12 家族
久しぶりの長旅ですが、ここまでとても順調。
なのですが、マーリエラさんの表情の堅さが気になります。
久しぶりの特務司法官としての任務ってだけじゃなく、
家族を守るための旅でもあるからだろうけど。
でも、もうちょっとだけ、肩の力を抜いてほしいな。
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「今回の件への各組織の対応は、残念ながら充分とは言えないものです」
「巡回司法省が捜査に充てた人員は、私のように志願した司法官のみ」
「司法省からの支援も、かなり限られたものとなっております」
「エルサニア王国側からは、リストアップされた対象者の名簿以外は、一切の支援はありません」
「今の私たちに出来ることは、他の司法官との連絡を密にしながら、名簿の足取りを追うことくらい」
「襲撃者との遭遇時の対応こそ現場に一任されておりますが、多勢に無勢な荒事とならないよう祈るのみです」
「在野の召喚者さんたちへのエルサニア王国の対応も、決して充分なものではありません」
「"下職制度"された方々には、同行している護衛騎士への注意喚起の通達のみ」
「"低職処分"の方たちは、そもそも現在の居住地すら把握出来ていない場合も多く、提供された名簿の情報を元に足取りを辿るくらいしか出来ないのが歯がゆいです……」
……やっぱり、どう考えても不思議ですよね。
大元のエルサニアが持ってる情報ですらその程度なのに、
襲撃者側が持っている情報が詳しすぎると思いません?
"低職"召喚者たちの今現在の正確な居場所なんて、どうやって知ったんだろ?
『単純な範囲型の『探索』能力じゃなくて、距離を無視して個人の居場所を特定できるタイプの能力かも』
『おじさまの昔の知り合いに、そういう人いなかったの?』
悪いけど、全く覚えが無いな。
訓練生してた頃は、他の召喚者たちとほとんど付き合いが無かったし。
お城の人たちも、俺なんかに構ってるヒマ無さそうだったし。
『……えーと、なんかごめんね』
『今はいっぱい甘えてね』
ちょっと、アンチさん。
ぼっちを慰めるようなセリフは結構悲しいんですけど。
あの頃の俺は、ほら、孤高の一匹狼だったから。
「大丈夫ですよ、今のノアルさんはひとりではありません」
「家族に甘えるのも、恥ずかしいことではありませんよ」
恥ずかしくは無いですけど、いろんな意味で泣きたくなっちゃうよ……
えーと、話しを戻しますよ。
今、向かっているアネスの町に、襲撃被害にあった"低職"召喚者がいるんですよね。
「はい、ご自宅で襲撃の被害に遭われたのに、何故か町から離れようとしないそうです」
「その方以外にも、通達を受け取った召喚者の方々がエルサニア王都への避難勧告に応じないケースが多いのだとか」
あー、何となく気持ちが分かるかも。
いらない子扱いされたエルサニア王都に、今さら戻りたくないっていう気持ち。
せっかく見つけた自分の居場所からは、絶対に離れたくないでしょうし。
「……私たちも、早くアルセリアに帰れるよう、頑張りましょうね」
駄目ですよ、マーリエラさん。
またおっさんを泣かせるようなこと言っちゃ。
『いいよね、安心して泣ける胸があるらぶらぶな夫婦って』
『マーリエラさんも、ちゃんとおっきくなったもんね、あの頃より』
おっと、これってお仕置き案件ですよね、マーリエラさん。
いかに家族とはいえ、いや、家族だからこそ、失言ハードルは越えないよう留意すべきかと。
「そうですね、長旅の際に特に大切なのは、相手を気遣う思いやり」
「アンチさんは今晩の夜営ではデザート抜き、です」
『……ごめんなさい』




