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視野の重なり 8

「ああ、それはいいですね、うちも経理の方は機械を入れてるんですけど、あれの操作はどうも……、アタシみたいな古い人間には向かないみたいでしてね。ヨウコちゃんやら若いのにどうにか教わって、とりあえず画面の見方くらい覚えようとするのがやっとって所ですよ」

 ずり落ちた眼鏡を不器用そうに持ち上げながら、上目遣いにこちらを見上げてくる。感情を押し殺しているうちに、感情そのものから取り残された無神経な目玉が俺の全身を隈無く見つめている。助けを求めるように横の作業服を見てみれば、一切の関心を失った表情で履歴書のコピーの端を何度となく折ったり伸ばしたりを繰り返している。そんな俺を眼鏡は特に何を切り出す訳でもなく、再び眼を履歴書の方へと落とすと何か大きく印をつけてから、トントンと机の上を鉛筆で叩いた。

「話しは飛びますが……通勤のことなんですけど、電車ですか。それともバス?」 

「今日はとりあえず電車で来ましたけど……もし決まったらバイクで通おうと思います」

 作業服の口元から漏れたのはくしゃみだろうか、それとも嘲笑だろうか。奴にもわかるように大げさにそちらに顔を向けると、作業服は悪びれる様子もなくポケットからちり紙を取り出して大きな音で鼻をかんだ。それが合図だったのだろうか、履歴書に大きく丸をつけた後、突然眼鏡の方が立ち上がった。

「まあ、本来ならここでうちの会社の概略やらなにやらをお話しする所なんだけど、ちょっと今日、社長が出張に出ちゃってて……、近いうちに電話で次の面接の日取りをお知らせしますから、それまで待っててください。それでは遠い所ご苦労様でした」

 作業服は何のことだかわからぬまま取り残される。俺はとりあえず立ち上がって、もうドアから出て行こうとしている眼鏡について茶番の舞台を後にした。哀れみを請うような作業服の視線が背中に突き刺さってくる。定員オーバーなのだろうか、俺が体を傾ける度に狭すぎる階段は哀れみを請うような悲鳴を上げた。脚が少しばかり震えているようで、その音を聞く度に俺は何度と無くバランスを崩しかけた。下りきって下の詰め所、現場から帰ってきたらしい作業着の一団が詰め所の真ん中の応接テーブルに群がって煙草を吸っている。眼鏡は彼らを無視してそのまま玄関まで早足で進む。自動ドアを滑り抜け、行き着く先は石ころだらけの駐車場、不器用に頬を歪めて笑いのようなものを浮かべると、背広の内ポケットから財布を取り出して千円札を二枚俺の手に握らせた。


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