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additional time  作者: エルキングダム
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 「ピーピーピー」

枕もとで少し大き目な音で設定しておいた目覚まし時計が騒ぎ出した。

「こんなに早起きしたのいつぶりだ、、」

俺はだるいからだを無理やり起こし顔を洗いに洗面台へ向かった。

今日から高校生活が始まる。そして、今までとは「全く変わった生活」を送ることとなる。

俺は昨日の内に準備しておいた荷物に目を向ける。

「荷物が少なくて助かるな。」

大量の着替えもスパイクもボトルも持って行かなくていいのだ。もう、何も頑張らなくていいのだ。


 俺は春から「私立明桜学園」に通う。一応この辺りで一番の進学校らしい。家から学校までは電車で20分くらいで通学時間としては割と近めと言えるだろう。

昨日入学式を終えて、教室やクラスなどは発表されているため今日は教室に向かえば良いことになっている。

「えっと、1-Cは、、、」

教室を探していると肩に衝撃が走った。

「あっ、、ごめんなさい、、!」

「俺は大丈夫だけど、そっちは大丈夫か?」

「大丈夫です!急いでいるので!!失礼します!」

そう言うと、腰まである黒髪を揺らしながら走り去っていった。

「なんだったんだ、、」

随分と急いでいたため時間を確認したがまだ始業には余裕がある。俺は気を取り直して自分のクラス探しに集中することにした。

 やっとの思いで自分のクラスにたどり着いた。

この学園は中等部も同じ敷地内に併設されているため無駄に広い。昨日の入学式は別のホールで行っていたためしっかりとこの学園を歩いたのは今日が初めてであり、噂通りの敷地面積にただただ驚いてた。

教室に入ると前の黒板に座席表が貼ってあった。

俺は一番後ろの窓際から座席表を確認した。そしてすぐに見つけることができた。

渡会(ワタライ)だから新学期は大体この席からスタートする。

俺は自分の席に座ると窓の外を見た。流石に10階建ての8階ともなると景色も良い。

窓の外を眺めていると隣の席に人の気配がした。

「あの、、、」

隣から消えそうなくらい小さい声で呼びかけられた気がしたため、横を見ると今朝衝突した女子生徒だった。

「今朝はぶつかったのにちゃんと謝れなくてごめんなさい。私、松永美里って言います。よろしく、、です、。」

「朝のことは全然大丈夫。俺は渡会湊。よろしくね。」

軽く挨拶を交わすと松永さんは席にバックを置いて足早に教室から出て行ってしまった。

「俺、なんか怖がられてる、、のか、、?」

考えていると松永さんが走り去った場所から紅茶のような落ち着く香りがした。

何だかとても懐かしく心が落ち着く香りだった。

 始業時間になり教室には担任が入ってきた。

「今日から君たちの担任をすることになった樺沢静だ。よろしくな。」

担任は30代前半くらいの女性だった。女性にしては背が高くショートカットではきはきと話しているため、「かっこいい女性」といった印象だ。顔立ちもはっきりしていて美人だと思う。その証拠に前の席にいた男子が騒いでいた。あと、同じくらい女子も騒いでいた。

「今日の君たちの予定は、これから多目的ホールAにて新入生歓迎会が開かれる。先輩たちからの挨拶と部活動紹介だ。なお我が校の強化指定クラブに指定されている、男女サッカー部、男女バスケ部、陸上部、男女柔道部、男女剣道部、男子テニス部は一応紹介はされるが一般入部は出来ないため注意するように。では移動開始してくれ。」

そう言うと生徒たちがしゃべりながら移動を開始した。

「あの、、渡会君。良かったらで良いんだけど、、、一緒に移動してくれると助かります、、」

「あの、、渡会、君?」

「ん!ごめんごめん。考え事してた。俺でよかったら一緒に移動しよっか。」

そう言うと、松永さんは顔を赤くして俯きながら「ありがとう。」とつぶやいた。

 多目的ホールAまでは意外と距離がある。松永さんは少し後ろを俯きながら歩いていた。

「そう言えば松永さんはなんで今日あんなに急いでたの?」

「えっと、、ちょっと言うの恥ずかしいんですけど、、じつは、、」

松永さんは顔を赤くしながら何か聞き取れない声でつぶやいた。

「ごめん、聞こえなかった。」

「あの。だから、、お手洗い探していて、、」

「あ、、そうだったの。この学校広いもんね!聞いちゃってごめん。」

「、、、大丈夫です。」

そう言うと更に松永さんは顔を赤くしながら俯いてしまった。

 「ふー。やっと多目的ホールついたね。」

「そうですね。」

あの会話から若干気まずくなりかけたが何とか会話してここまでたどり着いた。

「1-Cはこっちだ。座席順に端から椅子に座ってくれ。」

樺沢先生が案内しているところに行くと半数の生徒が席についていた。

「こんなにおっきいホールあるんですね。」

「俺も驚いた。座席数もいくつあるんだろうな。」

ホールは二階席までついており、ステージを囲んでいた。

「渡会君は部活何か入るんですか?」

「俺は入らないよ。松永さんは?」

「私は、、決め手ないです、。」

「そっか。」

そう言うと照明が落ちステージ上が光で照らされた。

「新入生の皆様。初めまして。生徒会長の楓馬俊です。ご入学おめでとうございます。」

生徒会長が挨拶をすると方々から黄色い声援が飛んでいた。

「渡会くん、あの人すごい人気ですね、、。」

隣の松永さんが耳もとに話しかけてきた。

「楓馬俊、世代別のサッカー日本代表だよ。185㎝もあっておまけにさわやかイケメンだからな。人気あるだろう。」

「渡会くん詳しいんですね、、、。」

「、、たまたま知ってただけだよ。」

そうですか。とつぶやきながら松永さんは寄せていたからだを元の位置に戻した。

更に松永さんが近くにいたからか、紅茶の香りが強く感じられた。

「では新入生の皆様、こちらをご覧ください。」

生徒会長がそう言うと、ステージの照明が落ち暗闇になった。

去年の全国高校サッカー選手権の映像、ウィンターカップの映像、甲子園の映像、それぞれの強化指定クラブの映像が次々と流れ出した。

俺は映像が流れ始めると同時に目を閉じ、それから一度も歓迎会が終わるまで目を空けることは無かった。




 

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