やる事無いから只管戦い続けた話
一般通過不死者がただ殺し続けた果て
その使命は地獄だった。
その道標は死体で出来ている。
どれほど進もうとも終わりは見えず、陳腐な破滅を淡々と始末していく。
始めはどこかに救いがあるものだと考えていたが、それもすぐ消えた。
到着するのはいつも世界を救わんとした者達が無残な死を遂げた後。
そこにまともなモノはどこにも無い。イカレた悪かどうしようもない不運の生け贄を殺すだけ。
嘆きの底で騎士はただ無心で武器を振るい、魔術を唱え、奇跡を乱暴に扱った。
その心中はもはや戦いにしか向けられていない。
別段彼は罪深い存在という訳でもない、ただ運が無かっただけなのだ。
――灰の殺戮者・その末路について、序章――
狂気山脈地下祭壇
邪教の生け贄にされ、邪神の依り代になった少女が居た。
それを助けようと奮闘した勇気ある冒険者の男女数名が邪教の本拠地を突き止め、儀式を止めようとした。
"少し遅かった"ただそれだけだ。
結果は既に出ている、家族の様に親身になって暮らしていたパーティを自分の手で殺めた少女は狂った。
泣きながら発狂し甲高い声を上げて自分の中に邪悪なものが流れ込んでくるのをただ拒絶もせず涙している。
「せめて同じところに送ってやろう」
先ほどまで死体と少女しかいなかった祭壇に、いつの間にか騎士の鎧兜と群青色のマントを纏った男が立っていた。
大切な人達を失って既に邪神に抗う気を失っている少女は、
邪神の思うままに動き暗黒のオーラを放ちつつ大魔術や巨大な武器を空中から出現させ男を襲う。
それらを男は走り抜けながら全てを交わし、直剣で弾き前進する。
魔術の砲弾が避けられれば背後で壁にぶつかって盛大に振動を起こしつつ炸裂し、飛んできた巨大な斧や槍は弾かれると同時に地面に深く突き刺さり亀裂を作る。
尋常な瞬発力と技量、筋力では出来ない技だ。
――彼我の距離後三歩
遂には地面から巨大な槍を×字に突きださせ串刺しにしようとしたが、逆に足場にされ更に加速される。
――後二歩
瞬間詠唱で仕込まれた炎の壁が男の目の前に現れる。
余りの熱気に地面が一部溶けているが、男は懐からタリスマンを取り出すと喝破。
それだけで炎が散らされて更に距離が縮まった。
――後一歩
少女の周囲に浮かぶ光球が一斉に男に向けて光の矢を放つ。
男は更に踏み込むと着弾の一瞬、姿を消してまた現れた。勿論通り過ぎた光の矢は周囲に着弾し瓦礫を作る。
――ゼロ歩
瞳に光を失い涙を流して棒立ちする少女に対し、男が直剣を振るうと赤いおさげの少女の首が飛んだ。
すかさず直剣を手放すと、何処からか取り出したハルバートで飛んだ頭部を地面に叩き付けミンチにする。
更には頭部を失い倒れようとしている少女の身体を、またしてもどこからか取り出した身の丈ほどもなる特大剣で叩き潰す。
完全に疑いようもない程殺害された元少女はもう蘇る事が無いように粉砕された。
同時に邪神は降りるべき端末を失って、また封印の彼方へと戻されようとしていく。
「これで一万回目」
「世は事も無し、万事よしか・・・」
誰よりもそんな事信じていないような口振りで男が呟いた。
一話完結の予定なので失踪します。