4 親友夫婦
親友ターン
「よう、涼太」
「こんにちは、涼太さん」
レンタル主夫の仕事を初めて2週間、美澄さんからの名指しの依頼以外にも何件か担当しているが、普通のバイトよりも楽しくやれてるので、今のところ順調と言えるだろう。
そして本日、休日ということもあり、近くの喫茶店で俺は親友の夫婦と会うことになっていた。
「久しぶり、あれ?徹久くんは?」
「両親に任せてるよ。お前の話も聞きたかったしな」
俺と同い年なのに、そうは見えないイケメンな親友、名前は工藤和也。
幼い頃からの幼なじみには簡単に離婚したことは話したが、それでも落ち着くまで待っていてくれたのは流石としか言えないだろう。
「彩乃さんも久しぶり。相変わらず和也とはラブラブみたいだね」
「ふふ、涼太さんのお陰ですよ」
そして、その親友の奥さんである彩乃さんとは、高校の同級生だったのだが、なかなかくっつかない2人のお節介を少し俺がしたのだ。相変わらず夫婦仲は円満らしい。
現在同い年の26歳で男の子が1人いるのだが、俺とは別の意味で若々しいものだ。
俺はただ童顔なだけだが、2人は整っていて若々しいのだから別格だろう。
「徹久くん確か5歳だよね?今度会いたいなぁ」
「いつでも遊びに来てください。歓迎しますから」
「ああ。ただ、その前にあのクソ女のこと聞いてもいいか?」
その言葉に俺は苦笑しながら、元妻とのことを話す。
浮気されて離婚した……そんな説明だが、和也が求めていたのはもっと詳細なことなので、あまり思い出したくないが、顔が浮かばない程度に掻い摘んで話す。
俺の話を聞くと、和也の顔はだんだんと険しくなっていき、彩乃さんは辛そうな表情を浮かべた。
不幸自慢とかではないけど、どこかで俺にも悪い所があったと言って欲しかったのかもしれない。
見る目が無かった……苦しいけど、そう思いたかったのかも。
いや、あるいは、あのまま仮面夫婦を演じて使用人に徹していれば良かったのだとでも言われたかったのかもしれない。
ただ、2人が優しいのは分かっていたから、だから次の反応には少しばかり驚いてしまった。
「あのクソ女……!」
ギリッと歯ぎしりして軽く机を叩く和也。
やり場のない怒りが盛れたように険しい顔をしていた。
「……ごめんなさい、涼太さん。そんなに辛かったのに力になれなくて……」
彩乃さんは涙目になっていた。
本当に優しい親友夫婦に救われた気持ちになりつつも俺は声が震えないように平静を装って言った。
「ううん、むしろ2人に話して少しすっきりしたよ」
「……慰謝料は取れんだよな?」
「うん、まあね」
「あーくそ。嫌な予感はしてんだよな。あのクソ女、俺と会った時も妙に媚びてきてたから」
どうやら、和也的には元妻のことを少し疑ってはいたようだ。
気づけなかった俺はやっぱり見る目がないのだろう。
「んで、仕事は大丈夫なのか?」
「うん、妹が持ってきてくれた仕事があってね」
「家事代行とかか?」
「近いかな?レンタル主夫ってやつ」
「ん?レンタル彼女みたいなもんか?」
「和也、隣見てから言いなよ。奥さん嫉妬してるから」
レンタル彼女という単語で嫉妬している彩乃さん。
冷や汗を流して弁解する親友はなんとも面白いが、少し羨ましくもあった。
子供もいて、夫婦仲も順風満帆。
何もかも失った俺とは対称的だが、それでも親友には幸せでいて欲しいものだ。
「まあ、なんかあったら言えよ?ウチの職場なら紹介できるだろうし」
「徹久も会いたがってますし、私も夫も涼太さんの味方ですから」
「……ありがとう」
結婚生活には恵まれなかったけど、少なくとも親友には恵まれてるみたいだ。
この先、俺が再婚できる気はしないが……心のどこかで2人みたいな幸せを夢みてるのは確かだった。
そんな時に、俺は彼女達と出会うことになる。