幸せとは
「あぁ、はい。」
「寝てるところ起こしちゃってごめんね。」
「いえ、お気になさらず。」
「それで、話っていうのは、適材適所って言葉知ってる?」
「ええ、知ってますけど。」
「私は仕事においてそれが大切だと思うんだよ。」
「あー、僕もそう思います。」
「でしょ。でね、君はこの仕事に向いてないと思う。」
「え?」
「向いてないよ。」
「え、ちょっと待ってください。あなたが僕を採用したんじゃないですか。」
「うん、だから採用するって。君は私の会社で働くべきだ。」
「ん?」
「だって、君には良心がある。人は殺せないだろう。」
「人を殺す…?」
「あぁ、そんなこと君にできるはずがない。」
「…確かに僕にはできないと思います。」
「ふふっ、やっぱりね。今回は奪えちゃうかなぁ。」
「おい、俺の可愛い新人になにしてくれてんだ。この腐れ脳みそが。」
「あれー?案外、早かったね。暇なの?」
え、ボスが二人…?
「暇じゃない。はやく帰れ。」
「おいおいおい、せっかく来たのにそれはないだろ。お茶くらい出してくれてもいいんじゃないか?ジャンキーちゃん。」
「…あぁ、わかったよ。向こうで話そう。」
「新人ちゃんも連れて行っていい?」
「えー今日はもう休ませてあげたいんだけど…。」
「あっ、大丈夫ですよ。全然、元気ですから!」
「ほら、新人ちゃんもこう言ってるし!」
「リア、断っていいんだぞ。すごい疲れてそうだし、過剰な優しさは身を滅ぼす。」
「あーでも、話すだけならできますから。大丈夫ですよ。」
「そうか。じゃあ、ついておいで。」
「リアちゃんって言うんだね。すごく可愛い。」
「あぁ、ありがとうございます(?)」
たぶん、この人はボスの双子の弟とかだろうか。
長い机が置いてある部屋。きっと会議室だな。
「好きに座っといて。」
「あっ、ボス。お茶出しくらいなら私がやりますよ。」
「いや、自分でやるからいいよ。」
「あっ、サタちゃーん!!!元気にしてた?私と会えなくて寂しかったでしょ?」
とボスにそっくりなあの人がサタさんに抱きつきにいった。
「いえ、別に。」
「もう、そういう冷たいところも好きだよ。」
「その顔でそんなこと言わないでください。怒りますよ。」
「お茶できたから席につけ。そして、サタから離れろ。」
「嫌だぁ、サタちゃんは今日から私のものだもんね!」
「…じゃあ、このお茶を飲み干したら、今日一日だけお前のものにしていいよ。」
「えー、そんな簡単に奪っちゃっていいの?」
「できるもんならやってみなよ。」
「ボス、私をもの扱いしないでください。」
「あはは、ごめんごめん。」
なにこの三角関係。なんか昼ドラ見てるみたい。僕はこの場所に居てもいいのか。そして、このお茶。見た目はすごい普通だ。苦いのだろうか。一口飲んでみる。
「熱っ!」
猫舌なの忘れてた…。
「ふふっ、水でも持ってくるよ。」
と冷えた水を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
「お前はあと十秒以内に飲んでね、ジャック。」
「え、だってこれめっちゃ熱そ…」
「九…」
「えー…」
「八…七…」
ゴクッ!!
「おぉ、飲んだ!」
「ふん、こんなこと私にとったら、朝飯ま…ううっ…」
「ふふっ、薬膳茶のお味はいかがかな?やっぱり、君には健康でいて欲しいからさ!…あれれ?ちょっと苦すぎちゃったかな?おーい。だいじょーぶですかぁ?」
なんかすごくボスが楽しそう。
「あーあ、お星様になっちゃった。」
えええ、星になったの!?えええ…。
「じゃあ、私が返してきますね。」
とサタさんがその人を担いで出ていった。
「…大丈夫ですかね?」
「あぁ、大丈夫だよ。不老不死だから。」
「へー、そうなんですね…。」
「ん?ここにいるみんながそうだよ。もちろん、君もそう。」
「え、僕もですか!?」
「うん、信じられないなら試してみる?」
と手に握っている拳銃が僕の頭部を狙っている。
「え…」
バンッ!
という音とともに意識がなくなった。
「おはよー。目が覚めたかい?」
「ん、なんか頭が痛い。」
ずっとズキズキと痛む。
「ふふっ、私が撃っちゃったからね。」
「え…あっ!そういえば、僕はボスに銃で撃たれて…」
「うん、死んだね。」
「え…じゃあ、今の僕は?」
「生きてるよ。不老不死なんだからさ。」
「あぁ、なんか不思議な感覚です。死んだのに生きてるって。」
「ふふっ、そうだね。」
「あっ、一つだけ聞いておきたいことがあるんですけど…」
「ん、なんだい?」
「僕は消えることはできないんでしょうか?」
「んー、どうして君は消えたいんだ?」
「えーと、それは、この世で生きるのが苦痛なんです。消えてなくなってしまいたいくらいに…。」
「君は幸せ者だよ。」
「え、どういうことですか?」
「暗闇では光が眩しいように、人は絶望の中にいる時ほど希望の光を見るものだ。そして苦痛を感じるからこそ幸せを感じている。苦痛と幸せは表裏一体。そう思わないかい?」
「あぁ、確かにそうは思いますけど、僕の人生は苦痛なことばかりでした。その考え方で言うと、たぶん僕は幸せを感じにくいんでしょうね。」
「ふふっ、そうかもしれないね。君にとって幸せとはどんなものだと思う?」
「幸せなんてただの幻想に過ぎないです。ゴキブリを見ると幸せになれるって洗脳されたら、たぶんゴキブリを見たら幸せな気分になるでしょうよ。幸せってのはそんなものです。」
「ふふっ、やっぱり面白いよ、君は。消すのには惜しい存在だ。どうか私の為に生きてほしい。君は私の幸せなんだよ。」
そう苦しそうな笑顔を見せられた。