1 レンタル主夫になった理由
本作は実際のレンタル主夫とは若干違う感じの作品になる予定です(多分w)
妻に浮気された。
そんな経験を持つ人は現代社会でそう少ないないだろう。
かく言う俺もその一人だ。
バリバリできるキャリアウーマン。
それが俺の嫁だった。
見た目はかなり美人。
ただ、仕事が出来る反面、家事スキルは絶望的だった。
一方の俺は、昔から幼い妹と弟のために家事や子守りを率先してやっていたので、家事スキルだけは高かった。
そんな俺たちは大学で知り合って、彼女の意思で俺は専業主夫に。
しかし、そんな俺の幸せはそう長くは続かなかった。
ある日、帰ってきた妻から男物の香水の匂いがした。
会社の人だろうか?
最初はセクハラでもされたのかと心配もしたが、お風呂に入っている間に妻のスマホに来たメッセージでその疑問は解消された。
男の名前と、共に2人のラブラブなやり取りがそこにはあった。
中には俺に対する愚痴もあった。
『家事しか出来ないヒモを養うのも楽じゃないねー』
確かに俺には家事と料理のスキルしかない。
でも、無駄遣いなど一切してないし、なんなら自分のことに関しては徹底して節制していた。
電気代から始まり、移動だって徒歩か自転車で済ませて、娯楽もお金のかかることは一切しなかった。
子供が出来た時のためと、妻のために貯金していたし、ヒモと呼ばれるほど何もしてない訳じゃないはず。
とはいえ、これが妻の本心なら仕方ない。
悲しいけど、それならお互いのために離婚した方が良さそうだと思ってこのことを話して離婚を切り出した。
のだが……何故か妻は泣いて謝ってすがり付いてくる始末。
『涼太しか居ないの!』
……いや、間男さんも居るよね?
なんて冷静に思いつつも、まだ好意が残ってたせいでなあなあで許してしまった。
それが不味かったのだろう。
それからも何度も何度も浮気する妻。
20回目の浮気が発覚するまでに2年掛からなかったのはある意味凄いと思う。
まあ、妻にしてみれば俺は便利な家政夫なのだろう。
口では、『愛してる』だの、『涼太しか居ないの』とか言いつつ、その愛は普段俺には向けずに他の男に向ける日々。
悲しいことに、この段階でもまだ少し好意が残っていたのは自分でもびっくりだった。
女々しいのだろう。
でも、ある時にその好意は粉々になる。
買い物が終わって家に帰ると、何故か仕事してるはずの妻の靴と知らない男物の靴がそこにはあった。
嫌な予感というのは、当たりやすいのだろう。
夫婦の寝室に行くと、そこには間男と裸で愛し合う妻の姿が。
不思議と心は落ち着いていた。
冷静に証拠となる映像を残すが、この時俺には寝取られの特性はないと知ることが出来た。
悲しいことに、これまで愛おしいと思っていた人が途端に見てて気持ち悪くなる。
思わずトイレで吐いてしまった。
そこからの日々は地獄だった。
浮気の証拠を集めるために夫婦のフリを続ける日々。
弁護士の母親にこのことを相談したら烈火のごとく怒って、すぐに殴り込みそうになったが、それはなんとか妹が抑えてくれた。
その代わり、しっかりと慰謝料を取れるように手配してくれたが、その頃になってストレスのせいか、俺は軽く鬱になってしまった。
不眠に食欲不振、とにかく辛かったけど、我慢してこれまでの俺を演じた。
そして、離婚することになった時に、最初は泣きついていた妻だったが、ある程度過ぎると途端に冷たい表情になって言った。
『あーあ。便利な使用人だったのになぁ』
……分かっていたことだが、キツかった。
『あのさ、慰謝料とか取るようだから言うけど、アンタを選んだのは好きだからとかじゃなくて、便利な使用人だったからよ。浮気しても別れる度胸のない女々しい男だって分かってたからなんだ。子供のための貯金?アンタと子供なんて作りたくないけど〜?』
この時になってようやく、俺は愛されてなかったことはしっかりと分かった。あの笑顔も全部演技だったと。向こうは体のよい使用人程度に考えてて、そこに愛は無かったと。
慰謝料を貰えても、仕事はしないといけない。
離婚してから心配する家族を申し訳なく思いながら就職活動。
とはいえ、この歳まで専業主夫だった俺に都合のいい正社員なんてポジションは難しくて、簡単なバイトの日々。
この頃にうつ病が少し良くなってきた。
どうやら、妻との日々は相当なストレスだったらしい。
薬さえ飲めば普通に生活出来るようになったが、それでも何かちゃんと仕事をしないといけないと思っていた時に、それは起こった。
「お兄ちゃん。レンタル主夫って仕事やってみない?」
高校生の妹が、バイト先の先輩から持ってきた仕事。
「レンタル主夫?」
全く心当たりのない仕事だった。
レンタル彼女とか、レンタル主婦とかなら聞いたことがあったけど似たようなものかな?
「そう、お金はあっても家事が出来ない独り身か既婚でバツイチとかの人のために家事とかをする仕事。今のお兄ちゃんに女の人は辛いかもだけど……」
「いや、大丈夫だよ」
確かに妻のことはまだ引きずっているけど、別に仕事なら恋愛関係になることは無いだろうし、問題ないはず。
むしろ、今までの専業主夫という仕事の経験を生かせるなら是非もない。
「お兄ちゃん、そこそこイケメンだし、家事も子育ても出来るからきっと大丈夫だよ」
「うん、ありがとう優芽」
「えへへ」
できた妹の頭を撫でてこの話を受けることにした。
そして、それこそが、俺、天使涼太の運命が動き出した時だった。