視野の重なり 15
俺はそう呟くと、静かにカップを手にとってそれのたてる静かな香りを鼻に吸い込んだ。彼女は目の前のグラスを横に動かして、雑誌を俺からも見えるような感じで広げた。そして見上げてくる。口元、微かな笑み。
「感想とか……、正直な所でいいんですよ。別の遠慮なんかなさらなくても、何か思いついたこととか、触発されるような所とか……」
その言葉のたどたどしい所は、俺の口元の皮肉を込めたような歪みのせいだろうか。茶色い髪のウエートレスがいかにも重そうに運んできた頭でっかちチョコレートパフェを受け取りながら、遠慮がちに俺の方を覗き見る。俺は言い訳でもするように再びコーヒーカップを手に取って静かにその中の沈殿物を飲み干した。目の前にしたパフェと雑誌を見比べるようにして、ただ手にしたスプーンで文字とも記号ともつかないものを空中に描いている。矢継ぎ早のありきたりな比喩を交えた質問や、一種の論理のすげ替えを期待していた俺にとって、そんな彼女の姿は意外だった。何かを隠すように額や頬を無意識に触る手つきが痛々しい。僅かに震えて見える瞼の下に浮かんだ後悔。止めどなく押し寄せる問いをスプーンを口に運んで誤魔化してみせる。
「これも『巡り合わせ』って奴じゃないですか?」
「ヨウコちゃん」は一瞬安心したようにこちらを見上げた。まるでその姿に引きずられるように頬の端が引っ張られるような感覚にとらわれる。彼女はすぐに目つきをいかにも軽蔑するように細めた。彼女が何かを言い出す前にちょいと眼を反らせば茶色い髪のウエートレスがそんな俺達の横を通り過ぎて、まるで葬式の帰りとでもいった悲壮でわざとらしい高校生の群へ与える餌を運んで行く。




