視野の重なり 2
そいつから眼を離して左右を見回してみたのは、ここまで来た理由があったというだけだ。門柱のつもりだろうか、一組のありふれたコンクリートブロックが突っ立っている。幾重にもつけられた引っかき傷のようなものの上に「海浜十三ー二十三」と機械的な記号を刻んでいる紺色のブリキの板が打ち付けてある。中に入れば巨大に過ぎるクレーン車の群れが誰かの帰りを待っているように砂利の敷き詰められた駐車場の上に佇んでいる。細かい砂利は踏みしめると水を含んで、靴の動きに抵抗するようにじわじわと白い敷石を黒く染め上げる。俺は帰ろうとする足を無理に引きずりながら機材置き場を通り抜けて、ひび割れだらけのコンクリートの上に出た。建設会社のロゴの入った軽自動車が一台停められていた。そこではスカイブルーの上っ張りの女の事務員が何かに躊躇しているように隣で突っ立っている。女は俺を見つけると驚いたように軽いお辞儀をした。眼の大きな女だ。顔を上げた女に俺が感じたのはそれだけのことだった。彼女も別に俺の様子を気にするようでもなく、背伸びを何度かして後ろのプレハブ作りの事務所を覗き込んだ後、ようやく手に握られていたキーを軽自動車のドアの鍵穴へと差し込んだ。俺はままよと埃に白く染め上げられたタイルが気になる玄関口に足を向けた。油が効いていないのか割の重いアルミの扉を開き、当たり前のように置かれた観葉植物の脇をすり抜ける。正面の、テーブルともカウンターとも付かないようなついたての上には、受付と書かれたプラスティックのカードが置かれているだけで人影も無い。ブルゾンのポケットからしわくちゃの履歴書と職安の案内状を取り出してそれを机の上で押し広げてぼんやりと佇む。耳を澄ませば表通りをまた何台か大型車が通り過ぎていく音が聞こえてくる。ついたてで仕切られた角を過ぎた階段の裏側から、トイレか何かに行ってきたのか、薄鼠色の作業着で濡れた両手を拭いながら、男が一人、偶然とでもいうような顔つきで転がり出た。頭の禿かかった、見たところ五十がらみの現場監督だろうか、あくびと共に顔に出た笑みを急に消し去ったかと思うと、受付に立ち尽くす闖入者に驚いた様子で駆け出してきた。




