13 アネス
無事にアネスに到着。
ここはエルサニア王都から北方のリグラルト王国へと延びる街道沿いにある、小さな町。
なんと言いますか、うわついたところの無い普通の町ですね。
宿場町って言うのかな、普段の暮らしの中に街道を通る旅人たちへのおもてなし精神が根付いているような優しい雰囲気の町。
俺としては、派手な観光地よりもこういうところの方が好み。
『美味しい名物とか、あるかな』
あー、どうだろ。
街道沿いの宿場町ちっくなところだし、みやげ物屋さんにいろいろあるかも。
ちなみに、マーリエラ先生にはそっち方面の情報とかもあります?
「エルサニア大森林近辺の町や村では、あの森に生息している魔うさぎ系の魔物を使った保存食が有名ですね」
「干し肉や燻製肉とは異なる、旨味を封じ込めたまま長期保存可能な独特の製法で作られた美味しい携帯食、だそうですよ」
ほほう、まさに"うさぎ美味しかの山"ってやつですな。
なんだか、お父さんをパイにされた例のうさぎを思い出しちゃって、
魔うさぎ狩りする際にいろいろ考えちゃいそうだよ……
「"耳削ぎ"や"腱切り"、"罠抜け"や"脱兎さん"など、習性・行動による細かい分類が成されているのが魔うさぎの特色」
「多種多様なそれを見た目だけで瞬時に判断するのは、ベテランの狩人でも難しいそうです」
「素早さも賢さも決して油断出来ない小さいながらも手強い魔物、所詮うさぎと侮る冒険者ほど痛い目を見るとか」
「くれぐれも、油断は禁物ですよ」
えーと、ここに来たのは魔うさぎハンター修行のため、じゃなかったはず……
「ノアルさんは無理に頑張らなくとも、私の魔うさぎ料理を美味しそうに舌つづみしてくれるだけで良いのですよ」
『それが適材適所ってことだよねっ』
俺、また泣きそう……
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今日の宿は確保出来たので、例の"低職"召喚者さんに会いに行くことに。
えーと、サラミさん、だっけ。
こっちの世界って姓と名の区別があやふやだから、登録情報だけだとどっちなのか分からんのですよ。
名字が"皿見"さんなのか、それとも名前が"沙羅美"さんなのか。
そのものズバリ、カタカナで"サラミ"さんってこともあるかも。
こういうのって本人には聞き辛いんだよね。
あっちの世界でもいろいろあったけど、名前にコンプレックス抱えてる人って、結構多いと思う。
俺の外岸 乃或 (トキシ ノアル)も、
あっちにいた頃はネタにされることが多かったし。
子供には変な苦労させないよう、真面目に考え抜いた名前を授けなきゃ。
派手過ぎず地味過ぎず、
イジられ要素は極力排除して、
歴史に名を刻むような人物になっても後世の人たちからネタキャラ扱いされないような……
『そういうのって、ちゃんと家族で相談した方がいいと思うよ』
うん、やっぱそうだよね、
俺にはこっちの世界での地雷ネームなんて分からんし。
ちゃんとみんなで相談して、
って、もしかして俺、声に出してた?
『全部聞こえてた!』
『マーリエラさんも一所懸命に考えてるみたいだよ』
「…………ノアリエラちゃん…………」
何だか申し訳ございません……




