁さんがめちゃくちゃ可哀相……いや、王様もなんだけど花嫁さん可哀相……」
「いきなり天使と悪魔が訪問してくんの笑うし、基本攻撃が棒で叩くなのが面白過ぎる。王様しか首斬られてねえじゃん……!」
「わはは! 童話とはそういうものだからな!」
「いやあ、けど、面白かった。これは明日が楽しみだね」
「明日からの順番どうする?」
「そうだな、来た順でどうでしょう?」
「となると明日はガンさんか」
「それのが分かりやすいか。良いよ」
それから、おやすみと言い合って三人は眠りについた。
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明日から日曜までは一日二話ずつアップしていきます。




