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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第一部 村完成編

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11 麦補と書

 たった一本の麦の穂だった。よく実り、刈り取ったばかりのように青葉も残って艶々としている。


「ケンさん……倉庫って、時間が止まるの……!?」


 ページと麦の穂が落ちた書物は、粗末な作りの物だった。ケンがまだ貧しい小国の王だった頃に編纂されたのだと窺える。そう、粗末なだけだ。千年を生きるケンの初期の持ち物にしてはまったく劣化が見られない。


「ん? ああ、そうだな。時間は止まっていると思う。死体や生菓子を入れた時でも腐敗や変化は無かったな」

「戦をしていたなら死体くらい入れるだろうけど生菓子より先に挙げるのはどうかと思うとか言ってる場合じゃないんだケンさん! …………うわぁ、うわぁ……!」

 

「時間止まるのは便利だなァ。つかリョウはどうしちまったんだ?」

「ガンさん! 小麦だよ! 小麦……!」

「分からんし分からん」

「とても美味しい物の素になる植物です……!」

「おお、分からんけど良いもん出て来たな!」


 震える手で麦の穂を拾って見詰めていると、落ちたページを拾って目を通したケンが歩み寄る。


「これは俺の故郷の麦だな。新しい技法を生み出した時や、良い実りを得た時に、口々に皆が報告や作物を見せに来てくれていたから。その時に紛れ込んだのだと思う。懐かしいなあ」


 河原で“大切”を思い出した時の、穏やかで静かな笑顔だ。


「ケンさんの大切な時代の物だよね。……これ、種籾を取れば植えられると思う。少ししか無いから、失敗出来ないし、慎重にしないとだけど」

「おお、もし出来たならそれは嬉しいな……!」

「何だ、大事なもんだったのか。叩いて悪かったな」


 ガンがケンではなく書物の方に謝っている。


「ガンさん……ケンさんにも何か……! 小麦は勿論下着もそうだし他にも色々凄いものばかりだよ……! 倉庫だって食料を保存しておけるし……! ケンさん頑張ったよ……! ケンさんにも何か……!」

「ええ……?」

「うむ! 怒られるのも良いが、他の何かをくれても良いのだぞ!」


 扱いが切なくて思わず懇願する。ケンが期待に目を輝かせ、欲しがりの顔でガンに寄っていく。


「良いのだぞ!」

「詰め寄るなバカ!」

「ガンさん僕からもお願いします……!」

「ガンさん俺からもお願いします……!」

「何だそのコンビネーション腹立つな……! 分かったよ!」


 圧されたガンが白旗をあげ、何ともいえない顔でケンの肩を労うように叩く。


「ああ、ええ……何か、でかした。よくやった。許してやる……」

「やったー!」

「良かったねえケンさん! 良かったねえ!」

「おまえら本当何なの!?」


 呆れ果てた顔でガンがケンから外れたページを奪い取り、元に戻す。それからぱらぱらとページを捲り、眉間に皺を寄せた。


「……まあ、時間は掛かるが解読くらい出来るだろ。ケンが寝ちまうなら、おれが読んでやる」

「えっ」

「ガンさんが読み聞かせをしてくれる……?」

「違えよ! 言語を解読しておれが読むの! お・れ・が!」

「何だ」

「ケンさんそこは解読出来る事に驚く所じゃない? 読み聞かせして欲しかったの?」

「おまえらいい加減にしろ」

「どうして僕まで」


 何冊かの本をガンが拾って脇に抱える。二人を振り返り、トントンと指先が頭を示す。


「おれが射撃を外さねえのは、この頭が演算と解析をしてくれてんだ。そういう風に出来ている。だから、こんだけ資料がありゃ解読くらいできるだろッつう事。ひとまずおれはこんだけで良いや。後はリョウが選別してくれ。」

「成程、僕が来るまで食料も解析してたって言ってたもんな」

「おお、それは助かるな! 母国語だから分からない所があれば遠慮なく聞いて欲しい!」

「おまえが読めば早い話なんですけどね!?」

「俺は沢山の文字を見ると寝てしまうから!」

「まあまあ……!」


 二人を仲裁し、改めて出された倉庫の中身に向き直る。ほとんどが豪華過ぎる事を除けば、今の暮らしには役立つお宝ばかりだ。そわそわと選別を始める。


「じゃあ僕はそうだな……何だか豪華過ぎて使うのが勿体ない気もするんだけど……」

「どうせ忘れていた物だ。好きに選んで構わないし好きに使ってくれて良いぞ!」

「本当に? 本当にどんな使い方しても良い?」

「ああ、良いとも!」

「じゃあ、じゃあ……ひとまずこれとこれと……ああ、どうしよう、けど欲しい……! あとこれを……!」


 ケンが昔使っていただろう鉄の丸盾とケトルハット――鉄製の帽子状の兜だ、を抱え。後は悩んだ末に黄金の水差しを取る。

 

「それで良いのか? 盾や兜なんかもっと良い物があるだろうに」

「いや、これは鍋として使うので……」

「おお、成程……!」

「本当はあの琺瑯の洗面器も鍋代わりにすごく良いなと思うんだけど、流石に絵付けが綺麗過ぎて、あれを使うのはもっとちゃんと家を建てて素敵な竃を作ってからかなって……!」

「鍋の事しか考えてねえ」

 

「いや、金の皿やゴブレットも気になるんだよ。あの美術品ぽい大瓶も気になるんだよ。けど今だと地面や石の上に置く事になるでしょう? ちゃんとした家を作ってからじゃないと冒涜になるような気がしてしまって。この水差しは断腸の思いで選びました」

「おまえのその高そうなもんに対するへりくだり何なの?」

「ガンさん! 更新不要の最強伝説装備を得るまで勇者は装備更新の金銭やりくりで苦しむものなんです! この水差しだけで5回は装備更新出来ちゃうんだよ!?  なので暫く二人には葉っぱと竹の食器で我慢して貰いますいいですね!?」

「お、おう……」

「心得た!」

 

 ともあれ倉庫の確認も終わったので、残りはしまっておく事にした。麦の穂もいつか適した土地が見付かるまで大切に保管しておくことにする。


「さて、午後は何するかね」


 空を見上げればちょうど太陽が天辺を周った位。

 今の所雨も大丈夫そうだ。きまぐれらしいのですぐ変わるかもしれないが。


「そうだな、じゃあ俺はこの作業場も舗装出来る所はしてしまおうかな。村を作るにしても、暫く此処を拠点にするんだろう?」

「だね、土地を探すにも作業に専念するにも整えておいた方が良いかも」

「成程。んじゃおれはリョウの手伝いしよう。何でも言いな」


「ガンさん本の解読はいいの?」

「今すぐ必要って訳じゃなし、おいおいで良いだろ」

「オッケー、じゃあ夕飯用の獲物だけ獲って来て貰おうかな。後は一緒に覚えながら作業しよう」


 分担を決め、三人は午後の活動を開始した。

 拠点の地面を更に整え、食卓や他の作業用に屋根付きの小屋を増やし、獲物を狩り肉の処理をし、薪や野草を集めてまた夕食の準備を――等々やる事は尽きない。常人の何倍も早いとはいえやる事は山積みだった。

 だがそれもひとつひとつ楽しみながら、時間は過ぎていく。

 気付けば日も傾き夜が訪れようとしていた。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

励みになりますので、評価やブックマークを頂けたら幸いです。


本日はあと一話アップ予定です。

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