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家に帰りシャワーを浴びて髪を乾かしているとスマホが鳴った。
画面を見るとmisatoからだった。
「松永です。連絡先知りたかったけど言うの恥ずかしかったのでメモで渡しました。迷惑でしたか?」
「そんなことないよ。こちらこそ連絡先教えてくれてありがとう。」
返信を送るとすぐに既読が付き可愛いウサギのスタンプが送られてきた。
俺もスタンプを送り返し画面を閉じようとしたときにアプリのニュース画面が目に入った。
【日本の至宝!ヨーロッパでプロ契約!天才16歳!】
俺は眩暈と動悸が激しくなったがゆっくりと深呼吸をしてベッドに寝転んだ。
俺はもう頑張らくて良いんだ。いや、頑張れないんだ。
あれから気づいたら寝ていたようで、いつも起きる時間より1時間近く早起きをしていた。
やることも無いので部屋の掃除や溜まった洗濯物の洗濯、いつも食べない朝ご飯を準備していると松永さんから連絡がきた。
「おはようございます。よかったら駅から一緒に学校行きませんか?」
俺は朝から一緒に登校しているところを見られたら入学早々変な噂にでもなって迷惑をかけるのではないかと思ったが断わるのも失礼な気がして「了解」と返信をした。
俺は松永さんを待たせるのも悪いと思ったため待ち合わせの15分前に改札につくように家を出たが、すでに松永さんは待ち合わせ場所にいた。
春の風になびく髪の隙間から見える大きな瞳や真っ白なうなじに見惚れて声をかけるのが遅れると松永さんから挨拶をされた。
「おはようございます。、、、いきなり迷惑でしたか?」
「おはよう。全然迷惑じゃないよ。というか待たせちゃった?」
「わたしも今来たところです。迷惑じゃなかったみたいでよかった、、。連絡先の追加もありがとうございました。」
「こちらこそありがとう。じゃあ、学校行こうか。」
俺はそう言うと松永さんと並んで歩き始めた。
学校まで来ると、まだ時間が早い為か各部活動が各々練習をしていた。
「うちの学校って部活動もすごいんでしたよね?」
「俺もあんまり知らないけどそうみたいだな。」
「中でもやっぱりサッカー部がすごいみたいで学校の中でも一番人気のある部活みたいですよ?」
「そうなんだな。あんまり俺スポーツ詳しくないからその辺全然知らないで入学した。」
「渡会君、背も大きいし体つきもしっかりしているからてっきり中学まで運動部に入っていたのかと思いました。」
「、、、部活には入ってなかったよ。」
「そうなんですか。なんだかもったいないですね。」
俺は自分の表情が変わっていないか少し心配だったが松永さんが気づいていなかったためうまくやり過ごせたのだと思いほっとした。
「わたしロッカーあっちなんでちょっと待っててください。」
そう言うと松永さんは小走りで自分のロッカーの方に向かって行った。
俺も自分のロッカーに靴を入れようとしていると後ろから声をかけられた。
「渡会湊。この学校に一般入学していたのは本当だったんだね。」
俺は顔を見ていないが声だけでなんとなく誰が声をかけてきたのかが分かった。
「楓馬さん。お久しぶりです。」
「渡会、やっぱりあの噂は本当だったんだな。」
「なんか俺噂になってました?」
「年代別日本代表キャプテン。アジアMVPプレーヤーがサッカーを辞めたってな。」
俺はロッカーに荷物を入れ終わると上靴に履き替えた。
「もう俺は何でもないただの高校生です。これ以上声をかけてこないでください。」
そう言い残すと俺は松永さんが走っていった方向に歩き出した。
「何があったか知らないがお前はサッカーをするべきだ。」
楓馬、俺はサッカーをやる意味を失った。サッカーを頑張る理由がなくなったんだ。
「、、、、渡会君。なにかありましたか?」
「いや、何もないよ。」
松永さんと合流すると、松永さんは開口一番で聞いてきた。
流石に顔に出てしまっていたみたいだ。
「、、何もないなら良いんですけど。新学期で環境変わるとストレス知らないところで感じてますからあまり無理しないでくださいね?」
「、、、ありがとう。」
松永さんは心配そうな、それでも元気づけるためか微笑むと「今日は何の授業があるんでしたっけね。」と言いながら俺の前を歩き始めた。
やはり今日も松永さんは紅茶の香りがした。