09 情報
てな感じの普段通りな日常はさておき、
まずはアンチさんの仕入れてきた情報ですよ。
『逃亡した元勇者たちが、野放しになっているらしい』
エルサニアとクルゼスが停戦状態となった当時、
前戦にいた軍も、ある程度の駐留部隊を残して王都に引き上げて来ました。
エルサニア王都は凱旋式典やら慰労パーティーやらで、お疲れさまムード一色だったそうで。
まあ、平和バンザイですな。
ただ、それを喜んでる人ばかりじゃなかった。
ハルシェリカ女王からぽんぽこ召喚されまくった勇者たちの、極一部。
戦争終わったからって元の世界に戻れるわけじゃないし、
勝手に呼び出して戦争に放り込んでおきながら、
今さらお疲れさまなんて言われても困るんだよっ。
てな感じでかなりキレたらしくて。
流石に、短気を起こして王都で暴れるバカは、そんなにはいなかったようです。
何せエルサニア王都はライクァ王のお膝元。
ライクァ将軍の人外無双な強さは、前戦にいた人なら骨身に染みているそうですから。
で、不満を持ったまま燻っていた一部の勇者たちが、王都を抜け出して各所に散っていったのだとか。
戦争で活躍させるための召喚で、めっちゃスゴいスキルを授かって、
がっつり戦闘訓練されて前戦で活躍してきた勇者たちが、
不満を持った状態であちこちに野放し。
あー、マズいなんてもんじゃ無いよね、それ。
ただ、本来なんとかせにゃならん立場のエルサニア側は、
ライクァ王の号令の元、足並み揃えて再戦モード、
逃げ出した勇者くずれどもに関わってる場合じゃ無い、と。
ふむ、"低職"組の在野召喚者だけじゃなく、本家の"勇者"組にも問題発生中ですか。
蹴落とされた迷惑女王の呪いですかね、こりゃ。
まあ俺たちは、マーリエラさんの任務『召喚者を狙う組織的犯罪への対処』の方をメインにして行動しましょう。
正直、俺としては、いまさら勇者連中には関わりたくないですし。
いや、流石に勇者たち全員が俺を小馬鹿にしてたわけじゃないけどさ、
やっぱり手助けすべきは"低職処分"や"下職制度"で苦労してきた在野の召喚者の方じゃないかなって。
……心が狭いですかね、俺。
「私が今回の任務を断らなかった理由は、ふたつあります」
マーリエラさん?
「"低職処分"を受けて各地で暮らしている召喚者さんたちが襲われているということは、つまりはノアルさんご自身に関係する事案そのもの」
「襲われる危険性を放置するなんて、私には耐えられません」
「ならば、この街で受け身で待っているよりも、積極的に行動して確実に災いの根を断つべきかと」
マーリエラさん……
「それともうひとつ」
「今回の件で巡回司法省の対応が遅れがちなのは、残念なことに司法省内部に問題があることも一因なのです」
おっと、もしかして内部監査案件ですか。
「いいえ、今回の件での、司法省上層部の足並みの乱れ、です……」