第2話 逃げる兄、世話焼きの兄
口説くようになるまでしばらくお待ちください。
まずは紅雄兄さんが生子に好意を抱く過程です。
ゴールデンウィークが近づく頃には新しい友人もできて高校生活を少しずつ楽しめてきた。
「ねえねえ、生子は部活入らないの?」
「だって帰宅部でもいいんでしょう?」
「そうだけどさあ」
部活に『入らない』じゃなくて『入れない』なのよ。
中学の時にやっていたバスケ部に見学に行ったら、
『ようこそ、バスケ部へ』
『歓迎しますわ!』
と出迎えてくれた中に紅雄兄さんが混じっているし、足にも自信あるから陸上部に行ったらそこにも居た。
なんでもスポーツ万能で掛け持ちしているらしい。
さすがにここは居ないだろうと茶道部に行ったらそこにも居た。
師範の免状持ってるとか何者?
どこへ行っても居るから、もう部活は諦めたのよ。
『九條坂先輩は完全無欠超人って言われているのよ』
どうやら試験も2年のトップらしい。
じゃあ性格とかはどうなのよ?
とか思っていたら下校時に紅雄兄さんを見かけた。
どうしてジャージ姿?
と思ったら校門出るなり全力疾走で走り去って行った。
「なにあれ?」
「いつも周りに女子生徒がまとわりついてくるからああやって帰っているの。風紀委員として道路に広がって歩いたら危ないからだって」
何その生真面目。
「彼女とかは?」
「居ないわよ。だからみんな九條坂先輩のこと狙ってるのよ」
「もしかして萌美も?」
「私には無理無理。住む世界違いすぎるし。あの九條坂家よ?分家とか言っててもあそこ大豪邸よ」
凄いとは聞いていたけど、そんな所に住んでいるのね。
まあ、私には関係ない話よ。
そう思いながら帰宅途中の書店に寄った。
正直、私はあまり勉強が得意ではない。
だから授業についていくために参考書を買おうと思ったの。
すると…参考書のコーナーに紅雄兄さんが居た。
軽く会釈しつつ横を通り抜けようとした時、
「向井さんだよね?」
といきなり紅雄兄さんに声を掛けられた。
「え?そうですけど?どうして私の名前を?」
「バスケ部と陸上部と茶道部の見学に来てくれたでしょう?それで覚えたから」
そうか。それだけの理由ね。
私は半ば無視するかのように参考書を探し始めた。
どれがいいかもいまいち分からないわ。
「もしかして参考書探してるの?」
「ここ、参考書のコーナーだから当たり前ですけど」
と、ちょっと冷たく言ってみる。
「それもそうだね。もしうちの学校の授業に役立ちそうなものが知りたいなら教えようか?」
何?この人誰にでもこんなに親しげなの?
「別にいいです」
「そうか。ごめんね、邪魔して」
そう言うと難関高校なんたらとかいう参考書を持ってレジの方に行ってしまった。
ん?難関高校?
何で?
お読みいただきありがとうございます!
息抜きマイペースでやります。
とりあえず今日明日で少し連続更新したいです。