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第三話

「まぁ、こんなところにポセンチアがたくさん咲いているわ!」


 エンリコが心配しているのも露知らず、ミレイユは礼拝堂近くにある花畑でジルダの好きなポセンチアを摘んでいた。


 聖女になれないのなら、今の自分に出来ることでジルダとのギクシャクした仲違いを少しでも解消したいと、彼女なりに行動しようとしたからだ。


 屋敷に帰宅したミレイユが摘んできた赤いポセンチアをジルダに手渡すと「まぁ綺麗ね……わざわざありがとう」と微笑んで喜んだ。


 柔らかく穏やかな顔で花束を眺めるジルダを見て、ホッと安堵の吐息を漏らすミレイユ。

 側でそのやり取りを傍観していたエンリコも『危惧していたことは取り越し苦労になるかも知れない』と胸を撫で下ろすように安心していた――。


 ところがそれから半日経った頃。


 廊下を歩いていたエンリコが何気なく視線を送った中庭で、ある異変を発見する。


 ミレイユがジルダに贈ったはずの花束が、見るも無惨な状態で捨てられていたのだ。


「まさか……」


 そう思わずポツリと呟いたあと、走ってミレイユの部屋へ向かい扉を叩く。


「ミレイユ様、ご無事ですか!? ミレイユ様!?」


 カチャ――と扉が開いた先には、いつもより遥かに美しい姿となったミレイユが、怪訝な表情を浮かべて立っていた。


「ミ、ミレイユ様……そのお姿は……?」


 余りの美貌に面食らっていたエンリコに「ど、どうしたの!?」とミレイユが目を丸くして尋ねたが、彼の脳裏では“予想外なことが起きたのでは“と過っていた。


 急いでジルダの元へ向かったエンリコが、ベッドの上で横たわる彼女の姿を見た瞬間――衝撃で背筋が凍りついた。


 ジルダの肌が樹齢百年もある樹のように萎れ、全身も干からびたように骨と皮だけになって痩せ細っているではないか。


「……う……エン……リコ?」


 掠れた声のジルダが血走る目をして、カタカタと震える手を伸ばしてきた。これはまさに、突如として呪われたかのような姿。


 目を疑う光景に絶句したエンリコだが、ジルダの手から一歩退きながらも、冷静に何が起きたのかを推察することができた。


 この人は私の()()に気付かないで、本当にあの呪術を発動したのか……。


 そう――ミレイユに『老衰の呪術』をかけようと試みたジルダは、逸る気持ちからエンリコが書物に施した“罠“に気付かず、己に呪術を執行してしまったのだ。


 老衰の呪術は魔術の心得があるエンリコから見ても難解であり、その効果は『対象者から美貌と寿命を奪い取る』という悍ましいもの。


 エンリコは“ジルダ様にこれを発動させるのは無理だろう“と高を括っていた。


 しかし、ミレイユを憂う想いから万が一の保険として、術者と対象者の効果が“逆転“するように術式の一部を書き換え、その書物をジルダへ手渡していたのだ。


 私としたことが悪戯が過ぎてしまった。早く対処しなければ間に合わなくなる……!


「ジルダ様をすぐに病院へ運ぶんだ!!」


 エンリコや他の従者達によって、ジルダはすぐさま馬車に担ぎ込まれて病院へと運び込まれた。


 しかし、医師から固い表情で『現在の医療技術では解明できない謎の難病だ』と、首を横に振られてしまう。


 ひたすら書物を端から端まで読み漁っても、呪術を解除する術式など載っていない。ベッドに眠るジルダの横で項垂れたエンリコは、自らの行いを後悔していた。


 だが、そんな悲壮感が暗く漂う病室に……ミレイユの姿はなかった――。

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