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視野の重なり 3

「あっ、ちょっと済みませんね」

 とりあえず挨拶でもしようと頭を下げかけた俺を残して、作業服は外に向かって駆け出していった。見れば今にも出掛けようとしていた軽自動車の天井を軽く叩いて、先ほどの事務員となにやら話し込んでいる。迷惑そうな顔が、フロントガラス越しにこちらからも伺える。作業服はありがちな笑みを浮かべて手を合わせる。彼女はいらだたしげに薄いドアを思い切り閉めるとこちらに向かってきた。

「早く!早くしてよ。……ああ、別に上着はそのままえいいから。それよりお茶、お茶入れてくれよ。ああ、すいませんね。なんだか妙な所見せちまって。ちょっと、こっち、来てくださいよ」

 手にした上着を机の群れの上に投げつけて奥の給湯室に消えて行く事務員を無視して、作業服は先ほど階段へと向かった。奴のガニ股にくっついて、狭苦しい通路を潜り抜け、安物のタイルの貼られた階段を身をかがめるようにして昇る。体を傾けるだけで軋むような安普請を気にしながら、その名には相応しくないほど狭い踊り場を抜けて、ヘルメットの並んでいる廊下を通り過ぎ木目がわざとらしい扉に突き当たった。

「入るよ」

 開いた扉の隙間から聞き慣れたテレビタレントの浮ついた笑い声が聞こえてきた。作業服は一声唸って小走りで奥の方へ急ぐ。俺はその後ろに続いて申し訳なさそうに部屋の中に入った。雑然と長椅子の並べられた部屋の中で、事務屋のような眼鏡の男が、のろのろと食いかけの弁当をロッカーの上に運んでいる。

「いやあ、すいませんね。こういった職場だとどうしても男ばっかで、人目を気にしたりすることもないもんだから……。休憩室なんて名前で呼ばれたりすると、すぐこうなっちゃう訳ですよ。まあ、しばらくそこの椅子にでも座っててください」



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