視野の重なり 5
「……ヨシオカ……ヨシオカさんでしたよね……?」
引き戻されたように俺は眼鏡の奥の濁ったような瞳の奥を軽く覗き込んでいた。安っぽい面接会場にありがちな値踏みをするような視線だ。俺はムキにでもなった風を装って睨み返す。奴は遠近両用眼鏡の下側に俺の視線を捉え直して逃れた。
「まあ楽にしてください、すぐ始めますから」
銀縁の眼鏡、その振り返る先。急に背筋を伸ばして緊張している「ヨウコちゃん」に向けて特に抑揚のない言葉が漏らされる。
「僕の机の上、確か黄色いファイルがあったと思うけど……、持ってきてくれないかな?」
「それと、ポットときゅうす。それに僕の湯飲みもできれば……」
二人の言葉を聴き終わることもなく「ヨウコちゃん」は扉の向こうへ消えて行った。ようやくパイプ椅子を片づけ終わった作業服は、事務的な緊張には慣れていないのか、しきりと狭すぎる椅子の下で脚を組み替える。その度にパイプ椅子と机は鈍い悲鳴を上げて、奴は情けなげな笑みで眼鏡の方を同情を誘うように眺めてみせる。眼鏡は目の前の湯飲みに何度か手を伸ばしかけては、胸のポケットに入れた煙草の箱を取り出したりしまったり、時に立ち上がって灰皿を取りに行こうとする作業服を目で制すると、今度はボールペンを取り出して意味も無くノックする。
「……遅いなあ。確か、机の上に置いていたはずだけど……、そうだゲンさん。明日の予定表だけど、四時までにはどうにかならないかな?社長が帰ってきたら見るっていってたから」




