6. 毒
この日、生徒はみんながジャージ姿だった。ジャージの色は学年ごとにちがっていて、卒業した六年生の色が新一年生に割り当てられる。わたしたちの学年は小豆色で、地味でダサいと女子の間では不評であった。
登校の間はダサいジャージで外を歩くということに抵抗があった。教室につくと同じ色で埋め尽くされるので気にもならなくなる。みんな同じということはなんて楽なことだろう。ずっと制服でいい中学生がうらやましかった。
午後になると生徒達が校庭に整列する。今日の行事は清掃ボランティアだ。学区内のゴミ拾いをする。
担任の声を合図に、それぞれのクラスに割り当てられた場所に出発した。
クラスメイトたちの表情は二種類だった。とにかくめんどうくさいといううんざり顔と、つまらない授業にでなくてラッキーという上機嫌な顔。
現場につくと班ごとに別れて作業を始めた。わたしの班は男子と女子が二人づつだった。
「ほんと面倒だなぁ」
「そうだね、なんでわたしたちが、って思うよね」
同じ班の女子と会話していると、そばで作業していた男子もうんざりした顔をしていた。どうやらこの班はめんどうだという人間のあつまりらしい。わたしも話をあわせる。
「少しゴミ拾ったらあとは適当にしてよっか」
「入江さん、意外とワルだね~」
彼女らとは普段からそんなに親しくもない。だけど仲良くしたくないという顔をするわけにもいかないので、それをお互いに前提にしながら当たり障りのない会話で場をつないだ。
作業時間も進みどの班もゴミ袋が膨らんでいた。そろそろ終わりかとみんなが時間を気にしだした頃、先生の様子がおかしいことに気がつく。
「誰か、波濤を知らないか?」
担任の先生が声を張り上げていた。その近くにはきまずそうに立つ三人の生徒がいた。たしか波濤シブキと同じ班だったはず。
みんなが互いに目配せをして、それから薄い笑いを浮かべる。またか、と。
それからゴミ拾いの作業は波濤シブキを探す作業に変わった。先生はスマホで連絡をとり、いらだった声で通話していた。
クラスメイトたちはまともに探すつもりなんてなく、適当にあたりを探すふりをする。
―――あいつの兄ちゃんって―――
―――ばっか、ちげえよ。首吊りだって―――
男子達がにやにやしながら囁き合っていた。さっきまではゲームの話を大きな声で話していたのに。
漏れ聞こえてくる声からは波濤シブキの名前が聞こえてきた。
いきなりなんだろうと周囲の様子をみた。同じ班の女子がちらりとこちらを見ると意味ありげに笑った。知りたいかとその視線で訊いてきたので頷いてみせた。
「あの子のお兄さんが死んだってことは知ってる?」
「そうなの……。何かの事故とか」
「それがさ、あの子のお兄さんは自殺だったらしいんだ。それも、自分でさ……毒を飲んだんだって」
「えっ……」
驚くわたしに気をよくしたようにさらに得意気に語っていく。
「わたしの家が近所でさ、救急車とかパトカーとか来てすごかったんだから。お兄さんを最初に見つけたのもあいつらしくて、そのせいで頭がおかしくなったんだって。みんながいってるよ」
吹いてきた風が冷たかった。わたしはゆっくりと伸びをして強張った体をほぐす。
「そっか……うん、面白い話をありがとう」
そういって、笑ってみせた。
それから少ししてから波濤シブキは見つかった。いったいどこに潜り込んだのか、小豆色のジャージはところどころ泥で汚れ髪には葉っぱがついていた。
担任の先生から説教されていたが、なぜかこちらをじっと見てきた。目が合うといたずらが見つかった子供みたいに笑ってきた。
そのせいでさらに怒られることになるけれど、まるで気にしていないようだった。